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復活!琥珀の闘神!
マネージャー
しおりを挟む太陽の表面。
そして太陽の樹が聳える周辺。
光凪の座、といつしか呼ばれるようになったその場所を模した仮想空間に、瞳を閉じたムスアウ(?)は黙って立ち尽くしていた。
ここはアップデートしたアンバーニオンの新マニュアル。
“栞„、の中。
「?」
ムスアウ(?)は背後に立つ宇留に気が付いて振り返った。
「宇留?、今は泉に着晶スタンバイ中じゃなかったか?大丈夫か今栞に来て?」
「ムスアウ······」
「ん?!」
目をトロンとさせた宇留は、そのままムスアウ(?)に正面から抱き付いた。
「?!お!おい?宇留?どうしたん···?」
半笑いで戸惑うムスアウ(?)の背中に指先が二本、ツンと突き立った。
「動くな!」
「!」
ムスアウは背後を宇留に取られていた。
「な?じゃこっちの宇留は?」
ムスアウに抱き付いていた宇留は、いつの間にか等身大のヒメナの姿へと変わっている。ヒメナは涙を滲ませた目でムスアウ(?)を胸元から見上げていた。
「ヒメナ!、宇留の認証でここに連れて来たのか···?中々やるな?お前らも···」
「先輩!正直に言います!影に日向にコソコソしてて!いい加減色々と本当の事を、先輩の事をハッキリしてほしいんです!ヒメナの為にも、お願いします!」
宇留の表情は年齢に不相応な真剣さに満ちていた。ムスアウ(?)は、他人の責任を持とうとする大人の表情を宇留に垣間見た。
「分かってるよ?説明しない気は無かったんだ。遅いか早いかさ。だが···」
ムスアウ(?)は少し言葉を溜める。
「重いかも知れないぞ?覚悟はいいか?」
「「!」」
ムスアウ(?)はヒメナの両肩を優しく掴んでゆっくり引き離し、二人に向き合って真剣な表情を返した。
「正確に言うと私はムスアウじゃない」
「え?」
「ぅえ?」
「まぁ、時間は無いけどそこ座ってくれ?」
ムスアウ(?)と宇留はその場に胡座をかき、ヒメナは正座で座った。
「じゃあ改めてかな?はじめまして!···」
「うっ!ううぅ···!」
「「!」」
はじめましての一声に、突然ヒメナが泣き出す。
「!、先輩の見た目でヒメナにそりゃないですよ!ヒメナにとって先輩は大切な人なんですよ?!」
宇留の指摘が功を奏したのか、ヒメナは冷静になって、とりあえず泣き止む事が出来た。
「あ!あ!すまん!失敬!いや!なんと言うか?配慮が足らなくて···ごめん!···」
「それで、あなたは一体···?」
「ゲフン!···えとね?」
一呼吸置いたムスアウ(?)は、ゆっくりと語り出した。
「私は太陽の樹こと神椚側のシステムの一部で、アンバーニオンをはじめとする琥珀の戦士を管理運用する為のプログラムの更に一部だ」
「「!」」
「君達と交流しやすいように、数少ない人間のデータを元に構成されたのが私、つまり私はムスアウのコピーのようなものだ!···私の事は、マネージャー···とでも呼んで貰おうかな?」
「じゃあ!、本当のムスアウは、いま···?!」
ヒメナが畳んでいた足を少し浮かせる。
気のせいか、一瞬マネージャーの表情が少し曇ったような気がした。
「太陽に“居る„」
「!」
だがヒメナの意見を待たずして、マネージャーは続ける。
「神椚···と今は言っているが、樹の形は樹の気分次第で数百年毎に変化する。着替えのようなものさ?」
「あの太陽の樹に、意志があるんですか?」
仮想空間に映る超巨大樹を見上げた宇留は、思わず拳を握った。
「ああ!ある、太陽の樹の正体は、これまで地球上で生まれ、そして消えていった植物達のほぼ全て魂のようなものが物質化するほど集合体となって並列化した一種のマスターサーバーだ!」
