49 / 201
月影の帰還
抜き足
しおりを挟む「剣を引っ込めろ!委員長がびっくりしてるだろ!」
NOI Zは自身よりも大きな体を持つロウズレオウに臆する事無く、互いに剣の切っ先を向け合ったままで叫ぶ。
「つ!月···井度く···ん?!!」
マユミコ委員長の表情が控えめな感激に解れた。
悪党の魔の手から自分を救いに来てくれた変な虎バイクに乗った黒い騎士の正体。
その声はかつてクラスメートだったミステリアスな少年。
まさかのフィクション的な展開に、急上昇したマユミコ委員長の女子冥利に尽きるとも言える感情は高まり、悪い大人達に冷やされた心は、短い時間で満遍なく暖まった気がする。
「その声、スマイ ウルの護衛をしていたあの時の紳士とお見受けする!」
〔え!ええー!、し、し、紳士ぃ?、い、いやあ参ったなぁ~?し、紳士、紳士なんて初めて言われちゃったヨォ!いやあ···ウレシ···オゴッ!〕
NOI Zの問いに、ロウズレオウから共上の満更でもない嬉しそうな声が聞こえ、そして脇腹を肘で小突かれたような声でセリフは止まる。
〔···そ、そりゃそうだな?〕
ロウズレオウの剣の切っ先は、少しだけ向こうにスッとずれた。どうやら警戒は完全に解かれた訳では無いらしい。
「···委員長、大丈夫?」
ロウズレオウが剣を引くのを確認したNOI Zは、マユミコ委員長の方へ振り返った。
「うん!···でも···」
ロウズレオウのコックピット。
パイロットスーツの共上の頭上からスフィの声が響く。
「集まって来てる」
「ああ!何だこの数は···目に見えない場所にも居るぞ···?!」
ロウズレオウの感覚は、NOI Zを中心に集結しつつある多数のクラゲ型ビット達の気配を捉えていた。
コックピットのディスプレイには、マユミコ委員長と向き合うNOI Zが映っている。
「病気?」
NOI Zは握っていた黒い剣をクラゲ型ビットに戻し、宙に解き放ちながらマユミコ委員長に聞き返した。
「うん、月井度くんがあの怪獣に食べられちゃったせいで移っちゃった病気に、月井度くんから今度は私に感染してますよって?」
NOI Zは車の中で気絶している根継桁を睨んでから呟く。
「おかしいな?俺達の病気には人と共通の病気なんて無いって一応聞いてるんだけど?」
「え···え?」
マユミコ委員長は、気絶している根継桁を一度睨み、まだ素顔を晒さないNOI Zの仮面の中の現の顔を二度見する。
「そうだぞ?お嬢さんからは病気っぽい匂いなんてしねーぞナ?」
「ひあ!」
マユミコ委員長はいつの間にか背後で自分の背中に鼻を近付けていたソイガターに驚いた。
「あー!大丈夫大丈夫!俺もスマイやマルカのトモダチだ!」
「え!え?磨瑠香?須舞くん?···の?」
〔虎センセェよ!ひょっとしたらそれ秘密だったんじゃねーの?〕
ロウズレオウの呆れたような視線がソイガターに降り注ぐ。
「え、マジで?」
「虎さん?月井度くんも···一体これって?須舞くんも、って?」
マユミコ委員長はソイガターとNOI Zを交互に見た。
「ニューん?、まぁそれはオイオイ分かってもらうとしてだなナお嬢さん。君を心配してる声が多方からボチボチ。マルカからも俺のトモダチを通してリクエストがあったし、ご両親の所にも今頃そのトモダチが駆け付けてる。それにゲル···じゃなかったボーズ!お前の事はヌシサマに頼まれた!ったく心配させやがって!」
「!···ヌシサマ!」
NOI Zは遠く、鍋子市の方を眺める。そして再び視線をマユミコ委員長の方へ戻し、片膝を地面に突いてマユミコ委員長と目線の高さを合わせた。
「!」
「···委員長!ごめん!全部俺のせいだったんだ!本当にごめん。迷惑をかけてしまった······」
「月井度くん···」
「俺、本当は人間じゃ無いんだ。怪獣···なんと言うかあの怪獣も俺の体で······みんなにもいつか謝らないと···でも本当は怪獣でもなかった。分かっちゃったんだ。この体···俺は···」
うつむいてどんどんと口数が減っていくNOI Zの肩アーマーに、マユミコ委員長がポンと手を乗せた。
「!」
