神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

良き人よ

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 ヨキト···

 「?」

 ヨキト······

 磨瑠香まるを······よろしくな?

 「父さん?」

 ヨキト············



 「母さん?」




 「良輝人······」くん?」






 藍罠が目を覚ますと、そこは全方位オレンジ色に輝く無数の羽毛に包まれた暖かい空間だった。

 明るさに目が慣れる。

 すると藍罠の至近距離に、フクロウ仮面を被った女性の笑顔があった。

「!」

 仮面から口元だけを見せる女性は、ニコッと微笑み藍罠を抱き締めている。
 正確にはこの空間全ての輝く羽毛が藍罠を包んでいるイメージ。
 良く見ると女性は、肩から上だけの姿をこの空間に現していた。

 撃たれた腹部には奇妙な感覚が寄り添う。
 痛みによる苦痛は無く、その代わりにボーリングの玉程の石でも入れられたかのような鈍い重さ。だが、真夏に暖かいと感じるのは、体が冷えきっているという事。しかしそれは他人事のようでいて、治りつつあるという不思議な実感を伴うものだった。




 藍罠は全てを理解した。


 この空間全てがこのフクロウ仮面の女性、音出オドデウスの力なのだと。
 
「あなた···だった···の か···ッく!」

 フクロウ仮面の目を見つめた藍罠の涙腺が決壊するタイミングを見計らい、頭周りの羽毛がパサッと藍罠の目元を覆い、柔らかい光の羽毛はついでに頭を撫でる。

 意識が朦朧として気合いの拠り所が無い。そんな男心は涙をこらえようとしたのだろう。

 痛みの代わりに感じた重さは、腹筋にのし掛かる更なる重さになって、まるでブラックホールのように藍罠の意識を吸い込んで消えていった······









 数時間後、向珠町の何処か。

 7月7日 【水】PM10時30分


 その廃墟は、まるで遺跡のようだった。

 一体いつから建っていたのか?

 森の中にポツンと一棟佇む四階建て程の細長いビル跡は、天井を含めほぼ全ての階層が崩れ落ち吹き抜けになっている。
 窓ガラスの痕跡も全て消え失せ、風雨に浸食されたコンクリートの壁だけが、天井から差し込む星明かりを穏やかに吸収して藍色に浮かび上がっていた。

 その廃墟の二階。
 比較的足場が広く残るその奥に、オレンジ色にボンヤリと輝く巨鳥が自身の羽根を体に巻き付け、繭のようになって壁に張り付いていた。

 その様子はまるで、神社の御神体を思わせる。

 その輝く鳥、オドデウスの周囲にバシュバシュと色気ムードの無い赤い蛍光色の火花が続々と灯った。
「!」
 オドデウスは繭にうずめていた顔を引き上げ、次々に撃ち込まれる照明弾を撃ち込んだ者達をギロッと睨む。

「ダメだよ?愛の巣の鍵は閉めとかなくっちゃあ?ああ?無理か?カモフラ術に隙が生じるくらいそいつの回復に注力してんだもんなぁ?」

「···!」

 オドデウスの前に、ゴーザンが大男ベデヘム達を引き連れてゾロゾロとやって来た。
「そんなゴーザン!ソモソモ!ここの扉はもうありませんでした!」
 一人の大男のネバついた口調の揶揄やゆに、ゴーザン部隊の面々はゲラゲラと高笑いした。

 ピシリ!

 ゴーザン達を睨むオドデウスの覇気がコンクリートの壁を軋ませる。

「おー!怖い怖い!」
 ゴーザンはコートの内側からサバイバルナイフを引き抜き、オドデウスに無遠慮に近付いた。
「俺はその“中„に居る奴のオトモダチだぜ?決定的に倒せんのかよ?」
「!······」
 オドデウスはゴーザンの顔を睨んだままジッとしていた。
「ムリだよなぁ?その羽根カッサバイてでも藍罠を寄越して貰うゼェ?」
 ゴーザンがユラリとナイフを振りかぶった。



 ゴツッッ!


「ニドモノォがッ!」

 ゴーザンの顔面を、拳が叩いた。

 変な声を上げて背後へと吹き飛ぶゴーザン。オドデウスの輝く胴体からは、琥珀を握った拳が突き出ていた。

 ボウッッ!

 周囲の照明弾が意味不明な炎上を見せ、次の瞬間大男の一体が超高速で移動する影にガブッとさらわれる。

 ガ!グゥォオオオ!



「ぶわあああ!やめでえええ!いやああ!」
 数秒後、野太くも情けない大男の悲鳴が森の奥から響いた。
「な、なんだ?!」
 倒れたゴーザンに駆け寄った大男の表情が、戦慄に引き吊る。


「あーあ、本気で椎さんぶん殴ったの、初めて会った時以来だぜ?」

 燃え上がる照明弾に照らされ、全回復した藍罠がオドデウスの体の中からスルリと登場した。

「ぐっ!があああ!ぐああああ!ぬぐ!があああ!おああああ!ががががぁ!」
「ゴーザン!」
「?」

 本気といえど、たった一発のパンチでゴーザンは大袈裟を越えた苦痛を示している。
「あれ?椎さん?ゴーザン?やべ!大丈夫?」
 藍罠は一歩、様子を見に踏み出した。
 その時、藍罠の拳に包まれた琥珀がトキンと脈打った。


「!!!!!!」

 う!う!うわあああ!

 屈強な男達が、何故か藍罠の背後を恐れて廃墟から逃亡を開始した。どさくさ紛れに、苦しむゴーザンもちゃっかりと連れての素早い撤退だった。

「?」

 藍罠がキョトンとしていると、もう一度森の方から「おわああ!」「うギャあ!」などと大男の悲鳴が小さく聞こえた。

 照明弾が一段と燃え上がり、全て焼失すると同時に、藍罠の背後でボンヤリと輝いていたオドデウスの輝きが消えた。
「ー!」
 藍罠はさも当然のようにきびすを返し、人間体になって倒れ込む音出を膝立ちで抱き抱える。
 窓穴から程よく照明弾の煙が抜け、星空のサーチライトが天井から二人の頭上に降り注ぐ。

 吹き抜けの天井の向こうのずっと上には、星々の河が静かに流れている。

 その時、音出オドデウスの顔からフクロウ仮面がスルリと滑り落ち、カランと音を立てて床に転がった。
「······」
「······」

 言葉はいらなかった。

 音出は青い光の中で藍罠の顔を見上げ、ドライブをしていた時と同じ表情で満足げに微笑んでいる。

 そして廃墟ここ幽霊ひとだろうか?
 部屋の端に白いドレスの美人幽霊が立ってこっちを見ているような気がするが、そっち系が苦手な藍罠でさえ、今はそんな事はどうでもよかった。

「ありがとう!···あなたが居てくれなかったら······」

 スッ···

 ようやく口を開いた藍罠の右手に音出が触れる。

「!」
 その右手に持った琥珀がポッと輝き、もう一度トクンと脈打つ。

「藍罠?いい所でスマナイんだが······」
「!」

 琥珀から声が聞こえた。
 不思議なエコーがかかっているが、良く知っている声。
 恐る恐る手を開いて琥珀を見る。

 光る琥珀に目が慣れると、内部に誰か、

 居る。

 琥珀の中には、気だるそうな目をした小人の美少年が入っていた。
 
「藍罠!」

 琥珀の中の少年は、微笑みながら藍罠の名を呼んだ。




「!······椎さん、なのか···?!」
















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