神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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INTER MISSION

壁 画

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 海底に眠るように横たわるアンバーニオン。
 
 そこへ鬼磯目が接近し、自慢の捕獲爪グラップルクローの先端でアンバーニオンの胸部をコンコンと優しく叩いた。

 ·おーい!聞こえる?

 制御AIマーティアの問い掛けにアンバーニオンは答えない。

 (·気を失っている······)

〔マーティア、取り敢えずアンバーニオンを地上に押し上げてくれ。そうだな···すぐそばにある並びの島の合間の浅瀬とかはどうだ?〕
 重深隊の旗艦。だいしろ内に設けられた臨時の鬼磯目指揮所で晶叉がマーティアに指示を出した。
〔了解ー!人払い安全確保を確認次第作戦行動に移ります!〕
「頼んだぞ!マーティア!」

 だいしろのクルーが、島に展開中の小隊からの情報リンクや衛星映像の共有を行う。引き揚げ予想場所の島の浅瀬に人影は無し。近くにアート作品のモニュメントがあるとの事だったが、それらしき白い像は本来あるべき場所に無く、離れた場所にあった。
「?」
 白い像が動いている気がする。
 混乱したクルーが戸惑っていると、仲間から作業の催促が入る。
「まだ?」
「あ!ああ!今!」
 クルーは無理矢理仕事を終える事にした。

 鬼磯目はアンバーニオンの右脇の下に捕獲爪グラップルクローを引っ掛けて海底の傾斜を登り始めた。
 (メールも既読ナシ、想文も通じない!機体もおも!、自重制御も止まってる!良かったね?水中で。しょうがないなぁ?この事は黙ってて···と!)
 マーティアは鬼磯目に眠る宝甲の力を密かに発動させ、スペック以上の推力を発動した。記録上はアンバーニオンの最低重量を運搬した記録が残るだろう。

 水中で充分に登坂加速した鬼磯目は、自身が座礁しないようパッとアンバーニオンから離れる。
 惰性で浅瀬の磯まで軽くフワッと浮かび上がったアンバーニオンは、面白いように海面上へと飛び出して行った。

 ·ふぅ!

〔いいぞ!マーティア!しばらく待機だ!〕

 ·はーい!

 

 ザッ!
 ·!

 原因不明の周囲からの怪しい視線。
 続けてマーティアの脳裏に知らない情景が浮かんだ。弾かれたように思考を巻き戻しその情景を探す。
 確かにその瞬間、異変は起きていた。
 だがマーティアが見たと思った閃光のような情景は記録には無く。一部の思考モニターにごくありふれたノイズが走っているだけだった。

 いまのは?何処かで···?
 なに······?

 
 鬼磯目マーティアは唐突に起こったデジャブ体験に胸騒ぎを覚えていた。



 

 

 
 隕石か?中国地方上空かすめる。


 とある地方の土産物店の二階にある隠れ家的な雰囲気の食堂。
 白い半袖作業服に無精髭の男は、モーニングが終わる頃合いで入店し、店内備え付けのテレビに映るテロップに見入っていた。

 映像には落ちそうで落ちない、そしてやっぱり落ちなかった火球の映像が流れている。

 彼は午前中からビール、始まったばかりの日替りランチから麻婆豆腐定食大盛をチョイス、小型深海魚の唐揚げをツマミとして全て食券で注文し、サラダバーから持って来た無料サラダに無料ドレッシングをほぼ皿にヒタヒタになるまで投入し食事を開始した。

 不思議な味のする···だが旨い魚の唐揚げをつまみながら男がジョッキのビールを空にし終える頃、レンゲですくわれた真っ赤な麻婆豆腐の餡の中には、豆腐と共に繊維状の具が大量に入っている。
 粗びきの挽き肉や表面に味が染み込んだ豆腐は勿論、クタクタになるまで煮込まれた、そんな白髪ネギの驚き···。
 そして見た目に反するまろやかなスパイシーさと旨味を、花椒のインパクトが追い掛ける···。

「!」
 味に納得した男は、黙って頷いた。


「あの?なんとかバーのシマサメさんじゃない?」
「!」

 お冷やのおかわりを持って来た従業員の中年女性が男に声を掛ける。
「人違いです」
「あらそ!ごめんなさいねえ?」
 女性は謝る気など更々無い口調で男のコップに水を注ぐ。

 通おうと思ってたのに·····

 男は半ライスになったお椀の米に、残りの麻婆豆腐を多めにかけて麻婆丼を作り上げた。

 






 I県、軸泉市。
 

 崩落した流珠倉新洞入り口は、ドローン等を用いた入念な無人探査がまず手始めに行われ、再崩落の危険度は低いと判断された。
「やれやれ!やっと入れる」
 地味な作業着を着た護森と、レトロ感を想起させる懐かしのコント風探検隊ルックに身を包んだわんちィとパニぃは、洞窟の中ヘと進んで行く。
 三人のヘルメットに装着されたライトに照らされた崩れた場所より先は、まるであらかじめ通路があったかのように平坦で細い通路のように奥へと続いている。先に保全作業に入ったスタッフによって、滑りそうな要所要所にはラバーマットが敷かれ、護森達は意外とあっけなく前に進む事が出来た。

 護森のお目当ての場所には既に仮設照明が設置され、作業していた専門家達が振り返って重役の訪問を出迎えた。

「これかぁ···」
「はぇー!···すごぉぉ!」

 わんちィとパニぃが全体を見渡し声を上げた。
 通路を除いたその広間は十畳程の広さ。暗く良く見えないが、天井は上に行くに従ってせばまるチムニー構造のようになっていると思われた。

 そして明度を落とした照明にボンヤリと照らされている一部の岩壁に向かって、護森は神妙な面持ちで近付いて行く。


 壁画。


 オレンジ色で描かれたその絵は、勾玉型の顎を上下に開き、虫のような六本足を伸ばす胴体の上部には宮殿のような構造物を背負っている。
 怪獣?、虫?、城?。
 モチーフの見当はつかない。

「···社ちょ?下の方にうっすらと地面が見えるデショ?宙に浮いてるのよね?このコ」

 護森達の元へ、ヘルメットを被った小柄な女性がやって来て呟いた。
「お疲れ様です」
 微笑み挨拶した護森の側に立って壁画を見上げた女性は、口調こそ高齢女性のようだが、明らかにパッと見は幼い少女のように見えた。
 タオルを頭の上に乗せ、ヘルメットをその上に目深めに被っている為、表情は良く見えない。
「オバチャン!これ、古代人が描いた怪獣かなんかかな?」
 わんちィがオバチャンと呼んだ女性に尋ねる。
「どのように感じます?」
 護森もやや小声で女性に尋ねた。

「···フネ···?」

ふね!?」
 女性の返答に護森達の顔が驚きに変わる。
「ひょっとしたら···アンバーニオンより古い···かも知れないねぇ?」
 女性はやや小声で護森に告げる。
「そんなに···!!」
 視線を壁画に戻す護森の横で、パニぃはタブレット端末で壁画を撮影している。
「······社長、どうぞ」
 自動画像補正を終え、明度を上げて超高画質化した写真が写る端末を、パニぃは護森に手渡した。
「!」
 オレンジ色の怪物の周囲を漂う妖精のような生物達。

 その中でも一際大きく描かれた生物の姿を見た護森は、ある“知り合い„の姿を思い浮かべずにはいられなかった。







 ※アンバーニオンと主人公、須舞 宇留達の現在の活躍は、番外編 大爆想!機械人形節!を、よろしければご覧下さい。

















 
 
 
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