神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

神域の中で

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 I県軸泉市。

 護ノ森諸店社長。護森 夏雪は、軸泉市を訪れた宇留の両親と市内在住の祖父母、姉の柚雲といった家族一同+αと共に、宇留とヒメナが転送の力場ひかりに包まれて本社の屋上から消えるまで見守っていた。

 やがて護森が面々と共に南西の山並に注目していると、軸泉市の外れにあるアンバーニオンの基地ドッグ流珠倉洞りゅうたまくらどうこと“琥珀の泉„から、オレンジ色の燐光を纏った昇龍アンバーニオンが南へと飛び立って行くのが見えた。

 宇留達を追うようにT都へと戻る宇留の両親と、市内の自宅へと戻る祖父母、柚雲と宇留の次のミッション成功を祈念し、須舞家と和気藹々わきあいあいの別れを終えた護森は、オフィスに戻るなり流珠倉洞に派遣していた男性スタッフからの緊急連絡を受けた。

〔社長!今よろしいですか?〕
「うんダイジョブ!どうしたの?」
〔アンバーニオンが発進した後のようなんですが、洞窟の一部が崩落したようで!〕
「!、ケガ人は?」
〔ウチにはいません!それは大丈夫です!ですが···今さっき国防隊の方が様子を見に内部へ···〕
「危ないなぁ?まぁ今は共同等管理になっている手前、強くは言えないんだけども···」

 アンバーニオンが新しくなったせいで琥珀の泉がびっくりしちゃったのかな?

〔それでですね?社長!、隊員さんの通信はなしによると、崩落現場の向こうに奥深い亀裂が見えるそうなんですよ!〕
 スタッフは興奮気味に報告した。

「まさか!!···新洞か!?」

 護森は探求心に震えた。
〔参りましたね?週末のお祭り前に···先生方にもご連絡しないと?〕
「すぐにこっちで確認する!悪いが、準備を頼む!」
〔はい!(そうくるとモってましたァ!)〕
 スタッフにあれこれと指示を出しながら、護森はデスクの上に飾ってある共上に預かった琥珀を見つめた。
 コンコン!!
 社長室の扉がノックされ、オートロックが解除されてすぐ、わんちィとパニぃが入室した。
「「失礼します」マス」
「ああ!、急で悪いけど、すぐに流珠倉洞へ行こうかと思ってね?」
「はい!かしこまりました!」
 そう言って車の準備に向かったわんちィを護森は呼び止める。
「ああ待って、あとコレ!新しい名刺」
 護森はわんちィの名刺を一ケース差し出した。
「わー!ありがとうございます!」
「わんちィってば無くなるの速すぎ、スーグ飲みの席でばら蒔いちゃうんだからもー!」
 パニぃが護森の作業着をクローゼットから出しながら不満を述べた。
「む!ソレハソノぉ······実は今夜も一件···」
「ハッハッ!まぁまぁいいじゃない?」
 バツが悪そうにするわんちィを護森がフォローする。
 
 あれ?社長?なんか良いことあった?

 わんちィとパニぃは恐縮しながらも、久しぶりに聞いた信頼する社長ボスの笑い声をいいねと思った。


 








 C県。鍋子市。
「いらっしゃいませ!もう開眼してもいいですよ?」
 
 合図で目を開けた宇留を、広い拝殿と二人の猫仮面の巫女が出迎えた。

「お二人共!良かった!息災であったか!」

 本殿と拝殿を仕切る屏風びょうぶの前に立っていたヌシサマは、様子を良く確認する為に宇留に近寄って来た。
「ヌシサマ!」
「ヌシサマ」

 ヌシサマに声を掛ける宇留の隣でヒメナの声がする。
 ヒメナは再び等身大になって宇留の側に居た。
 宇留は改めてこの祠の内部が異空間になっている事を認識したが、栞の仮想空間とは異なり、ヒメナにはいつぶりかくらいの実在感が伴って宇留の高揚感をくすぐる。
「ヌシサマ、お世話になります。早急の事情への特別なご配慮、誠に痛み入りまして···!」
 ヒメナが深々と頭を下げた。
「ヒメナ殿!ま、まぁ、それなんだが···」
「?」
 僅かに困ったヌシサマの珍しい表情を見逃さなかった二人は、その視線を自分達の背後まで追った。

