55 / 160
絢爛!思いの丈!
召き喚ぶ
しおりを挟む「あー!あのおっきいん戦艦の艦長ワンオペだ!あとはロボットだけだん!」
「ニャめやがって!一泡吹かせちゃる!」
「みんな!これは久しぶりだけどよろしくね?」
オドデウスとソイガター、そして折子がヒメナの体で全員を鼓舞した。
「!」
そして宇留にも、知らない奥技の概要が折子から想文で着想した。
「······これは···!」
アンバーニオンが展開した巨大な琥珀のリング。
そのただならぬ雰囲気を察知した三機の大アクプタンは、ヴェスフィンプを護るようにユラリと三角形の天面を前方に向けながら船体の前に回り込み、三点のトライアングル形に配置を完了した。
やがて大アクプタン達は、ヴェスフィンプの前でそれぞれが時計回りに自転と公転を始めた。
その開けた中心、艦首の寸前に赤いエネルギーのフィールドがジワリジワリと浮かび上がり始める。
「上等だアンバーニオン!大技同士の勝負!受けて立とうぉょー!」
興奮するボクモス。
しかし琥珀のリングが放つ通信妨害によって、アルオスゴロノ帝国からの緊急通信が届かなかった事にボクモスは気が付かなかった。
ヴェスフィンプは艦首をゆっくりと赤いエネルギーフィールドへと押し込んで行く。すると艦首に備わった円柱形のユニットの装甲板がひしゃげ、ドリルビットの先端のように螺旋状にメキメキと歪んで形を変えていく。
「我らが完全勝利の為に!アルオスゴロノ祝砲!発射ぅあ!」
ボクモスの号令に従い、自転と公転の速度を上げながら中央に寄った大アクプタン達は、ある一点のタイミングで赤く光る艦首を機体の先端を用いてサクッと切断した。
ドンッッッ!
艦首が弾丸のように射出され、その衝撃波によってヴェスフィンプの巨体は反動で後方へと押し返される。そして同時に大アクプタン達は、綺麗に三つ巴方向とも言うべき方向にそれぞれ弾き飛ばされながら燃え尽きていった。
折子の想文を完全に理解した宇留が意識を集中すると共に、アンバーニオンの操玉は凄まじい輝きに包まれた。
ヒメナと折子こと琥珀の短剣も、ソイガターも、オドデウスも、光の粒子に変わって宇留の体に流れ込んで融合する。
宇留の目と髪は琥珀色に変わって輝き、集いし力の中心を睨むように真剣に見つめた。
「過剰思重合想!召喚!アンバーキメラッ!!」
琥珀のリングの内側から、縁を掴んでいた琥珀の爪の持ち主。
宇留の一声を待っていたかのようにリングの中からグバッと伸びたその超巨大な腕は、凄まじい瞬発力でヴェスフィンプの祝砲弾をキャッチして握り潰した。
グゴゴゴルル···!
まるで耳元に獣の口があるかのような大音量で、エコー掛かった唸り声が周囲に響く。
爆発を握力の内部に封じ、閉じていた鋭い琥珀の爪が開くと同時に、琥珀のリングが更に拡張してもう一方の腕がリングを内側から掴む。
そしてその中央から、琥珀の怪獣の頭部が現れた。
琥珀の怪獣は、青空を突き貫く勢いの勇壮な咆哮を上げる。
ジェオオオオオオオオオオオオオゥ!
