42 / 201
復活!琥珀の闘神!
再出動
しおりを挟むアルオスゴロノ帝国の居城、エガルカノル。
エグジガン皇帝は、足元に跪く服がボロボロになったベデヘム3中枢活動体を見下ろしながら穏やな口調で呟いた。
「ゴーザンが逝ったか、短い夢だったな?またしても奴に···あのゼレクトロンに···驚くべきはアレを使いこなす者が現れたという事だ」
すると何処からか小型のドローンが現れ、プーンとベデヘム3の隣に陣取った。
それを脇目で見上げ睨むベデヘム3。
「来たか」
エグジガンはしゃがみ込み、ドローンへとなるべくその巨大な顔を寄せた。
「呼んだのは他でもない。貴様らの直近の顧客情報、何を用意すれば買える?」
ドローンのスピーカーは考えるように沈黙を続けている。ベデヘム3は無駄に頭を垂れている時間を惜しみ、下を向いて歯をくいしばっていた。
目を覚ました瞬間。
藍罠の意識は吹き上がる炭酸のように湧き踊った。
やけに意識がハッキリとする。
病室の雰囲気から、ここは何処かの国防隊の医務課棟だろうと察しは付いたが、今記憶にある夢のような断片的な記憶が藍罠を不安に落とし入れる。
···うわ!もう目ェ覚ましタ!
···もう一発打っとけ打っとけ!
暗転
···また起きた?どーなっテんの?
···宝甲のバックアップだ、元気だぞ?アイツのは特にな?
暗転
···これ?致···量···?
···大丈夫大丈夫!
暗転···からの「戻れ!」と言われながらジャイアントスイングでお花畑から明るい方へと放り投げられる夢。
フルル···!
藍罠の背筋に悪寒が走る。
致死量ってなんなんですか共上さん···!···オヤジも成人した息子をジャイアントスイングで放らんでくれよ···俺は一体······?
そしてふと周囲を見渡すと、ベッドを囲うカーテンの隙間から見慣れた渋いオジサマがグワッとした顔で覗いていた。藍罠は昔こんな怖い映画あったな?と思いを巡らす。
「うわ!」
「わ!!」
手慣れた冗談を言い合いながらカーテンを開けた礼装の茂坂は、藍罠のベッドのナースコールボタンを押す。
「目が覚めたか?」
「あ!ぅ!お!おはようございま···」
「寝ていろ寝ていろ!」
茂坂は藍罠を制したが、藍罠はもう上半身だけ起き上がってしまっていた。
「隊長!」
「あぁ···!」
微笑む茂坂の後ろで男性看護師が全てのカーテンを開け、看護師を引き連れ遅れてやって来た医官が藍罠のベッドを訪れた。
三十分程の診察を終え、採血の注射針が一本折れる等のハプニングがあったものの、医官達を敬礼で送った藍罠は、再び個室へと入室してきた茂坂と顔を合わせる。
「大変な特殊出向だったな?」
「···申し訳ありません!椎さん···ゴーザンは連れ去られてシマイマシタ!」
「(まぁ、そういう事にシトクカ)···で?勝ったのか?」
「勝ちました···けど···」
「最終報告は届いている。椎山を連れ去ったのはフェグマツォ牙の箱団?とかいう組織だ」
「?」
「犬神仮面のトレードマーク。最終局面省がごく初期の実働期に解放した国で暗躍していた地下組織。それが今復活の兆しを見せているらしい」
「地下組織ですか?」
藍罠は最後に目撃した犬神仮面のくノ一ブロンドヘアーには覚えがあったが、証拠が無いので黙っていた。
「噂によるとその組織は、首領の娘が当時の終局局長に入れ込んだ結果崩壊したらしい」
「は、はぁ···」
未だに藍罠は非日常感を肯定出来ている。
ゼレクトロンとの出会い、椎山に起こった事、琥珀の巨神関連の事情を深く知る共上達の奇妙な存在感、そして······
いつもの隠語会話ついでに、藍罠は茂坂に一つ聞いてみる事にした。
「隊長?なんなんでしょうね?最終局面省って?イメージ全然変わりましたよ」
「ふぅむ、そうだな、まあ、これは都市伝説的な話なんだがな?」
茂坂は座っているパイプ椅子から腰を少し浮かべ、五センチだけ藍罠のベッドにギゴッと引き寄せて再度座り、話を続けた。
「こんな噂話がある。彼等は当初、国際同盟に食い込んで世界をペテンに掛けようとした悪党集団だったらしいんだが、ある時、偶然か否か本当に世界の危機を救ってしまった。何があったのか?どういう風の吹き回しだったかは知らんが、それ以来引っ込みが付かなくなったのか彼等は着々と真面目に惑星レベルの危機への対応を引き受ける組織へと成長したそうだ。現に彼等が居なければ、アノ帝国への対応力は現在の半分以下まで落ちるといったデータも存在する」
「······なるほど、そんな話が····」
「かと思えば、お前についての報告書に「彼はこれから時々変身ヒーローみたいにいきなり何処かへ行きますけど気にしないで下さいね?」とか中学生みたいな文面に超特典付きでウチのオエライさんを頷かせたり、俺にもよくわからん!だが···」
「?」
茂坂は柔和な笑みを浮かべて続ける。
「こんな所で働くのも面白···悪くないのかもな?」
「!······はい!」
椎山の行く末を察した茂坂に、藍罠も柔らかい笑顔で答えた。
茂坂は白い手袋を着用した拳を藍罠に付き出してきたので、藍罠はそれに答え、コンと角ばった拳をポコンとかち合わせる。
「お前の復帰は来週頭だ、ゆっくり休め?百題がシュミレーション相手に張りが無いって嘆いてたぞ?」
「ハハハ···わっかりました!待ってろってお伝え下さい!」
すぐに藍罠の目がいつも通り吊り上がる。
「わかったわかった!···じゃあまたな?」
茂坂は珍しく目尻を下げながら藍罠の居る病室を後にした。
ボフ!
茂坂を見送った藍罠は勢い良く枕目掛けて後頭部を自由落下させた。
「?」
枕の下に違和感。
何かある。
頭を若干浮かせ、右手を枕の下に差し入れる。
「!」
出て来たのは産直で売っていそうな甘茶の紙小袋に、オレンジ色のリボンが結ばれたものだった。
藍罠の心臓が一度跳ねる。
どうして気付かなかったのか。“彼女„はさっきの看護師達に混ざってここに居たのだ。だが藍罠は、こういうイタズラは嫌いでは無かった。
藍罠は少し恥ずかしそうに暫くそのギフトを見つめ、それを枕の下に戻すと、布団でバッ!と自分の顔を覆った。
「藍罠!一つ言い忘れてたんだが······」
茂坂が病室に戻って急に扉を開けると、藍罠は布団に潜って子供のように足をバタバタさせていた。
「ど!どうしたんだ!!」
「ハッ!」
茂坂の声に、藍罠は驚いて布団から顔を出した。
「あ!コッ!コッ!これはその!何でも!何でもありません!」
「ニッヒッヒっひ!」
廊下の角から藍罠の狼狽ぶりを伺っていた看護師服の音出は、満足そうに笑いながら病棟を後にした。
太平洋のどこか。
ギリギリ青い光が届く海底に沈んでいる超巨大武装タンカー。
朽ちた砲身には魚が出入りし、船体の表面は錆と堆積物、貝や定着性の生物に覆われているが、その内部の空洞では数機の水中ドローンが泳ぎ回り警備に当たっている。
そのドローン達が護るもの。
時折彼等のライトを照り返す黒いガラスのような外装。
うつ伏せで横たわる直線的な冷たい人型のシルエットは、背中に黒い琥珀柱を一本背負っている。
三本の角の麓にある目は、ボオッと僅かな光を灯し、主の帰りを待っていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
神樹のアンバーニオン
芋多可 石行
SF
不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。
彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···
今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)
あおっち
SF
港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。その第1次上陸先が苫小牧市だった。
これは、現実なのだ!
その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。
それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。
同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。
台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。
新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。
目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。
昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。
そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。
SF大河小説の前章譚、第4部作。
是非ご覧ください。
※加筆や修正が予告なしにあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる