神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

隠れし願い

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「では、本当に彼は“知り合い„の所に世話になっている。とだけ言っていたんですね?」

 根継桁は、ゲルナイドを探すマユミコ委員長の背後から丁寧だが冷たい口調で尋ねた。マスクを着けているマユミコ委員長は少しだけ振り返り、根継桁と目を合わせずに返答する。
「···そのお家の人に失礼かと思って詳しい家の場所までは聞きませんでした。ケガのリハビリで歩きづらそうにしてましたし···」
「この辺りに居住しているのは間違い無いのかもしれませんね?。うーん、リハビリかぁ···?ひょっとしたら彼は具合が悪いのかもしれませんね?急ぎませんと、かな?」
「ヒ···!月井度くん···!」
 マユミコ委員長は振り返り、心配に歪んだ顔を根継桁に向けた。


 まぁ、感染症なんて嘘なんだけど?茶番劇の演出も疲れるよ?さぁ?怪獣人間?何処かで見ていたら出て来い?オトモダチも居るよ~?クク···


 根継桁はその場の全員に企む表情を見せない方向を探して首を振る。結果、道端の小高い敷地にあった古い石造りの祠の方を向き、顔から笑顔を解放した。

「あ!」
 根継桁の仲間の一人が、防波堤と船着き場越しに海の方向を向いて叫んだ。
 やや南寄りに上昇して飛んで行く光をマユミコ委員長を含めた全員が目にした瞬間、巨大な物体が空を切る低く唸る音が周囲に届き始める。
「なんだ?ミサイル?」
「?···」
 その場の誰もが、光の正体はアンバーニオンだと気付かずにただ眺めていた。








「······委員長?!」

「どうサレタ?」
「!」
 ゲルナイドがいつまでも祠の内側から外を覗いたまま固まっているので、アンバーニオンの発進シークエンス管理を終えたヌシサマが再びゲルナイドの元へやって来た。
「どれどれ?」
 ヌシサマは祠の周囲に知覚を張り巡らせた。しかし傍目はためから見れば、その姿はただその場に棒立ちしているようにしか見えない。

「ふむ、あの男、あまり良い雰囲気においでは無いな?」

「え?」
 ゲルナイドが横に居るヌシサマに視線を移すと、ヌシサマは一呼吸だけ押し黙った。そのせいで拝殿内に響く猫仮面巫女達の事後処理報告の声掛けがより際立って聞こえてきた。

「あやつらは、君を探しているようだ」
「!!」

「あの男達は知人かい?」
「?···いえ!」
「むぅ···マユちゃんをエサにしているつもりだろうが、恐らく危害まではまだ加えないだろう?。だが我々は、余程の事が無い限り、人間の営みにはなるべく干渉をしない決まりがあってな?助けてはやりたいが···」
「ヌシサマ?···それはどういう···意味?」
 ゲルナイドは体全体でヌシサマに向き直った。

「君は人間に狙われているようだ。今は出て行ってはいけない」

「!」
 ゲルナイドは状況を理解した。
 マユミコ委員長トモダチを利用した人間達に一瞬憤ったゲルナイドだが、ヌシサマが先程自分を褒めてくれた言葉を思い出して冷静になるよう思い止まる。

「ヌシサマ······俺、どうすれば?」

「案ずるな?あの者にわざわざ手を汚す程の殺気は感じなかった。様子をよく観察し、リハビリの方は慎重に引き続き頑張ろうとも!今は自分の事ばかり考えておくと良い!···それもだが···今夜夕げの席ででも我々とアンバーニオンの関係がどういったものなのか語ろう。そしてもうそろそろ、君の事も聞こうじゃないか?ゲルナイド?」

「ぁ······」
 
 納得半分、気がかり半分でヌシサマにたしなめられたゲルナイドはその場で肩を落とした。






 T都西部。その日の正午過ぎ。

「いただきます!ではお言葉に甘えてお先に···」
 高速道路のインターチェンジを降りた音出の車の中で、藍罠は音出に貰ったおにぎりをかじった。
「!」
 明太子と刻んだ佃煮昆布のえ物を少なめに封印して、あぶった海苔の片面だけを醤油に浸し巻いて小ぶりに握った塩分高めのパンチのあるおにぎり。
 絶妙なコクが藍罠の味蕾に襲いかかり、顎の関節が多幸感でクテクテになる。

 (こっ!こういうのでいいんだよー!)