「分かった!今はもう大丈夫だよ!···ありがとう!助けてくれて!···また、また学校にきてね?」
マユミコ委員長はフワッとNOI Zの肩口に抱きついた。
「······」
NOI Zは黙ってその抱擁を受け入れた。
黒い鎧の中で、人間の遺伝子をほぼ完全に再現した体が安心感に包まれる。
その更に奥。
現の深奥に座する意思は、その現象に深い敬意を表した。
「委員長······」
自身から体を離したマユミコ委員長を見つめるNOI Z。
遠くからサイレンの音が聞こえ始める。
「ん?右ハン?オートマ?外車っぽいのに外車じゃナサソーだナ?変ナ車!」
ソイガターは割れた助手席側の窓から頭を突っ込み、根継桁の車を覗き込んでいた。それは二人の邪魔をしないようにと、間を持たせる為の気遣いだった。
根継桁は意識を取り戻していたが狸寝入りを決め込み、ソイガターを刺激しないようにしている。しかしそれは既にバレており、根継桁はグコルル···とイタズラっぽく唸るソイガターにビクッとする体を押さえ込もうと、必死で耐えていた。
「ソイツがエシュ···カギムラアガトのアニキ?」
「!」
高速道路上に向けられたロウズレオウの毒恋丸の切っ先の影から、片言の日本語で喋るブロンドの美女。スフィが歩いて来た。
「?」
〔キーヴィレイブ研究所元副所長、根継桁 程九部長···旧姓、鍵村 程九。エシュ···鍵村 跑斗の兄。これまで色々あったようで?お察しするよゴクローサン?。ねぇスフィさん?そこで寝てる女、多分アイツじゃね?なんだっけ!?アレ!ホラ!?〕
「ハイハイ···」
ロウズレオウを通して共上がコメントする。
「え?コイツがヤツのアニキぃ?オーラ無ェ~!匂いも違うぞ?」
「え!!」
「うわ!起きてやがった!」
匂いが違う。という言葉に驚いて狸寝入りを解除する根継桁。どうやら彼自身のある長年の疑問にソイガターのせいでメスが入ったようだ。
「虎チャン?家庭の事情家庭の事情···」
ソイガター達に近寄ったスフィが、今度は流暢な日本語で素のツッコミをした。
「あ!ヤベ!なんかゴメンナ?」
〔フッフッフッ、どうやら鍵村家はまた大変な事になりそうですなぁ?〕
ロウズレオウから聞こえた共上の声に、立ち上がったNOI Zが視線を返す。
〔ん?〕
「···今の俺には、誰かに危害を加える目的も行動目的は何も無いし、俺は逃げない。居場所ならスマイ ウルかこの虎に聞いてくれ!」
〔······ふぅ!···信じて···良いんだな?〕
ヴワッ!
ロウズレオウは毒恋丸を持ち上げ、背中の鞘に納刀する。
「さ!アッチの非常扉へ行きましょうカ?私達は大丈夫よ?」
スフィがマユミコ委員長の肩に触れた。
「!、月井度くん!」
「···委員長、俺、しばらくあの港で海を見てるから。また······それに、俺の本当の名前は···ゲルナイドだ···」
「···私も!マユミコでいいよ?···」
徐々にこちらに向かって来るパトカーのサイレン音が大きくなってくる。
「じゃあ琥珀の虎!ありが···とう」
「グォウ!!元気でナ!」
NOI Zは名残惜しそうに二~三歩後退すると、数機のクラゲ型ビットを引き連れ高く跳躍し、高架橋の下へと消えて行った。
〔じゃスフィさん!その子よろしく!〕
フッと宙に浮かんだロウズレオウに、スフィはビッ!と親指を立てた。
ロウズレオウはオレンジ色のマフラーを翻して垂直上昇し、まるで今までそこ居たのが夢だったかのように一瞬にして見えなくなる。
その間にソイガターも姿を消し、マユミコ委員長とスフィも非常扉から下に降りて行った。
「······」
まだまだサイレンの音は遠い。
根継桁がコソッと車を抜け出そうとした時、ボン!とエンジンルームが軽度の爆発を起こしてフロントガラスが割れた。
「ヒ!ヒィ···!」
結局、根継桁は駆け付けた警察の対テロ部隊に確保されるまで、車の中で腰を抜かしていた。
キーヴィレイブ研究所。
資機材保管庫ルーム。
階下の広場前からはサイレンがうっすらと響き、人気の無くなった研究所。
倉岸は、無遠慮に細かい機材を物色していた。
ヴァンン!
