神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

文字の大きさ
上 下
29 / 202
復活!琥珀の闘神!

いつかのひと

しおりを挟む

〔まさか良夢いいゆめに居たとはな?全然気が付かなかったぞ?〕

 藍罠は重拳隊の隊長である茂坂の連絡を自席の固定電話で受けた。

 7月7日 (水) 晴れ。

 I県徳盛とくもり市、国防隊隊員募集事務所。
 現在、朝イチで二名の応募者が本オフィスで相談中だが、藍罠が今居る倉庫兼資料室は普段通り静かなものだった。
 作戦外での対策を練り込む上でのシークレットオフィスと言えば聞こえは良いのかも知れないが、実際は時代遅れの雰囲気が漂う埃っぽい溜まり場のような所で、殆ど藍罠と椎山くらいしか詰めていなかった場所だ。
 しかし藍罠が面と向かう椎山の机からはどんな細かい物品までも撤去されていて、倉庫の全資料も最近全て調査が行われたのちに整理整頓がなされ、棚にはピシリと綺麗にファイル等が並んでいる。藍罠は椎山の机を見つめ、神妙な面持ちで続けた。
「結局、椎さん···ゴーザン本人は良夢村には現れませんでした。奴の部下以外は···」
〔部下だと?〕
「はい、“ラッコの上着„奪還の際にゴーザンと一緒に居たっぽいヤツです。椎さんゴーザンと戦え、と···」
〔ふぅむ···そう···か···〕
「しかし大丈夫なんですか?事務所ここから連絡して」
〔···人手不足がシャレになっとらん、もうそろそろ身内が怪しいなんて余裕ぶってる場合じゃ無さそうだぞ?〕
「うぅ···そうですか、胸が痛い所で···」
〔アノ帝国は今や地球規模で手を広げている。あっちでバイト中のお前なら知っているかもしれんが、世界各地で今まで知られていなかった琥珀の巨神達も出現して帝国の所業に立ち向かいつつある〕
「!」
 藍罠は共上に渡された資料をめくり、これか?と未確認アンノウンスタンプが押された遠写のピンボケロング ショット写真に眼を落とす。
〔···琥珀の騎馬ウマ、琥珀の魔女、琥珀特急、未確認の琥珀様水中物体···などの情報がこちらにも流れて来ている〕
「そ、そうですか···(宇留の仲間が)そんなに······頼もしいですね?」
〔ああ!改めて奪還感謝する!近くにあると聞いて安心だ!貝を割る日を楽しみにしている〕
「はい、ありがとうございます!」
〔それで?次の動きはどうするんだ?〕
「···!」
 藍罠はわざとらしいか?と思いながらあえて答える。この会話をどこかで“誰か„が聞いていれば、と願って。
「次のミッションの為にT都方面へ、もうすぐ迎えが来ると思うんですけど」
「妹ちゃん“達„とはバラバラで帰省か?一人づつで大丈夫か?」
「はい、妹はなんかその事で一人でブーブー言ってましたけど···」

 宇留達は家族で軸泉市に集合して、一日まったりするそうだ。共上さんはその後宇留達には、近々ミッションがあるとかなんとかたくらんでたのが気になるが······

 藍罠はそんな宇留達の団欒の邪魔はするまいと、あえて報告を挟まなかった。
 
「“知り合い„の探偵さんが“偶然„新幹線に乗り合わせだったので多分妹は大丈夫でしょう。いやぁ、あの人はイツミテモ雄大な人ですね?多分、事件事故席ジャック電子レンジ大爆破何でも解決しちゃいますよ?」
〔“偶然„か!それは頼もしいな!〕
 口調のノリから、茂坂も藍罠の意図を汲んだらしい。だがその時···
「藍罠さんっ、お客様です!」
 募集事務所スタッフの女性が藍罠を呼びに来た。
「あ!もうですか?はーい!了解!」
 入隊相談中の若者は、藍罠の了解の言葉を聞いて、スゲー本当に国防隊は了解って言うんだ!と内心興奮していた。
〔じゃあまた後でな藍罠!ムチャはするなよ?〕
「はい!では後程」


 すっげ強くなっててレーしいよ?またな?


「!···」
 藍罠は受話器を戻した。何故か、あの少年の語った言葉が脳裏をよぎる。
「そんな···俺なんて···全然無力だよ······」
 藍罠は僅かに項垂うなだれた。

 次の藍罠の作戦。
 ダミーの送迎車に乗り込み、関東地方へと移動。本当の行き先は移動後再指示。

 藍罠が謎の少年に貰った琥珀。ベデヘムとの戦いで、巨大な琥珀の腕を出現させた奇跡を起こしたその琥珀をしばらく眺めていた共上は、まるで今思いついたようなそんな指示を藍罠に下した。

 すぐ出れるように準備していた藍罠は急遽、磨瑠香のものと交換してもらったロボットキャリーバッグを連れて事務所出入り口にそそくさと向かう。
 藍罠が出入り口の引き戸を開けると、すぐ至近距離に音出 深侑里の笑顔があった。
「うわあ!」

「藍罠さーん!お久しぶりですー!」
「お!お?音出さん??」

 藍罠が音出に最後に会ったのは、確か春前頃だった。
 航空国防隊の資料館で受付として勤務する音出は、藍罠が隊の用事で訪れる度に何かとアプローチを掛けてくる職員だったので、良い意味でも悪い意味でも藍罠の印象に強く残る女性であった。
 訪ねて来た音出に藍罠が一瞬気が付かなかったのは、受付業務時のバッチリメイクとは異なり、清楚な薄化粧だった事に起因する。
 どちらも似合っているが、藍罠は比較的今の方が好印象だった。
「びっくりしたー!あれ?ひょっとして?」
「よろしくでございます!私が送迎さおくらせて頂きますね?!」
「ええ!音出さんが車出してくれんの?」

 きょ、共上さんん!······

 藍罠は非戦闘職に就く音出を、自分の危険な今の状況下に巻き込む事を懸念し、共上を少々恨んだ。だが音出の問いにそれもすぐ吹き飛ぶ。
「私じゃ、だ、だめだったんですか?」
 シュンと落ち込む音出を、藍罠は慌てて励ます。
「い!いや!そ、そんな事無いよ?よ!よろしくお願いしますね?音出さん!」
 何故だろう、いつも誰かや仲間をフォローする時よりも、一段と心臓が跳ねる。
「良かった!(実はここだけの話、楽しみにしてたんですんよ!)」
 ひそひそ話の為に、笑顔に戻った音出は藍罠の間合いに余裕で踏み込み耳元で囁いた。
「!!」

 ぬ!どうした俺!?隙だらけだぞ!?

 実際に藍罠は音出を綺麗な人と認めつつも、奇妙なテンションにいつも困惑し、少し苦手意識があったのかもしれないと自己嫌悪した。藍罠は自分の戸惑いが常時の隙を生んだと思っているようだが、実際に音出の踏み込みの方が早かったのだ。

 土地神修行中の鳥の女神にしてアンバーニオンの仲間。
 その名はオドデウス。
 音出 深侑里の本当の名前。

 彼女は友人達を支え、とある縁を結ぶ為、一路、藍罠と共にT都へと向かう作戦に挑もうとしていた。













 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神樹のアンバーニオン

芋多可 石行
SF
 不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。  彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···  今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!

芋多可 石行
SF
 琥珀の巨神、アンバーニオンと琥珀の小人、ヒメナと出会った主人公、須舞 宇留は、北東北での戦いを経て故郷の母校へと堂々復帰した。しかしそこで待っていたのは謎の転校生、月井度 現、そして現れる偽りの琥珀の魔神にして最凶の敵、ガルンシュタエンだった。  一方、重深隊の特殊潜水艦、鬼磯目の秘密に人々の心が揺れる中、迫り来る皇帝復活の時。そんな中、アンバーニオンに再び新たな力が宿る······  神樹のアンバーニオン  2  逆襲!神霧のガルンシュタエン  今、少年の非日常が琥珀色に輝き始める······

「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀

さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。 畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。 日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。 しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。 鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。 温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。 彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。 一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。 アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。 ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。 やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。 両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は? これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。 完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。

琥珀と二人の怪獣王 二大怪獣北海道の激闘

なべのすけ
SF
 海底の奥深くに眠っている、巨大怪獣が目覚め、中国海軍の原子力潜水艦を襲撃する大事件が勃発する!  自衛隊が潜水艦を捜索に行くと、巨大怪獣が現れ攻撃を受けて全滅する大事件が起こった!そんな最中に、好みも性格も全く対照的な幼馴染、宝田秀人と五島蘭の二人は学校にあった琥珀を調べていると、光出し、琥珀の中に封印されていた、もう一体の巨大怪獣に変身してしまう。自分達が人間であることを、理解してもらおうとするが、自衛隊から攻撃を受け、更に他の怪獣からも攻撃を受けてしまい、なし崩し的に戦う事になってしまう!  襲い掛かる怪獣の魔の手に、祖国を守ろうとする自衛隊の戦力、三つ巴の戦いが起こる中、蘭と秀人の二人は平和な生活を取り戻し、人間の姿に戻る事が出来るのか? (注意) この作品は2021年2月から同年3月31日まで連載した、「琥珀色の怪獣王」のリブートとなっております。 「琥珀色の怪獣王」はリブート版公開に伴い公開を停止しております。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...