 更に、マグボトルから注がれた味噌汁には、五ミリ角のあられ切り豆腐と溶けかけの超刻み長ネギがトッピングされ、舌の上をツルリと駆け抜けていく豆腐のレア度と言ったら全く至福この上無い一時だった。
 午前中の甘茶のカウンター的な演出を音出が目論んでいたかどうかはどうでもいいとして、肉体労働を常としている藍罠にとってこのしょっぱめチョイスの昼食はあまりにも的確に藍罠の胃袋を掴み過ぎたのであった。
「くぅ!音出さん!ウマイっす!あッッッッ·······ザッスありがとうございます!」
「お粗末さまでんすー!」
 音出は運転をしながら心の中でガッツポーズをとった。

 音出の車は市街地から離れ、どんどんと山奥の町へとひた走って行く。まだ共上からの追加指示は無い。
 しびれを切らした藍罠が、共上に直接連絡を取ろうとしていると、車は町名の道路標識とすれ違った。


 向珠むかいたま町。


「藍罠さん」
 すると音出の口から、真剣な口調で藍罠の名を呼ぶ声がした。
「え?」
「藍罠さん。次のミッションの概要をお伝えします」
「ぅえ!嘘!今?」
「······これより先、大北内ダムパーキングに停車後、藍罠さんは指定の装備、貴重品、“琥珀„ を持ってダム堤体上通路を対岸に渡った後、対岸に隣接する貫足ぬきあし山遊歩道を徒歩で登坂します」
「は、はい、はい!」
 藍罠は慌ててスマホのブリーフィングアプリを開き、簡単かつ暗号的な単語で項目を埋めていった。ミッションの目的よりも少年に預かった琥珀が指示に登場したのが気になったが、そのまま指示を聞き続ける。
「······登坂中、十五分程進んだ地点で “琥珀„ を持っていると、耳鳴りが強くなる地点がありますので、周囲を良く確認して下さい」
「はい!(み!耳鳴り?)」
「草が不自然によれて獣道が姿を現している筈ですので、そこを進んで下さい」
「???、は?はい!」
「途中でお清めの塩があるのでよくご自身に振りかけて下さい」
「えーと、塩っと!って!あれ?ひょっとして俺食べられるんですか?」
「はい!よく擦り込んで下さい」
「えええ?!」
「冗談です!食べたいですけど食べられません!」
「ええええ?!」
「冗談です!お塩はほんのちょっとで良いですよ?えひひぃ!」
 音出はその時だけ普段通りにケラッと笑った。そしてすぐ真面目口調に戻る。
「···するとその道の先に綺麗な庵がありますので、そこに居る高齢男性に次の指示を伺ってもらうまでが次のミッションです!」
「な、なんだかアレだけど、りょ!了解致しました!」
 藍罠は運転している音出の真剣な横顔に向かって敬礼をした。


 
 人気ひとけのあまり無いダムのパーキング。
 藍罠は車のトランクから取り出した装備を整え、更にトランクキャリアの上に乗せたロボットキャリーバッグから丁寧に取り出したパンチくんのデータ入りメモリーカードを取り出してメモカリーダーに移し替えた。
 メモカリーダーの封印をしっかりと行った藍罠はいつも通り、自分と椎山のドッグタグの付いたチェーンにパンチくん入りメモカリーダーを括り付け、そして“琥珀„はチャックで封印できるポケットに忍ばせた。
 装備を整え、音出の前にピシッと起立した藍罠に音出が今後の予定を告げる。
「お戻りの際は第一展望台まで降りてそこで私にご連絡ください!待機所からここまで迎えに参りますので!ここでまたお会いしましょう!」
「どこで待機してるんですか?」
「えっとッスねーん?近くそこの健康ランドです!」
 音出の表情がホヤッととろけた。
「ええー、いいなー!」
「お暑い中ご苦労様です!お気をつけて!」
「はい!ありがとうございます!ッテキマス!」
 
 藍罠は音出に背を向け、ダム堤体の上にある歩道を対岸に向かって歩き出した。

 

 ダムの第一展望台で、歩き出す藍罠を双眼鏡で確認した透明な人影もそれに合わせてベンチから立ち上がり、遊歩道を登って行く。どうやら透明化出来るコートのようなものを羽織っているようだ。


 音出は、歩む藍罠が自分と充分距離が空いた所で何かを呟いた。

「強くなってて嬉しいよ?よきとくん···ゼレクトロンを、お願いね···?」



 切なな表情の音出オドデウスは、対岸に遠ざかる藍罠をいつまでも見送っていた。













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