保管庫ルームの扉が乱暴に開かれ、大男、ベデヘム3中枢活動体が侵入して来た。
そしてそのままゴツゴツとリノリウムの床にブーツの底を当てて歩き、倉岸の居る薄暗いブースに近寄った。
ゴソッ!
「!、ヌ?」
ベデヘム3が“掴んだ„と“思った„のは倉岸の肩では無く、ラックに立て掛けられた段ボールを紐で括って纏めたものだった。
ベデヘム3の背後を影が平行移動で通り過ぎる。
「!ーー」
その影を追うベデヘム3。しかし誰も“居ない„。
「オマエベデヘム三号か?懐かしいな?」
「どこだ!」
ベデヘム3は周囲を見渡しているが、すぐ近くで機材をリュックに放り込む倉岸の姿が見えないらしい。
「なんだ?今の帝国は零存在感迷彩の対策もしてないのか?こんなのぁガキが作った急造品だぜ?」
倉岸はリュックのチャックを閉める。
「!」
ベデヘム3は音、匂いも頼りに保管庫を歩き回るも、いつまでも倉岸を捕まえられない。
やがて扉が閉まる音がした。
部屋を出たのか?出て居ないのか?ベデヘム3は潔く諦めた。これ以上はもうそれすらもわからないのだろう。
ベデヘム3は廊下に出た。誰も“居ない„。
「やはり、エブブゲガ···様···なのか?」
廊下の壁に背中を預けて立っている倉岸の横を素通りし、ベデヘム3は保管庫を後にした。
それを見送った倉岸は液晶懐中時計のような機械をポケットから取り出し、89%と表示されている画面を満足そうに眺めた。
「ヘヘハァ!いいぞNOI Z!お前は···戻って来たんだ!」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
神樹のアンバーニオン
芋多可 石行
SF
不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。
彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···
今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。
『星屑の狭間で』(対話・交流・対戦編)
トーマス・ライカー
SF
国際総合商社サラリーマンのアドル・エルクは、ゲーム大会『サバイバル・スペースバトルシップ』の一部として、ネット配信メディア・カンパニー『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』に於ける、軽巡宙艦艦長役としての出演者募集に応募して、凄まじい倍率を突破して当選した。
艦長役としての出演者男女20名のひとりとして選ばれた彼はそれ以降、様々な艦長と出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦う事にもなっていく。
本作では、アドル・エルク氏を含む様々な艦長がどのように出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦い合いもしながら、その関係と関係性がどのように変遷していくのかを追って描く、スピンオフ・オムニバス・シリーズです。
『特別解説…1…』
この物語は三人称一元視点で綴られます。一元視点は主人公アドル・エルクのものであるが、主人公のいない場面に於いては、それぞれの場面に登場する人物の視点に遷移します。
まず主人公アドル・エルクは一般人のサラリーマンであるが、本人も自覚しない優れた先見性・強い洞察力・強い先読みの力・素晴らしい集中力・暖かい包容力を持ち、それによって確信した事案に於ける行動は早く・速く、的確で適切です。本人にも聴こえているあだ名は『先読みのアドル・エルク』
追記
以下に列挙しますものらの基本原則動作原理に付きましては『ゲーム内一般技術基本原則動作原理設定』と言う事で、ブラックボックスとさせて頂きます。
ご了承下さい。
インパルス・パワードライブ
パッシブセンサー
アクティブセンサー
光学迷彩
アンチ・センサージェル
ミラージュ・コロイド
ディフレクター・シールド
フォース・フィールド
では、これより物語が始まります。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる