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復活!琥珀の闘神!
琥珀の闘神
しおりを挟む「藍罠!まぁ、聞きたい事は山程って程もあるんだろうが···ちょっとスマン、俺も···今、着想中···なんだ···な?」
「ま、本気すか?」
藍罠が握る琥珀の中の少年は椎山 伊佐久、その本人。
凄まじい混乱と疑問の中にあっても、藍罠にはそれが真実だという確証が何故かあった。
口を開けば、勝手知ったる万国旗マジックのようにスルスルと口から現れ出ては重なっていく言葉と言葉。
気心の知れた相棒同士でしか感じ得ないそんな会話の橋渡し感は、はっきりとした認証機能を発揮していた。
「いいトコでごめんなさい、彼らが来るわ、急ぎましょう!」
「「うわっ!」」
てっきり幽霊だと思っていた視界の端に居た美人が、普通に藍罠達に話し掛けて来た。
ありきたりだが足はあるし、この存在感は本物の人間を一応思わせるが、藍罠はその女性、丘越 折子の声を聞いて、以前に良夢村分校で出会った女性職員を思い出した。
憑いて来ちゃった?
もう藍罠は、大抵の事では驚かなくなってしまっていた。同時に状況を整理出来なくもなっている。混乱は理屈を越えもう何でもござれ!、と藍罠は腹を括った。
「藍罠 ヨキトさん?、私達のトモダチをありがとう!···この子、敵に魂が二つ以上あると未来予知しづらくなっちゃうからすぐに助けに行けなくて···許してあげて?···さぁ、この子は私達に任せて?」
「えっと···?は···」
「オワったーーーーーーぞぉ!藍罠!」
そうこうしている内に椎山は、琥珀から“管理情報„の着想を完了した。
「藍罠さぁん···」
「!」
腕の中の音出が、琥珀を持った藍罠の手をキュッと握った。
藍罠の心臓が尊さにグッと来て跳ねる。そして意識の中に、腕相撲の少年の声が響いた。
ヨキト!黙って導いてメんな?
「!、お前は?」
あの時助けてラったカブトムシだ!義によって!お二人に助太刀タす!
「あ!あの時の?!」
藍罠の脳裏に、音出と共に出会った琥珀のカブト虫、そして腕相撲の少年の姿が過る。
「お前だったのか······もしかして、俺達をここまでずっと···?」
ヨキト!イサクとパンチくんと一緒に!オレを···ゼレクトロンを···頼む!!
「ゼレクトロン······!」
その名を口にした藍罠は、心臓にに火が灯ったような感覚にハッとして、音出と共に握った椎山の魂入りの琥珀を胸元に引き寄せる。その際にパンチくんのメモリと琥珀がぶつかりカチャリと音がした。
五人で手を取り合っている感覚は、更に藍罠の熱血を沸き上がらせる。
ブンッッッ!!
その熱意に呼応するように振動し、輝きを増したゼレクトロンの琥珀は、その形を変え藍罠の右手に巻き付く。
ゼレクトロンの琥珀は、手の甲に椎山を内包した琥珀を備えたナックルサポーターのような籠手を、藍罠の右手に形成した。
「ナキルの琥珀···!」
折子がその琥珀の名を呼ぶ。
「ナキル···アンバー···!」
藍罠が真剣な表情でナキルの琥珀を見つめる一方、琥珀の中の椎山はブニャっと顔を内側から押し付ける。
椎山は藍罠の緊張を解そうとしたのだろうが、せっかく若返った美男子も、藍罠の真剣さも台無しである。
「···もー、椎さん···そういう所っスよ?」
「ヘヘヘへ!」
「···フフは!」
藍罠と椎山は琥珀越しに微笑み合った。
「えっと?、それはいいとして!喚び方···?」
「そうか!喚び方か!えっと···?···ちょい待って?」
藍罠は宇留がアンバーニオンを召喚する際に、何か呪文のようなものを唱えていた事を思い出し記憶を辿る。
しかし思い出したのは、良夢村で聞いた宇留の呪文よりも、かつて軸泉で椎山とサボっていた時に共に聞いた謎の少年の叫び声だった。
「「あの感じ!」」
藍罠と椎山はスカッとした表情で顔を見合わせた。
「あ!、お願いします············」
藍罠は惜しむように音出を折子に任せると、暗がりの中でもしっかりと音出の目を見て告げる。
「···音出さん!いつか今度お昼頃に資料館行きます。一緒に···ブランコで遊びましょう!」
「「!」」
目の前の女神二人がポジティブな笑顔でギョッとした表情になったので藍罠も一瞬驚いたが、音出はすぐにフニャっとした超笑顔で答えた。
「···うん!!」
「お!···お願···シャス!」
「!」
藍罠は立ち上がり振り返ると共に上空を睨み、拳と共にナキルの琥珀を突き上げる。
「よっしゃ!」
「「···ウェラ!クノコハ!タトブゥラ!」」
「「「「「ゼレクトロン!!」」」」」
藍罠達は炎を思わせるオレンジ色の光に包まれ、オドデウスと折子の前から姿を消した。
「ゼレクトロン···、今度はみんなが居る!大丈夫!自信を持って?」
折子はどこか遠くの山の方を向いて、これからやって来るであろう琥珀の闘神に思いを馳せる。
バタバタバタバタ!
