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復活!琥珀の闘神!
波遊び
しおりを挟む国道から十字路を海側に曲がってすぐ、車でガード下を潜り、そのまた次の十字路をまっすぐ、防波堤の道路水門の手前空き地に入りちょっと一時停止。
タイヤが空き地の砂利を弾き飛ばし、海浜公園の看板ポールへ二粒程カカンと当たったが、対応はまた後で。
作戦五分前。
〔各員配置完了、ターゲットを視認中〕
〔海水浴客が想像以上に多い〕
〔それがターゲットの狙いだろう?〕
〔なんだあの格好、暑苦しい〕
〔なんだあの格好!うおお!〕
〔見とれるな!見えてるぞ?お前帰ったらオボ···記憶しとけよ?〕
〔すいません〕
「イヤモウなんなんだろうね?」
「くっくっく!」
ワックスがデラつく淡いオレンジ色のスポーツ系ミニカー。
この女性本人は掴み所こそ無いものの、今のところ車の趣味だけは私と合致する事がついさっき分かったばかりだ。
国防隊、空の特殊事象対応分隊。航空重翼隊が運用する特殊戦闘機 裂断のパイロットの女性隊員、追佐和 鈴蘭は運転席で笑う同隊の女性職員である音出 深侑里に車で送迎され、とある作戦の為に某海浜公園を訪れていた。
鈴蘭が時計を見ていると、左耳に装着したマイクのイヤフォンから隊長の八野の声がした。
〔ダミーの送迎車は現在異常ナシだ!そっちは?〕
「昨夜、等和田教官にノンアルで粘り付き合ってちょい疲れてる以外異常ナシです」
〔そ、そっか?大変だったな?〕
「連チャン第二ラウンドだったそうでなんとかなりましたけどね?で!隊長?やっぱりイタズラなんじゃぁないですか?こんな大袈裟なぁ?···」
〔資料館のご意見ボックスに、今時コラレタシって紙切れ投函したヤツを洗った結果、(客が少なく過ぎてそいつの一枚のみだったからな?フフフ···)そいつが接触していた人物がその近くで待ってる。こいつだ!〕
♪
鈴蘭の隊用端末に画像ファイルが届く。
「こ、このヒト!?今頃になって?!」
〔慎重にな? ガンバレヨォ?〕
「うわぁ!」
鈴蘭はがっかりと項垂れながら端末をバッグに仕舞う。
「あ、音出さん?」
「はいん?」
「帰省前に隊長の分乗作戦に付き合って頂いてありがとうございました!音出さんの今日のミッションはここで終了となります!お疲れ様でした!イイお休みを!」
鈴蘭は右手の人差し指と中指をピンと揃え、額に接すると同時に全ての指先を揃える敬礼を狭い助手席でぎこちなく音出に送った。
「う!ぇっし!です!」
音出もそれに習い、同じ敬礼を鈴蘭よりもぎこちなく返す。
「何にも無いといいんですがねん?」
「何か起こる前に早く行った方がいいですよ?」
そう言いながら鈴蘭は降車する。涼しかった車内との気温差で、直射日光が当たる肌がピリッと痛んだ。
7月6日 (火)
ここは重翼隊の基地があるA県と、I県との県境にある港町。
音出さんは、このままI県北部の実家に帰省したのちに旅行だそうだ。と車内の雑談で聞いた。いいなぁ?
音出さんの車がテキパキと走り去っていく。ごめんね?本当に大袈裟な事に巻き込んで?
目線の先にあった門のお店の軒先で、笹の葉飾りが夏の風に揺れる。
そう言えば明日は七夕か!
音出さんはもしかしてヒコボシ様の所へ行ったのかな?!
