神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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絢爛!思いの丈!

葉と刃

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 C県、鍋子市の南端。

 程好く海風が吹く夏の海辺に下りた人々は、遠くに見える白い灯台を時折眺めながら磯遊びに熱中している。

 そのすぐ側にある質素で古風な住宅街の中心に、いきなり現れるほこらのような小さな神社の内なる異空間。
 
 黒を基調とした新しい衣服に袖を通し、背筋を伸ばしスッと軽やかに歩くゲルナイドこと月井度つきいど アラワルは、正座で座るヌシサマを初め、その後ろに座る二人の猫仮面巫女の前に正座して所作の美しい座礼を披露した。

「お世話になりました。このご恩は生涯忘れません!」

 ヌシサマは現が頭を上げるまで微笑みながら待ち、現が目線を合わせると同時に黙って頷いた。

 真剣な表情でヌシサマ達を見つめ返す現の顔の傷痕は消えて無くなっている。

 これまで整った顔立ちに今一歩不安な影を落としていた原因は消え、まだ幼いながらも自信と青春の輝きが同居するたくましい眼差しがヌシサマ達に届いた。

 
「···本当に、元気になってよかった。まぁこれま···でと言わず、こんな社でも実家と思っていつでも来るといい」
「はい、ありがとうございます···」

 冷静な受け答えの合間に、二人共に時々声が上ずる。それに気付いた猫仮面の巫女達の仮面に付いた小鈴も、微かにシャララと震えていた。

「これからどうするつもりなのだい?」
「···本当の自分···の事は理解しました。ですが、僕が今日こんにちここに至るまでの経緯ことを、恩獣道師せんせいに尋ねたく思っています!」
「そうか···」
「!」
 何の前触れも無く、現の上着のポケットがズシッと重くなる。
「?」
餞別せんべつを用意した。海に潜るのだろうから硬貨ばかりで申し訳ないが、どこかで上質ないいお茶でも飲んでから行きなさい」
「ヌシサマ···!、本当にありがとうございます!」

「フフ···今生の別れでは無いのだ!いつも通り、出掛けるように旅立ちなさい···」

 ヌシサマの後ろで、巫女達が同時に微笑み手を振った。

 · 
 ·
 ·




 現が気が付くと、彼は祠に通じる階段の中腹に、入り口の鳥居を見下ろす方向を向いて立っていた。
「···!」
 振り返り、祠に向かって微笑み再び一礼する現。その時···

 前回最終履歴目標反応!
 リトライしますか?

「!!」
 現の脳内に、警戒中のクラゲ型ビットからの通信が入った。
 現が東の方向を向くと、遠くに光る何かが飛んでいる。
 それが何かと確認しようとすると、視界が勝手にズームアップして移動する光を捉えた。
「アンバーニオン!?」
 現の視界には、移動する光点に〔〕のカーソルが当たったままで一緒に移動し、カーソルの下面には、目 標 ターゲット 、と赤い文字が添えられて映っている。

「?、こっちに来ない?·····むぅ···こちらマスタープログラム···、標的目標への対応一時解除、保留する!」

 保留了解。作戦を一時中断。警戒継続。

 現は北へ向かうアンバーニオンの光を黙って見つめていた。

「アンバーニオン、須舞 宇留、ゴライゴさま、コティアーシュ姉ちゃん、···委員長···俺はまだ自分が完全にわからない。待っててくれ!いつか、いつか必ず!」

 取り敢えず現はゴライゴの元へ向かう前に、ヌシサマのオススメ通りに良いお茶を飲もうと決断し、階段を降り始めた。
 
 








 二つの飛行機雲が寄り添って並び、青空に白い航跡を伸ばす。
 ところが片方の飛行機雲は千切れ千切れになりながら、自身の描いた白い帯を崩した。

 裂断vsエゴザーガの決闘。

 超高速で回転飛行を開始したハグスファンの乗る戦闘機、エゴザーガは、フラフラと横にブレながら飛び、鈴蘭の駆るつるぎの戦闘機、裂断を追い詰める。

「とお!」

「何!?」

 裂断は見えない巨大な手でつまみ上げられるように、ヒョイと急上昇した。
 一瞬減速し、エゴザーガのやや後方上空から蜂の毒針を落とすように、展開したテールアームの先に付いたソージウムブレードをかざしながら敵目掛け元の飛行軌道へ戻る。
「なりゃくそ!」
 エゴザーガは横方向にパタパタと連続でひるがえりながら、裂断の急降下串刺しをかわした。

「くあ~!中途半端に器用な!」

 ボヤく鈴蘭は機体を立て直し、今度はこちらから追い込みをかける。
「ん?んん~?!」
 ふと一瞬、遠くの入道雲に視線を向けた鈴蘭は視線を戻す。
 
 入道雲の手前、大小の黒い点が不自然に浮かんでいる。

「ナンジャアリャ!」

 鈴蘭がそう言いながら横を見ると、エゴザーガも呆然とした雰囲気で裂断の僚機のように並んで飛んでいた。
「増援!やっぱり罠じゃねぃか!···」
 堰は決壊し、イライラの奔流が鈴蘭の口を突いて出ようとした時、回転飛行から通常飛行に戻ったエゴザーガから投光信号がパパッと輝いた。
「ん?うわ懐かしい事を···えー···なになに?」
 鈴蘭は解読しようとしたが、裂断のAIの方が早く解読した。
 信号の内容が裂断のディスプレイに表示される。

 オ レ ジャ ナ イ
 キ イ テ ナ イ



「はぁ?」

 裂断とエゴザーガは、近付いてくるアルオスゴロノ帝国空戦隊を黙って待ち構える······






















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