神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

清 廉

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 遥か以前、我が帝国の科学陣が次元の壁を突き抜けた時。その向こう側に姿を現した世界は空間などではなく、真っ白い壁だった。

 壁は簡単な掘削機械でも掘り進む事が出来る程脆く儚いモノだったのだが、のちにそれは、こちらとあちら側の物質が混ざり合い精製された空間のカサブタとも呼べる物質だったという事が判明する。

 キネイニウム
 
 個体でも液体でも気体でもない。文字通り捉え処の無い異次元物質。
 第四の物質とも、あるいは物質と呼ぶべきモノですら無いのかも知れない様相を呈しているその物質は、カサブタの向こう側に無尽蔵に存在し、その次元空間を全て満たす物質であると推察された。
 度重なる次元の入り口を穿つ実験の折、偶然にもキネイニウムはその特性を我々に示し始めてゆく。
 人を始めとした生物から集めた様々な意思の力を限界まで束ね、増幅し、研ぎ澄まして放つ、意想収束次元障壁解錠砲エモ キャノンの余剰威力に反応したキネイニウムが、固体化とも言える実体化をするという現象が起こったのだ。
 キネイニウム個体は金属並みの硬度を示し、個体としてそこに確かな重量と実態を持って確実にそこに存在しながらも、空気や音の振動は透過したり、その他にも与えるストレスによって劇的にこの世界に対する反応を様々に変えたりと、その“あって無い個体„は個体であるにも関わらず、まるで人物の気まぐれや環境適応のように様々に特性を変える物であった。

 我が科学陣はそのパターンをいち早く解析し、採掘と加工、そして加工品の運用を行う術を編み出し、そのわざは我が武力として大成したのだ。

 ある科学者が、そんな俺に呟いた事があった。

 キネイニウム空間は、まるで我々人類に見つかって欲しかったかのように第一に異空間から登場した。
 キネイニウムはまるで意思が物質になるまで集約されたもののようである事。
 そして常時、エモキャノン並みの神域の想像力を持つ存在がキネイニウム空間に現れたのだとしたら······

 キネイニウム空間はその存在の思考を反映した、その者が想うままの世界となりましょう···と。






 アルオスゴロノ帝国の拠点。エガルカノル。
 キネイニウム加工プラント。

 チューブで繋がれ、開閉用アームで支えられた二つの巨大な黒いバケツが合わせ蓋のように左右で重なり、チューブは黒いバケツの後方、左右の壁に高く沿って配された小腸のような配管プラントに繋がっている。
 黒いバケツの下方には、何本ものコードに繋がれた巨大な楕円形のレンズが寝そべり、微細な光を放っていた。
 やがてバケツが左右に開かれ、バケツの解放を行った巨大なアーム機構が工場内にギュオーンと駆動音を響かせる。
 バケツの中からフワリ?とこぼれた白と銀色のマーブル状の砂粘土状物質。キネイニウム鉱石の混合物は、重力に逆らわずレンズの上に向かってボタリともザラリとも表現が見当たらないモーションでレンズに向かって落ちた。
 レンズの光に触れた瞬間、キネイニウム鉱石は輝きを増し、その光は三角形を型どるように一点に集約していく。
 光が治まるとそこには、三角形の未確認飛行物体U  F  Oのような機体。アクプタンが浮かび、それはやがて自力で飛行してレンズの上から遠退いた。

 エグジガンは巨大作業用ロボット専用のプラットホームに立って、その作業風景を見つめていた。

 アクプタン製造のプロセスは、その工程に限って次のアクプタンを生み出す振り出しに戻る。
 
 エグジガンの足元には、自走するウォーターサーバーのようなロボットが寄り添い、透明なボトルの中ではイタチのような生物。クイスランが製造工程のチェックを行っている。



 この身体···
 かつての俺の配下。エブブゲガが何らかの方法でモノにしたこの奇妙な身体は、時折キネイニウム空間に強い郷愁感を向ける事がある。
 奴から俺がこの身体を奪う時、奴は報復としてこの身体の全てを明かさなかったのだ。

 未だにわからぬこの不死の身体の秘密······
 
 何処に居る?、エブブゲガ。


 エグジガンは焦りをクイスランに悟られぬよう、平静を装いプラットホームを後にした。










 真夏の高速道路。

 藍罠と音出を乗せた軽スポーツカーは、T都方面を目指し、グングンと南下していた。
 マニュアル車のシフトレバーをガチャガチャとマシンガンのように上げ下げする音出の運転は、一見荒っぽそうに見えて変速ショックも殆ど無い、まるで道路の上を飛ぶようにカーン!と突き抜けて行く気持ちのいい運転だった。

 
〔あのキャラの出身地はね?海男と山男がケンカしながら育って、野球で仲直りするよーなイイトコなんですよね?だっからあんな人が多い!なんであんなにリアルなのかボク不思議でしょうが無いんだよね?取材でもしたのかな~?と思ってね?······〕

「あ~、藍罠さんの妹ちゃんに会いたかったな~、でもお仕事じゃしょうがないですんもんねぇ?妹ちゃんも宇留うりくんと今日一緒にいれたら良かったのにですのんにねぇ?」

「ははは······」

 車内は冷房がただ効いているだけでは無い位にキンとした心地いい空気に満ち溢れていた。
 まるで高名な神社の境内のように清廉な雰囲気に満ちている。

 高性能な空気清浄機を装備しているのかも知れないが、更に狭い助手席のシートに座っていても一向に疲れが来ない。
 車内のビターなフレグランスも程好く香り、あまり馴染みの無い和風フローラルな感じが気分を落ち着かせてくれる。
 聞けばフレーバーを音出オリジナルでミックスして芳香剤ケースにセットしているのだとか。
 藍罠は個人的に今度トライしてみようと思った。

 ラジオに出演中のナントカ教授は、マンガのキャラトークに余念が無く、また音出もこのパーソナリティーと張り合っているのでは?と思う程両者共に口が止まらない。
 それにしても音出は、宇留とは資料館で会った事があるという事だったが、何故教えた事も無い磨瑠香の事まで知っているのか?とも藍罠は思った。

(え?磨瑠香あいつと宇留が一緒に??···あ!七夕!今日七夕か!それならね?こないだもう川っぺりでイチャイチャ済みだから多分大丈夫ですよ?なんか最後は宇留と一緒にT都に帰れないって聞いてガクーンとしてましたけどね?せっかく告白のタイミングにも良かったんですけどねぇ?宇留のご家族との時間を優先してあげた妹はホントにイイコなんですよぉ!)

 なんて言える訳がない。

 ネタバレ魔の自分と違い、宇留はあまりそういうひけらかしはしないタイプだと思ったので、せめて自分からはいつかの約束通りネタバレは無し!!、のハズだった。しかし···
「えー!そうなんですかぁ?いいなぁ?甘酸っパイン!」
 あれ?伝わった?
 それ以外にも何で知ってるんだァ!的なそれっぽい会話も音出はちょくちょく織り込んで来た。大抵疑問を投げ掛ける前に次の会話に進むので少し消化不良に陥るのだが、自分のネタバレ魔癖という普段の行いの悪さのしっぺ返しだと思って藍罠はすんなり諦めてしまう······あと、出来ればちゃんと前を向いて運転してほしい。

 そう思いながら藍罠の男性システムは、フットペダルを操る音出のタイトスカートから見え隠れする膝頭に勝手に視線を誘導しようとする。
 しかし自身のシステムを制御出来ずしてメカオペレーターの資格ナシと心得ている藍罠は、その都度瞳を閉じて音出に失礼の無いようその誘導を拒む。

 音出はそんな藍罠の心遣いが嬉しくて、ウキウキを隠せないでいた。

 どうして今まで殆どなんの脈絡もなかった藍罠じぶんに、何処からこんな積もる話が出て来たのか?
 初めはちょっとうるさいと思っていた途切れと噛み合いの無い会話も、ラジオからのトークだけをミュートしたくなってきた。
 
 藍罠はどうせなら、良く通る音出の軽やかに弾む声だけをずっと聞いていたいと思うようになっていた。


 乗車後、初めて訪れる数秒の沈黙。
 偶然、ラジオのオッサンも黙って間を置いた。


「···あ!もうそろそろ!お茶にしましょう!」
「え?」
「休憩です!」
 音出の車はタイミング良くサービスエリアに車線を変更する。




「こっちですよ?」
 お茶セットのカゴを持った音出は藍罠を先導し、サービスエリア内の小高い公園になっているレジャーエリアへと招いた。
 運転用にスニーカーを履いている音出の背は普段会う時よりも低く、藍罠の目線より少し下だった事に今更気付く。
 夏の日中だというのに空気は温く乾いていて、午前中の日差しも気持ち良い。藍罠の前を行く音出は何処かへ連絡を入れている。
「あ!渡呼浜とこはまのスナモグサマ!鍋子のヌシサマに連絡網お願いしますん!復活の王子様が間もなくお帰りですと言えばわかりますのではい!おかげさまで!よろしくお願いします!」
「?」
 何かの暗号かな?と藍罠は思った。


