神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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月影の帰還

雑な音

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「ぅむーー?」

 T都。馬瀬間区。
 私立 衣懐いふところ学園中等部。

 暑い中あえて教室のベランダに出た磨瑠香は、ため息をつこうとしてつい唸ってしまった。

「ねーアンバーニオン軍の参謀?宇留くんも委員長マユミコも居ないんですけど?」
 磨瑠香は、軽く握った両拳でくうをパッパっと交互に小突きながら誰かに話し掛ける。

「うぐぎ!」

 密かにベランダに出ていた少年。宇留と磨瑠香の共通の友人である山石やまいし 照臣てるおみは、自身の特技の一つで完全に気配を消していたにも関わらず、磨瑠香に発見された。
 因みに彼は全少年少女の夢。手からビーム を出せる能力者である。だがその事は、周囲の人々には秘密なのだ!

 ブツ···ど!どうしてわかったんだ?···ブツ
「はい?」

 磨瑠香は顎を引いた上目遣いで小首をかしげ、照臣に凛と決め顔を向けた。
「ン!ン!」
 照臣は社交辞令で、ときめいたフリを隠すような咳払いを用いて会話の場面を変える。
 訳あってかつての宿敵?ライバル同士。磨瑠香も照臣のそんなノリに不満は無かった。
「委員長は知らないけど?アンバーニオンは寝てるとかなんとか?って噂だよ?」
「それはちしもネットの噂で知ってるよ!もう七継ななつぎくんにも宇留くん帰って来るって言っちゃったのに!うむぉぉ···カラオケェ~!宇留くん達のデュエットが見テエンダヨぉぉぉぉ···」
「なんの話?!···うーん、でも大丈夫でしょ?なんかあればもっと大騒ぎになってるだろうし、ひょっとしたら二人で西日本あっちのミッションに行ってたりして~!ナンチャッテ!」

「!」

 照臣は、ほんの冗談のつもりで宇留とマユミコ委員長の行き先をでっち上げた。
 だが磨瑠香の思考は迷わず、“二人„という言葉に宇留とヒメナを当てはめた。
 磨瑠香はギョッとした顔で右掌を口元に持って来る。

 あ!ヤバい···ちしひょっとして、彼女アリの男の子好きになってるパターン?

「ジョ!冗談だって!冗談みたいな奇抜な探検!ウソウソ!ごめんって!」

「なんそじゃりゃ?」
「!」
 謝る照臣を磨瑠香が横目でギョロリと睨んだ。ものすごい殺気である。
 それは照臣の冗談への怒りか?作者のセンスへの呆れか······?

「ふぉぉ···ヒサシィブリにぃ···!やるかァ?···ゴゴゴ···」
「ヤベッ!」
 磨瑠香のドスの効いた声に驚いた照臣は、超高速で殺気立つ磨瑠香の横を抜け、教室から廊下へと逃走した。磨瑠香も無表情で照臣を追い始める。

 二人はその後一分間、校内を全力で爆走したが、結局通り掛かった教師に止められ叱られてしまった。
 だがその教師も、無表情で走る磨瑠香に昔見た抹殺サイボーグ映画の敵役の面影を見いだし、内心戦慄していたのだった。



 宇留の方はまだ居場所の見当がつく。
 問題はマユミコ委員長の方だ。

 
 磨瑠香は照臣との久しぶりの逃走ごっこで多少ストレス解消にはなったものの、マユミコ委員長とは連絡がつかず、SNSにも既読すらつかないというのはやっぱりおかしいという結論に至る。
 磨瑠香はこの事態に対処する決意を固め、真剣な表情で教室への帰路についた。









「ぬ!こんなにも気まずいとは!」

 学園にマユミコ委員長の様子を見に来たゲルナイドは、予想以上のきまりの悪さに包まれながら学園の周囲をウロウロしていた。
 自分で撒いた種とはいえ、今更自分で絶ち切った人との繋がりに頼るという行為にはどうしても後ろ髪を引かれてしまう。中枢活動体である今のゲルナイドの細胞は擬態ではあるが、しっかりと人間の機微まで演出していた。
「くっ!委員長···だがスマイウルもかつてこのうしろめたさを乗り越えたと話に聞く!この程度···ヤツに出来て俺に出来ない筈は···」