「!」
「自らの魂を持って作り上げた植物達の彼岸は、土地神のように様々な能力を求め進化を続け、植物達が神と崇めていた太陽に自分達の魂を管理運用する為の拠点を創り上げたんだ」
「それって···植物達の···天国?」
「そうとも言えるな?まぁちょっとは他の魂も入ってるんだけども···それを前提として···ムスアウは今、その樹と共にある」
「ふぅっ!」
ヒメナが息を飲む。
周囲に満ちるオレンジ色の光をきらびやかに照り返した美しい涙は、宇留が見惚れる先で口元を抑えるヒメナの指先の合間に滑り込んでいった。
「共に?ある?」
宇留は更に問おうとした。しかし·····
「スマン宇留!“時間は必要だが時間が無い„んだ。それにこの説明にも段取りがある。所詮私もプログラム。万全な融通が効くとは言い難くてな?また次の講習の時にでも続きを話そう。時間圧縮も決してローコストじゃ無いし···」
「ええ!ありがとう、マネージャープログラム!」
ヒメナは最後の涙を指先で拭い終えた。
「いいの?ヒメナ?」
「宇留!、ヒメナ!必ず全部話す。約束だ!だからもう少し頑張っててくれ!大丈夫、私達は宝甲を通じて君達と共にある」
宇留は若干の消化不良感を感じつつも、マネージャーに礼を言う。
「あ、ありがとうございました!それで、あの···」
「?」
「ひょっとしたら、人間の魂もひょっとしたら···「それは言わない約束だぜ?」」
「?!」
「またな?」
宇留の質問をイタズラっぽく遮ったマネージャープログラムは、周囲がホワイトアウトするまで宇留に向かって微笑んでいた。
宇留達が栞から去っても、マネージャープログラムはその場に立ち尽くしていた。
「そう、時間が、時間が無いんだ······」
そのまま瞳を閉じた彼は、アンバーニオンの“安置„に伴い、仮想空間のブラックアウトに身を委ねた。
C県、鍋子市の沖合い
ヌシサマが管理する琥珀の戦士専用の秘密基地。琥珀の泉にアンバーニオンが戻って来た。
時間にして一瞬のマネージャープログラムとの会話から意識を帰還させた宇留とヒメナは、アンバーニオンのコックピットから外へと転送され、ごく平らな磯に立つ白い鳥居の前に居た。
「転送完了!ウリュ?お疲れ様!」
「うん、ありがと!」
「けどまだ忙しいよ!早くヌシサマの所へ!準備してくれてるって!」
「わかった!」
宇留は鳥居に振り返り一礼すると、岩場を駆け抜けヌシサマの祠に急いだ。
(さっき鬼磯目が沖を航行してたよ?)
ヒメナは想文で小走りする宇留に話し掛けた。宇留は服の上からヒメナの入ったロルトノクの琥珀を押さえている。
(え?本当?)
(うん!感覚で見た。仲間の船と南に向かってる。あ!アンバーニオンの感覚もちょっと強化されてた!)
(へぇ~!やっぱり共上さんの言う通り本当にあっちに隕石が来るのかもね?)
(···ねぇ?ウリュ?)
「ん?」
(さっきはありがとう!マネージャープログラムにしっかりと尋ねてくれて······)
(い!いや!いいんだよそんな!俺もハッキリしたかったし···)
宇留はあからさまに照れた表情になった。未だにヒメナの事を考えると心拍数が上がってしまう。
おかしいな?、ヒメナには先輩がいるのに···もう!···でも時間が?ってどういう?······
そんな事を考えながら宇留が祠に向かう短い階段を登り切ると、奇妙な光景が目に飛び込んできた。
「うわ!」
宇留は祠の前に居た人影がフッと消える一瞬を目にしてしまった。
「誰か居た!」
(···普通に考えてヌシサマ達じゃない?)
「そ、そうかもね!」
宇留は緊張しながら祠の前に立ち、手を合わせ合掌し、ヌシサマに目通りを願った。
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