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月影の帰還

妖 刀

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 高速道路は目に見えて車の数が減り始めた。
 封鎖が始まったらしい。

 根継桁は焦っていた。
 嘘や人脈、コネを使って人は騙せても、ここまで騒ぎが大きくなってしまっては都合が悪い。この先、方々からの重いツケが付いて回るだろう。
 そして、所詮は大きいだけの動物と高を括っていた怪獣の強い社会性と敵対してしまったという将来的な不安。
 怪獣人間ゲルナイドを釣る為のエサだった少女マユミコも、今や殺されない為の盾にするしか無い。

 根継桁の心理に自暴自棄の影が忍び寄る。
 そしてもう既に車の速度は150キロを超えていた。

「フフ、ハ、一回貸し切ってみたかったんだよ!高速道路!」

 マユミコ委員長は不本意ながらも、ゴミを見るような目で根継桁の方を見た。
 だがその時、何かに反射した光が車内に射し込み、マユミコ委員長の視界を浄化する。


「!」
 車内で振り返ったマユミコ委員長の視線の先には、オレンジ色のバイクに乗った外国のダークヒーローのような怪人が、夏の逃げ水の上を猛追して来るのが見えた。

 バイクの怪人から悪意は感じない。
 むしろ自分を引き連れ回しているこの大人達の方が怪物に思える。
 理由はわからないが何故か目が涙で潤んだ。
「あぁ···!」

「チ!」
 マユミコ委員長の視線の先に居る存在に女性スタッフが気付き舌打ちをした。
 シートベルトを外し、体を後ろに向け、運転席側リアシートのヘッドレストを女性スタッフが外すと、そこには操縦かんのようなスティックが二本隠されていた。
 女性スタッフは折り畳まれていたスティック基部をガチャリと二十センチ程手前に引き出し横にも広げ基部をロックする。
「!」
 根継桁は更にエンジンを吹かしながらトランクの解放レバーを引く。
 するとトランクの接続基部は火薬の点火によって弾け飛び、内部から軍用機関銃が姿を現した。

 バグァン!

 NOI Zは道路上を跳ねて飛んで来たトランクハッチを裏拳で弾き飛ばし、改めて根継桁の車の後部を睨む。
 女性スタッフはその視線に呼応するようにスティックのトリガー引いた。

 ギャダダダダダン!

 放たれる機関銃の弾丸。


 しかしそれらは全て、飛来したクラゲ型ビットが複数合体した盾によって防がれ、NOI Zとジェットラマイガーに当たる事は無かった。
 防御を終えたクラゲ型ビットは再び散開し、再攻撃に備えるかのように追随飛行に戻った。

ニャンだよ?あんなの当たったってどーって事ニャイだろ?」
「減速はする。それは困る」
「ニャハハハ!しかし俺ぁ、アーユー超昔のアクション映画みたいなトンデモギミック嫌いじゃナいぜ?」

 ギャダダン!
 ゴギャッ!

 次の発砲で進行方向の路面が砕ける。
 しかしジェットラマイガーはギリギリ余裕で回避する芸当を見せる。

「·!·····」
 女性スタッフが精密狙撃に入ろうと集中していると、無数のクラゲ型ビットが連続パンチをするようにバキバキと機関銃を上方から叩きのめし、スクラップにしながらトランクの中に詰め込んでいく。
「!······」
 その衝撃で割れたリアウィンドウ越しに女性スタッフが見たもの。
 NOI Zを乗せたジェットラマイガーは、時速200キロに迫ろうとする根継桁の車の後方、五十メートルまで迫っていた。

 グッッ!