頭頂部から前方に伸びた巨大な剣のような琥珀の一本角と琥珀の外骨格。
顔は爬虫類とも肉食獣とも鳥類ともつかないイメージ。
その体躯の半分はまだリングの中の異空間にあって全体像はまだハッキリと見えないが、背中には琥珀の翼を持ち、どうやら地上であれば四足歩行するスタイルのようだ。
アンバーニオンはリングの下で右手を縁に向かって翳し、リングとアンバーキメラに力を注いでいるかのような体制でフリーズしている。
待ちきれなさそうにリングから飛び出したアンバーキメラは一拍置いて琥珀の翼を広げた。
その翼長は千メートルを余裕で通り越し、アンバーキメラが前進する度に、胴体と同じ太さの尾がリングから無限に続くかの如く伸び続けている。
ヴェスフィンプの全砲門を解放した斉射が体表を叩くのを蚊程にも気にする事無く、アンバーキメラはヴェスフィンプに肉薄する···
「アレ?!」
ボクモスは至近距離で確認したアンバーキメラの予想外の大きさに困惑していた。
全長二百メートルを越える船体よりも巨大な頭部。そしてその顎は今まさにヴェスフィンプを噛み砕こうと大きく開かれていた。
「···あぁ?キレーだなぁ······」
何故かボクモスはタカアシガニの仮面の表面に大汗を滲ませながら、迫るアンバーキメラの美しい琥珀の牙に見惚れてしまっていた。
バグンッ!ドキュッッッッッ!
ヴェスフィンプを噛み潰したアンバーキメラの牙の隙間から白い爆煙が溢れ出る。
空かさず開いた口部から、ドライアイスで出来たような巨大なスクラップになったヴェスフィンプが海へと落ちて行く。
グォ!ジェオオオオオオオオオオ!
低い音を響かせ、ドボドボと着水したヴェスフィンプの残骸を一瞥したアンバーキメラはもう一度咆哮した。
すると翼を畳み、膨らんでいた体を縮ませながら、スルスルと琥珀のリングの中へと逆再生のように戻っていくアンバーキメラ。
最後に頭角の剣がリング内のゲートに吸い込まれると同時に、内側からパキンと二つに断ち切られた琥珀のリングは、それぞれが螺旋を描いた紐状になってアンバーニオンの肩アーマーの琥珀柱基部に戻り、通常状態の琥珀柱がシュルシュルと編み上がっていく。
「······イイモン見た······」
思重合想の高揚感覚めやらぬ鈴蘭は、裂断をアンバーニオンから遠く引き離して周回飛行させながら、一部始終を眺めている事しか出来なかった。
だが、まるで当たり前のように並んで飛ぶエゴザーガに気付いた鈴蘭のイライラは瞬間的に沸騰した。鈴蘭はジト目で隣の敵を睨む。
「いら···」
オレノマケダ キレ
投光信号。
「いらいら!」
鈴蘭の意思に答えるように。裂断は一切推進力を用いないノーモーションで、いきなり横を向くというあり得ない動きをした。
「え!?」
それを見たハグスファンの背筋が氷結する感覚に陥ると同時に、鳴り響く接近警報。
シャキン!
エゴザーガの両脇を何かが通り過ぎた。
「うわあああああ!」
透明な二つの飛行物体。
両断されたそれの片方、機械の塊のような“断面„には、コックピットに座ったボクモスが驚いている姿があった。
「ひえええ!」
シンギュラリティを迎えた裂断の神カットに割られたヴェスフィンプの脱出艇は、海に向かって高度を下げて行った。
「ボクモス!勝手に将軍名乗ってるくん···まさか俺にトドメを······?」
バギン!
ハグスファンが推測していると、エゴザーガの両翼も斬られて折れた。
「···無益な殺生はせぬとか無いのかよ?」
裂断のコックピットで鈴蘭がキャノピーとヘルメット越しにあかんべーの仕草をする。
バイビイ
裂断は投光信号でそれだけエゴザーガに伝えて、ハグスファンの頭の上を飛び抜けて行った。
高度を落とすエゴザーガのコックピットから緊急脱出したハグスファンは、水平線を眺めながら物思いに耽る。
「···陛下···自分もうあなたと想文飲み出来ないっす。色んな話出来て楽しかったっすけど、ここまで、ここまでっす!」
ザヴァ!···ォロォォォ···!
ハグスファンは着水の瞬間。海上に現れた怪獣、ビィヴァの口部に吸い込まれて行った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる