神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

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 ゴーザンは敗北のうれいに震えてコックピットに突っ伏していたが、そうしている場合では無くなった。

 ドズン!ズグン!······

 物理的に熱い気配と、大きな足音を伴った振動がエザンデッフの残骸に近寄って来る。
 ゴーザンはその熱い気配を、余熱中のバーベキュー用鉄板に手をかざして適温を計った時のようだと思った。
 だがそれはゴーザンだけの記憶では無く、椎山の体と共有している記憶であった。

 ズ!ダゴォン!

 エザンデッフの残骸の前で止まったゼレクトロンは、戦闘によって踏み荒らされてしまった川面かわもに一歩だけ、足を強く踏み落とした。
 その振動で渓谷は大いに揺れ、近隣の地震計はそれを微震と誤認した。
 両膝で不安定にうずくまっていたエザンデッフの下半身も、腰部の重さによってグラつき、前のめりに倒れる。
「うわ!わ!うわーー!!」

 ドドダァァァン!

 エザンデッフの残骸が倒れた勢いで、腰部にある天井が無くなったコックピットからゴーザンがペッと弾き出され、どちらかの巨人が踏み抜いて水の溜まったクレーターのようになっている足跡の中にバシャッと落ちた。

 フゥゥゥゥゥゥ···!

 ゴーザンを見下ろすゼレクトロンが静かに唸る。
「くぁ!ハァ!ハァ!···」
 ゴーザンはバシャバシャと立ち上がると、同じ足跡の中に誰かが居るのに気が付いた。

「!」
「よ!」
「あ!藍罠!!」

 ゴーザンはバシャバシャと後退った。

「ゴーザン、交渉しよう!、ゼレクトロンに乗せてやるから、椎さんに体返してくれ!」

「な!なんだと?!」

 藍罠の突拍子も無い提案に、ゴーザンは固まった。
「簡単だ、さっきの逆、オマエから椎さん剥がした時の逆をやる。交換したら、何処へなりとでも行けばいい!」
 そう言って藍罠は振り返り、彼らを仄かに照らす宝甲を纏ったゼレクトロンの威容を笑顔で見上げた。ナキルの琥珀アンバーの中の椎山は、グッとゴーザンを睨んでいる。

「······」

 水の流れる音だけが響く。

 ···ゴーザンはしばらく考えて、恐る恐る、だが醜く歪んだ笑みを藍罠に向ける。

「本当···だな?」

 ゴーザンが口角を歪めるニチャリという音は、藍罠にも届いた。

「?······ああ!」

 無抵抗で立ち尽くし、接近を誘うゴーザンに藍罠は歩み寄る。
 至近距離でしばし見つめ合う藍罠とゴーザン。琥珀の中の椎山は目を閉じて交渉の結論を待った。

 



 ドボッ!

「!」
 藍罠の一撃パンチが、ゴーザンの腹部に突き立つ。
「おごご!」
 ナキルの琥珀アンバーの中で、キュンキュンと鼓動する光が二つ、しばらく動き回り、光達はやがてパッと弾けて消える。

「······」
 ゴーザンこと、椎山の体は俯いて動かなくなった。
「!」
 藍罠が右手を掲げると、ナキルの琥珀アンバーがフワリとナックルサポーター部分から離れ、まるでドローンのように浮かび上がってゼレクトロンの操玉コックピットに飛んで行った。
 藍罠はそれを見届けると、再び椎山の方に向き直る。

「······椎さん?」
「······」

 椎山の体はまだ動かない。








 ゼレクトロンの操玉コックピットに浮かぶ半透明の男。ゴーザンの魂のようなものは、椎山とは似ても似つかない顔をしていた。
 もし口の悪いガキ大将がこの場に居たら、間違いなく放置されいたんだ野菜に例えられるであろう個性的な顔を不安げなドヤ顔で歪め、ゼレクトロンを手に入れた高揚感に酩酊している。

「やったぞ!あの凄まじい力が、この手に!」

 ゴーザンは操玉コックピットのディスプレイを自分の意識で操れる事に喜び、ゼレクトロンの視線を足元の藍罠と椎山に寄せた。
「ふふふ!スゴイぞ!ゼレクトロン!これなら帝国を俺の手に出来るかも知れんゾォォ!···まず!まぁず!手始めにコイツを······」
 
 藍罠と椎山が映るディスプレイの中で、椎山がキッとゼレクトロンの中のゴーザンを睨んだ。
「!、な!ばかな!奴はこっちに連れて······!」

 やっぱりな?

「だ!誰だ!」
 ゴーザンが、操玉コックピット内に響く少年の声に驚いた。

 ズズズズ···

 ゼレクトロンはゆっくりと浮かび上がり始めた。
「ど!何処へ行く!ゼレクトロン!手始めにヤツラを!」

 残念!オマエが連れて来たのはオレだよ。

「ど!どういう事だ!って言うか貴様!貴様の声は!?」

 ヴァエトの声だよ?

「······な!」

〔ゴーーザン?〕

 藍罠がディスプレイの中でゴーザンを呼んだ。
〔ゼレクトロンさぁ!今から太陽でエネルギーチャージだってさ!だからちょっくら太陽までひとっ走りたのまあ!〕
「なにぃ!お、オレはどうなる?」

〔しらん!〕

「な、なんだ?と!だ!騙したな!」

〔それはお前もな?〕

「!」

 今度は椎山が答えた。ゴーザンはぐうの音も出ない。

〔冷え性のお前には丁度いいだろ?真夏にこんなコート着て!ってかアッちい!蒸れる!水吸って重い!脱ぐ!〕
〔ッハハハ!今度も太陽の勝ちッスね?北風さん!〕

 談笑する藍罠の右手と椎山の左手には、お揃いのナキルの琥珀アンバーが光っている。
「ゼ!ゼレクトロンが言うこと聞かねーんだよ!どういう事だ俺のモンになるんじゃなかったのか!?」
〔乗せるとしか言ってないよ?〕
「!······藍罠ァァァ!」

 ヨキト!イサク!またな?!

 ナキルの琥珀アンバーを通じて、ゼレクトロンが藍罠と椎山に語り掛ける。
「おう!ありがとうなーーー!」
「サンキュウー!」
 藍罠と椎山は大手を振ってゼレクトロンを送る。

 二人の歓声を力に、ゼレクトロンはグッと急上昇した。


「ま!待て!ゼレクトロン!ゼレクトロンッッ!太陽そんなところに行ったら!俺は!どうなる!」

 ?

〔おいー!待てー!やめろーーー!〕

〔うわ!イ!イサ······〕

                 うわああああああ! イサク!オマエは!オ マは····



 先程からゴーザンの声は、藍罠と椎山のナキルの琥珀アンバーから響いている。ゼレクトロンが地表から遠ざかるに連れて、ゴーザンの声は遠退いて行った。



 ゼレクトロンの光は天の川の星々の帯に重なり、やがて流星に変わる。

 
 ゴーザンはゼレクトロンが太陽に到達する前に、操玉コックピットから姿を消した。

 ゴーザンが何処へ行ったのか。

 誰も知らない。





「痛ってーー!もっと手加減してくれヨ?」
「え!そんなにッスか?すいません!なんか」

 ゼレクトロンを見送った藍罠は、急に腹を押さえてよろめいた椎山を近くの大きな丸石に座らせた。
「だあああ!」
 椎山は座ったまま仰向けに寝転び、丸石の曲面に沿って背伸びをした。
「うーーーん!この実!家!感!くぅ!」
「ハッハッ!」
 藍罠も丸石の隣の大きい石に腰を下ろす。

「藍罠!ありがとな?自分の体に意識があるってありがてー事なんだって思うよ?」

「ウィッす···みんなの···お陰ッスよ?」
 藍罠はあからさまに照れが隠せていない。
「あ!日付変わっちまった!早いな?七夕終了だよ」
 椎山が右腕に着けていたゴーザンの趣味の時計で時刻を確認した。
「織姫様帰っちゃっタんじャないの?」
 椎山がやや噛み気味に藍罠に聞いた。
「······」
 暗くてよくわからないが、藍罠はそっぽを向いて恥ずかしそうにしている。
「フッフフフフ!藍罠?」
 椎山が嬉しそうに追撃する。
「天の川の川幅···何光年あると思ってンすか!移動だけで一日潰れますからね?」
「ハハハ!今までで一番ウマイネタバレ魔じゃん!まぁ、色々障害はあれど、命貰っちゃったらもう惚れるしか無いか?」
「くぅ!ゼレーのヤロー!椎さんに教えやがったな?アイツもネタバレ魔じゃねーか!あーもう!俺もうこのキャラやめようかな近い内に!やんなっちゃったよ!」
「ハハハ!」
「···く、フハハハ!」


 久々の談笑も束の間。渓谷の下流から、重いヘリのローター音とサーチライトが近付いて来る。

「······藍罠、わかってると思うが···」
「わ!怖ぇッスよ!本当はゴーザンでしたとか無しッスよ!」
「本当は~~?」
「やめて下さいって!」

 ヘリの音が大きくなり、会話はいやが応でも中断される。
「最終局面省のヘリ!共上さん達だ!」

 二人にサーチライトが当たると同時に、椎山が左腕を隣の藍罠に伸ばした。

「藍罠!」
「!」
「また何処かで···!」
「···椎さん!」

 藍罠と椎山は、コツンとナキルの琥珀アンバー同士をかち合わせる。

 すると椎山の体がブワッと持ち上がる。
「!」
 藍罠が丸石を見上げる。
 ぐったりした椎山が、ブロンドヘアーに犬神の仮面を被ったサイバースーツのくノ一の小脇に抱えられていた。
 小柄の上に、痩せたスタイルの良いくノ一が成人男性を軽々と抱えているという、違和感バリバリの光景に藍罠が驚いていると、くノ一は空いた方の手に持っていた銃で藍罠に麻酔針をパシュ!っと打ち込んだ。

「!···ああ···そういう事ッスか?さすが!共···さ···ん······」


 ヘリの轟音が響く中、何かを察した藍罠は、深い眠りの中へと落ちて行った。












 
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