「?」
折子の腕の中で、いつの間にかフクロウ仮面を拾い顔にあてがっていた音出が足をバタつかせた。
仮面の上からでも分かるくらいに赤面し、尊死しそうになっている。
「本当にヨキトくんの事が好きなのねぇ?」
バタバタバタバタバタ!!
音出は疲れているにもかかわらず、一層激しく足をバタつかせた。何故か仮面のフクロウの目も涙で潤んでいる。
「お ち つ いて!」
ピタ······
折子はまだクネクネしている音出の少し疲れた美髪を撫でる。
「頑張ったわね?」
「···先輩!藍罠さんの体“では„“初めて„“超久しぶりに„抱っこされたんん!」
ぎううう!
音出はドレスの上に着ていたダークグレーのパーカーの袖を握って体を縮める。
「はいはいっ···」
折子は二人の関係について何か覚えがあるようだったが、それは今ここで語られる事は無かった。
戦いの直前、向珠町は虫の声も聞こえない程に束の間の静寂に包まれていった。
「はー!はー、はー!はーあ!····」
キュイー!
暗いコックピットにモニターの光が灯る。モニターからアルオスゴロノ帝国のロゴが消え、駆動システムが立ち上がる。
ゴーザンの荒い息遣いが響くエザンデッフのコックピット。巨角の鋼鬼の体温とゴーザンの怒りは、あっという間に頂点に達した。
「はぁ!はぁ!、いッってーー!ッッッッソがぁ!アイワナぁー!どこで俺達をひっぺがす技を手に入れたあああ?許っさねぇ!ッッサねぇ!!」
ゴーザン?
エザンデッフの肩を、ベデヘム3が掴み野太い声で様子を聞いた。
「三号!今すぐ奴らを潰しに行くぞぉ!全員ついてこい!」
ゴーザンは虚空を睨みながら右手の親指の付け根で鼻血を拭い、ベデヘム達の配置を確認した。
山の影になった渓谷の影から、エザンデッフを始め、怪獣体になったベデヘム軍団がユラユラと立ち上がる。
「どうした!貴様ら!ハキハキせんか!」
背後に立ち上がった部下達の緩慢さが目についたベデヘム3は、他のベデヘム達を叱咤する。
「い···や、そのぉ···隊長以外全員琥珀の虎にケツを噛まれまして···」
ゴッッ!
ベデヘム3は報告した部下を裏拳で殴り飛ばした。
「?」
「ナンデモありません!」
その後ろのベデヘム達は急にシャキッとした。
ゴゴゴゴゴ······
「!」
初期微動の無い地震が渓谷全体を揺らし、崖からはカラカラと落石が舞う。
続けて、ギビシギビシと岩盤の断裂する音が地底から響き、その音はどんどんと地表目指して昇って来る。
「なんだ?」
ギャピシ!ヴォゴゴゴ······!
川が割れ、地底に吸い込まれた水が水蒸気に変わって渓谷の底を這う。
川を割った地割れの中から、炎を思わせる揺らめきが這い上がろうとしている。
ショエエエエエエエエエ!
エザンデッフとベデヘム3の横を通り抜けたベデヘムの一体が、高い声を上げて地割れに突っ込んで行く。
「おい!待て!」
ダガッ!
ドジャッンン!
しかしせっかくゴーザン達にやる気を見せたにも関わらず、そのベデヘムは速攻気を失った状態で水蒸気満ちる地割れから投げ弾かれ返品された。
「なんだァ?何者だぁ?」
ゴーザンが地割れを凝視していると、水蒸気の中に見慣れた甲虫の角がユラリと揺れた。
「こ、コイツは!」
ドンッッッッッッッッ!
地割れから片足を踏み上げたその巨人は、中央に小ぶりな頭、両サイド二つに巨大な頭を備えた三つ首のカブトムシ巨人だった。
ボッ!
体がオレンジ色に輝き、体はアンバーニオンのように琥珀様のクリアで分厚い外骨格に覆われている。
「ゼッッ!ゼレクトロンッッ!!!」
ゴーザンの顔面が割れそうになる位の驚愕に歪む。そして地割れから這い出たゼレクトロンは、両足で渓谷の中央に立った。
フ···ォオオオオオオオッッ······!
丹田より抜け出る達人の呼吸が如し。
ゼレクトロンは、ハスキーだが充分イケボな落ち着いた息遣いを持って力を漲らせる。
ゼレクトロンの胸元にある緑色をした操玉内には、藍罠が浮かんで呼吸を整えていた。
藍罠はカッと目を見開く。
「ゴーザン!椎さんの体、返して貰うぜ!」
「おーよォ!頼むぜ相棒!」
「押ォォォ忍!」
藍罠が右手の甲の琥珀に、気合いに反して優しげな威力の左拳をコツンと当てる。
琥珀の中の椎山もそれに合わせ、琥珀越しにコンと自身の拳を藍罠の拳に突き合わせた。
するとゼレクトロンの中央の頭部の隙間がゴソッと僅かに動き、琥珀の外骨格の隙間から二つの目がギンと輝いてゴーザン達を睨んだ。
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