 二人の後ろで障子細工に軽くもたれて驚いているゲルナイド。

 宇留は思わず二度見する。
「?」

「う!っと?」
 ポカーンとした表情の宇留と、気不味そうに目を見開くゲルナイド。宇留がゲルナイドの名前を呼ぼうとした刹那、ヒメナの方が先に口を開いた。
「月井度 アラワルくん···?ゲルナイド?」
「うおーぉ!」
 宇留は笑顔で素早くゲルナイドに突進して前から両肩を掴む。一瞬体当たりでもされたのかと思ったゲルナイドは、足をふんばり背後の障子細工が破られないよう、まだ少し痛む体に無理を言って踏み止まった。
「良かったー!イキトッタのかぁ!」
「ぐぐぅ!!」
 宇留の笑顔に反してゲルナイドの綺麗な顔は苦痛に歪み、驚いた宇留はハッとして手を離す。人間体アラワルの特徴だった顔の傷痕が薄くなったような印象が見て取れたが、それよりも今はゲルナイドの苦悶の原因について宇留は思考を巡らす。
「あぁあ!ごめん!どっか痛かったの?」
「むぅ!相変わらず!気に入らんヤツだ!くぅ!」
「あぁ···ごめん···」
 宇留はシュンとしてしまった。三人が知り合いだったという事実に、ヌシサマを始め猫仮面の巫女達も驚いていた。
「宇留殿、まさかゲルナイドくんと知り合いだったとは?」
「く···スマイ ウル!ヌシサマの御一宿一飯の手前もあるが!この体が万全であれば表に出て戦いの続行つづきをしようものを!一息いっそく拾ったな!?」
 ゲルナイドはヨタリと後ろを向き、背中を向けてソッと胡座あぐらをかいて座った。
「あ、アラワルくんゲルナイド···」
 微妙な二人の間を埋めるように、ヌシサマがその場を治めようとする。
「おお!心を抑え無理に引き摺らぬとは!さすが!よほど懐のお師にお仕えのようだ!?見習わぬとな?宇留殿?」
「ぬぅ!」
 申し訳無さそうにしていた宇留も、対抗心からか眉間に力が入る。
「はい!お急ぎになって!」
「あとこれを!こんなものだけですいませんがおたずさえを······」
 宇留達を急かす猫仮面巫女達は、持って来たミニリュックを開けて宇留に手渡した。
 おにぎりコロッケセット、お茶、ハンカチ、ティッシュ、ウエットティッシュ、コンパウンド?等々から、ヒメナ用太陽光プチライト、ある鳥の神が作った超視伊達眼鏡、ヌシサマの神社純正の身代わりお守り、などといった神グッズまで、決してこんなものでは済まないラインナップがミニリュックには詰まっていた。
「わぁ!こんなに!誠にありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
 宇留とヒメナはヌシサマと巫女達に頭を下げた。
「あんただったのか」
「!」
 ヒメナが声の方に目を向けると、ゲルナイドが顔だけ振り返ってヒメナを見ていた。


「西日本隕石警報は現在避難レベル中段階です。ご安全を!」
 猫仮面巫女達が石火を鳴らし、宇留達を祠の外へ転送する。宇留は目を閉じて消えるまでゲルナイドに手を振っていた。
「ぬぅ!スマイ ウルぅ···」



「ウリュ!新しいエンジンの方のコックピットで、一通りボクのお仕事が終わったから、状況に応じて宇留とそっちを行き来してもいいって栞に通知があったよ?」
「へ、ぇ!そうなんだ!?」
「えへへ···こ、これで、さ、さ、さみ···」
「?」
「なんでもない!あ!あとね?···」
「えー?な、なに?······
「···」

 ヒメナ達はテンションも高く、会話を交わしながら再び海岸の鳥居付近まで向かって行った。


「んむぅ!」
 ゲルナイドは見えなくなるまで、祠の扉の隙間から去って行く宇留達を唸りながら見送っていた。
「ふふ···良き方を尊ぶべし···」
 ヌシサマは扉にベタッと張り付いたままのゲルナイドの肩をポンポンと叩いてアンバーニオン発進業務へと向かった。

「!」

 宇留達が見えなくなって一分程。祠の前の通り、ゲルナイドの視界に少女がフラリと現れた。
「委員長?」
 眼鏡は掛けていなかったが、ゲルナイドにはその少女がマユミコ委員長だと何故かすぐに分かった。
 そして、マユミコ委員長の後ろをキビキビと歩きながら周囲を見渡す男も視界に入る。

 男は一瞬祠を見て嗤った。

「!」
 ゲルナイドの背筋に一瞬、怖じ気が走る。
「なんだ?」

 
 マユミコ委員長と数名の奇妙な大人達は、そのまま祠の前をゆっくりと通り過ぎて行った。













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