「お!つ!」
 根継桁の車がブレーキを踏んでいないにも関わらず急減速した。運転席で前のめりになる根継桁。
「ぁあ!何だよ!何なんだよ!!」
 クラゲ型ビットが四機。全てのタイヤの中心軸付近に一機づつ取り付き、車体の内側に向かって圧縮を開始した。
 タイヤの回転数が減少し、みるみるスピードは落ちるものの、それでも70~80キロを維持して未だ走り続ける根継桁の車。メキメキとホイールが悲鳴を上げて初めて、根継桁達は攻撃されていた事を悟る。
 
 そして車の左サイドに、ジェットラマイガーが追い付いた。
 速度を落とし、NOI Zは黙って前を見ながら並走し根継桁にプレッシャーを与える。

「くっっふ!」
 怒りと困惑が混ざった表情でNOI Zを見ていた根継桁の視線の先で、ジェットラマイガーは僅かに減速する。

 ココンコンいいんちょ?

「!!」
 NOI Zが後部座席の窓をノックした。
 何かを察したマユミコ委員長は、ドアの取手に思い切りしがみつく。
 
 並走しながらそのまま前ドアの橫まで少し進んだジェットラマイガーに乗ったNOI Zは、拳で強化ガラスの前ドアウィンドウを殴り破る。
 そして上から前ドア部分を掴み、下に向かって押し付けた。

 ヴァン!
「がっ!」
 根継桁はエアバッグに殴られ、鼻血を出しながら失神する。

 一気に車全体にブレーキがかかり、けたたましいスキール音と共にタイヤからは白煙が上がり、押さえ込まれた右前輪のタイヤがバーストし、車は停車した。



「はーい!お疲れサン!」

 立ち上る白煙の中、NOI Zがジェットラマイガーをヒョイと乗り捨てると、虎のバイクはソイガターとクラゲ型ビットの群れに分離し、根継桁の車前方五メートル程に着地した。
 NOI Zが車に迷い無く歩み寄る。
 後部座席の扉がガパッと少し開いて止まる。車体が歪んで開けづらいのか?と現が思ったのも束の間。ドアは内側から女性スタッフの蹴りによってバン!と開かれる。

「!」

「近寄るな!」
「ううう!」
 怯えるマユミコ委員長を盾に、女性スタッフが銃を持って車から出て来た。
「やれやれ···テンプレ定食定食···」
 その光景を見たソイガターが呆れたようにコメントする。
「······」
「オトモダチがぁ!酷い目にあってもいいのカシ······ぃ···?」
 黙って二人を見ていたNOI Zの前で、女性スタッフだけが気絶してマユミコ委員長にしなだれかかるように地に伏した。
「え?」
 倒れる女性スタッフを不思議そうにみていたマユミコ委員長の視線の先。女性スタッフの首筋から黒いクラゲが浮遊して離れて行った。

 遠くから響くパトカーのサイレンの音。

 NOI Zとマユミコ委員長はしばし見つめ合う。

 
 次の瞬間、NOI Zとソイガターはビクッと何かに反応する。
 NOI Zはクラゲ型ビットを一体呼び寄せて手に握った。
 そのクラゲ型ビットは縦長に引き伸ばされるように伸びて、NOI Zの手の中で黒い長剣に変化した。

 彼らの居る高速道路の高架橋脇に、天からツツジ色の巨人が降って来て着地した。

「ロウズレオウ!!」

 ソイガターがその巨人の名を呼ぶや否や、ロウズレオウは背負った大剣を引き抜きNOI Z目掛けて振り下ろす。
「!」
「!」
 NOI Zとロウズレオウ。
 針と日本刀程の差が有りそうな両者の剣の切っ先が向かい合う。
 
 ロウズレオウの持った日本刀のような大剣。
 妖刀、毒恋丸ぶすれんまるは熱気を放ち、周囲には溶鉱炉のそばのような危険な匂いが立ち込めた。

「オイオイ!、穏やかじゃねーナ?」
 ソイガターが首を振り、両者を交互に見ながらマユミコ委員長を庇うように近寄る。
「ヒ······!」
「あー、大丈夫大丈夫!ちょい待ってナ?お嬢さん。スグ終わるカラ!」

〔······よう!虎センセェ!そいつNOI Zが何なのか分かってる?〕

「イヤ?大体は察しがついてるけど、あん時は俺も気絶してたからナぁ?」


 NOI Zと大小の剣を突き合わせたまま、ロウズレオウから共上の声が響いた。











 

 
 
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