「どのくらい入れますか?」
「?」
 レジャーエリアの木陰にある東屋に席を取った音出は、茶葉の入った缶の蓋を開け、藍罠に差し出した。
「これは?」
「甘茶ですよ?」
「アマチャ?」
 缶の中には、凝縮し小さくなった茶葉が入っている。
「えーと?」
 藍罠は、乾燥して小さいがそれでも大きめの茶葉を三つほどミニトングで摘み、携帯用の鉄瓶の中に放り込んだ。
「このくらいですか?アマチャなんて初めて飲みま······」
「にっひっひぃ!」
「?!」
 音出はいきなりイタズラっぽい笑顔になった。
「え?」
 藍罠も笑顔で返す。
「まぁ!これで行ってみましょー!あ!氷もありますからね?」
 相変わらず音出ははにかんだままだ。
「あっ!、まずは淹れたてホットでお願いします!」
「そうですか?てぃひぃひぃ···!」
「?」

 藍罠は音出の反応が気にはなったが、保温水筒のお湯を鉄瓶に注ぐ音出の手先を眺めていた。

「むぐお!」

 恐る恐る甘茶をすすった藍罠の口内を、甘さの嵐が駆け抜ける。
 想像以上の甘味の奔流に、纏わりついた甘さのせいで舌や歯が飴細工に変わったのでは?と錯覚さえした。
 振る舞ってくれた音出の手前吹き出す訳にもいかず、かと言って飲み込めば瞬間的に糖尿病にでもなるんじゃないか?との無根拠な考えがまかり通りそうになる。あと虫歯の無い藍罠でもなんか歯が痛い気がする。これはあれだ!苦いおセンブリ茶の逆ベクトル的な奴だ!と、もうちょいほのかで優しい甘さを期待していた藍罠の目が泳ぎ始めるのを、音出は口元を手で抑え、引き続きニマニマとイタズラっぽい笑顔で見守っている。
「大丈夫ですよ?悪いものは入ってませんから。でもお茶っ葉三つは多すぎでしたねぇ?無理しなくてもいいですよ?藍罠さん!」
 そう言いながら藍罠と同じ濃度であろう甘茶を、音出は涼しい表情で飲み干した。
「···!、オイシーィ!」
「ぬむ!」
 対抗心を燃やした藍罠は、グッと口内の甘茶を飲み干し、更に紙コップの残りも我慢して完飲する。
「あぁあ!そんなに···」
「ご!こむ!ご!ご馳走様で し た!」
 今年一年分の糖分を一瞬で摂取してしまったかのような錯覚に、藍罠は震えた。

「もうそろそろかなん?」
 (す、すっげぇー!)
 砂糖のXXXX倍の衝撃に、打ちのめされた藍罠がカロコロと氷をダイレクトに頬張り始めた頃、音出は東の空を気にし始めた。
「あ!藍罠さん!来ましたよ?」
「ぇ?」

 レジャーエリアの眼下に広がる田園風景の向こう。
 東の青空の遠く山の上を、明らかにそれと分かるオレンジ色の流星が切り取るかのように真っ直ぐ進んでいく。

 (アンバーニオン?宇留か?)
「···」

 アンバーニオンはブレる事無く、真っ直ぐに南下して飛び去って行った。
「なんはよ?もうふこしふゆっくりしへったらひいのに?」
「近々なんかありそうですねぇ?南の方で?」
「ふぇ?」
 そういえば共上さんがそんな事をほのめかしていた気がする。
「では!私達も急ぎましょうね?」
 音出は片付け済みのお茶セットが入ったカゴを持つと、そそくさと車の方へ向かって歩き出した。
 藍罠も音出の後を追って歩き出すと、今まで我慢していたかのように黙っていたセミ達が一斉に鳴き出し、その合唱が藍罠の背中を叩く。

 藍罠は、こんな事前にもあった気がするな?と思いながらレジャーエリアの東屋を後にする。

 前方を歩く音出のシルエットは、さほど遠くでも無いのに陽炎に揺れていた。
 

 


















 










 
 




 
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