「へぇ?見っけ!」

「!」

 現がその声に振り返ると、生気の無い目をした謎の少年が怪しい機械を持って立っていた。
 顔立ちは悪く無いのに、それを台無しにする乾いたような不気味な黒目が古い携帯ミニテレビのような機械を凝視している。
「Ⅱ6▫▫-1···4ヘルツ!生まれ変わっても結構覚えてるもんだな?」
「??」
 現は更に疑いの表情で不気味な少年を見つめた。
「この体でははじめまして?この体の名前は倉岸くらぎし トート。本当ならこのガッコに通ってる筈の少年だ。お前アレだろ?こないだ来た転校生?」
「···オマエは······?」
「アルオスゴロノ帝国のモンだろ?お前?」
「な!」
「でもどーしてお前から俺のよーく知ってる電波が出てンのかな?人間じゃ無いだろお前?」
「!!」
 現は金色の瞳孔を見開き、警戒心を露にする。
「まーまー落ち着けって!するってとアレか?キヴィ研が追ってるって怪獣人間はお前か?何で怪獣人間からアレの電波が?何で何で?」
「お前!何を知ってる?」
 現からは静かにも威嚇の雰囲気が溢れているが、倉岸は臆する様子も無い。そして倉岸は現の質問に答えた。
「委員長って言ってたな?まさか人質にされてる?」
「か、確証は無い···無いが···」
「なるほど!その谷泉の居る所に案内しようか?」
「!」
 現の動きが迫力を保ったままで止まる。
「まーまー!今はまー!俺ぁあんたを奴らに差し出そうってんじゃ無いんだ。あいつらの事だからどうせまた捏造のウソ演出の人質作戦とかでヒトに言うこと聞かせよって魂胆ダロウね?」
「!」
 ヌシサマとはまた違う視点で同じ事を言う少年は続けた。
「タスケルんなら急いだ方がイイ。あいつらシビレを切らしたら何をするか?」
 わざとらしい根拠の薄そうな疑い方。現は少年の話術に飲まれないよう警戒しつつ話を聞く。

「俺が···委員長を自由にする···?」
「それでもイイよ?俺の方は少し騒ぎを大きめにしてくれりゃ?それで?」
「やましい事は出来ないぞ?」
「もちろん!」

 倉岸は心中で表情以上にニヤついた。

 この変なヤツをツツいて何が出るか?
 ひょっとしたらイッキに俺の計画が進むのかもな?

 何かを企む倉岸のポケットの中で、アルオスゴロノ帝国非公式製関心吸収機エモ チャージャーが、ゲルナイドの感情の高ぶりを密かに吸い取っていた。







 振りかざした腕はビタリと止まる。
 流した動きはシュルリと滑り、
 フワリと浮かんだかと思えば
 ズドンと落ちて静かに動きは
 畳まれていく。
 かと思えば見えない仮想敵は
 その静から解き放たれた
 一閃一撃に沈む。


 放課後の衣懐学園 体育館裏。

 建物の日陰になった一角は竹箒たけぼうきて綺麗に小砂利が掃き清められ、空手道着に素足の磨瑠香がかたモドキのようなモーションチェックに励んでいる。
 磨瑠香の動きが一段落した段階で、優しい拍手が彼女の元へと響いた。
「!」

「素晴らしい!」

 磨瑠香に拍手を送る髭面の巨漢な中年男性、護ノ森諸店探偵事業部、ゴノモリリサーチの所長である社務崎しゃむさきに、磨瑠香は気をつけからペコリと頭を下げる。
 社務崎は磨瑠香から二メートル強程離れて止まる。
「暑い中、いつも護衛ガードありがとうございます!」

「はい!どういたしまして!」
 社務崎は深くお辞儀を磨瑠香に返した。

「あの···実は···」
「お友達の事ですね?」
「え?」
「先生達にも訊ねたんですよね?でも先生達もわかっているんです。でも大人は全てを明かせない事もある。今日はその件でもう既に動いていますという事をお伝えに来ました」
「わぁ!ありがとうございます!」
 磨瑠香はニコッとして再び頭を下げる。
「方々からの依頼なので報酬のご用意は必要ありません。儲かったお兄様にだけそうお伝え下さい」
「ふふ!おにぃがそんな事ぉ?」

 磨瑠香は恥ずかしそうにクックと笑った。
 











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