鈴蘭は多少ニヤつきながら道路水門の扉を歩いて潜る。
その時、自転車に乗って鈴蘭とすれ違った男子高校生のグループが振り返ったのは、鈴蘭が着用していた国防隊の夏季礼服がその場には場違いだからという訳だけではなかった。
遠目にターゲットが眼に入る。海浜公園の駐車場を道路で挟んだ防波堤の手前側。
その男はこちらに背を向けて立ち、明らかにソワソワしている。この炎天下に燕尾服を着て、花束を持っているようだ。
鈴蘭の瞳孔に殺気が漲る。しかし、なるべく気配は消すよう努めた。
海浜公園の駐車場で準備するサーファーのカップル。意味も無く車の整理整頓を繰り返す海水浴客。近くの孵化場で作業する職員など、変装した隊員達が二人に目を光らせた。
「!」
燕尾服の男は鈴蘭の気配に気付き振り返る。と同時に嬉しそうな表情は、幻滅のそれに変わる。
「えええ?」
「な!失礼な!せっかくお呼び立てに参上したと言うのに!」
駐車場にいる一般客もチラホラと鈴蘭達に注目し始めた。
「だってー!仕事モードなんだもーん!」
「んな!当たり前だ!岩鵜巡査!いや!今はアノ帝国のヒトなのかな?」
「ど!どうしてわかった!」
「バレバレだわ!元身内相手に諜報力をこの国が最大限発揮する程でももない!んで!私になんの用だ!!」
「追佐和 鈴蘭!俺と決闘しろ!俺のエゴザーガとあんたのマシン!どっちが強いか勝負だ!」
「はぁ?」
「子供っぽ!」
マイクで鈴蘭の会話を拾って聞いていた八野が思わず独りコメントする。
「日時座標についてはメモを炙り出してみるんだな?ではさらばだ!」
「は?まさかの理科!?って!あ!」
ターゲットが逃げる!
その男、アルオスゴロノ帝国の戦士ハグスファンは、鈴蘭の頭上に花束を放り投げた。
花束はパシッと火薬で弾け、造花の花びらが周囲に舞う。
「!」
鈴蘭がそれに気を取られている隙に、ハグスファンは燕尾をたなびかせながら、ヨットハーバー方面へと猛ダッシュで走り始めた。ハグスファンを追って走り出す変装隊員達に続き、鈴蘭もその後を追う。
〔逃がすな!〕
焦る八野の口調に反して、隊員達にはまだ余裕があった。ハグスファンは海側に向かっている。このまま埠頭の先に追い詰められるという自負が隊員達にはあった。
「うおー!税金で鍛えた足ィ!」
「俺らもだァ!待てぇ!」
その余裕からか、ハグスファンの幼稚な煽りに恥な返答を返しながら走る隊員達。
「なに言ってんの!」
走る鈴蘭の足の力が少し抜けた。
ハグスファンは、公園に備え付けの小型潜水艇の形をしたモニュメントの中に隠していた丸い金魚鉢のような透明ヘルメットを迅速に回収し、再び猛ダッシュで埠頭の先を目指す。
「しまった!潜る気か!」
海水浴客を避けながら、まるでラグビー選手のように金魚鉢を抱えて走るハグスファンを追う隊員達の視線がヤバいと訴える。
「ビィブァ!」
何かを叫んだハグスファンは、逆さまにした金魚鉢をガポッと被り、一際高い防波壁に向かって走る。
グァザヴァァァァーー!
「!」
その防波壁の向こうの海から巨大な水柱が上がる。海浜公園は、すぐに悲鳴に包まれた。
オゥロオオオーゥ!
水柱から雄叫びを伴って現れた巨大なヌタウナギのような怪獣は、走るハグスファンを頭上からガプッと咥えると、まるで逆再生のように海へと引き込まれて消えた。
「な!こんな所に?いきなり!怪獣ぃぅおわ!」
波飛沫に混ざって地面に落ちた怪獣ビィブァの粘液によって、先頭を走る隊員が転倒する。鈴蘭はギリギリ水溜まり粘液の前でストップ出来た。
「くそっ!」
「ダイジョブか?」
「もっと道具持ってくりゃ良かった!」
「本部!至急応援を!海浜公園の状況は······」
「く···」
悔しそうにしていた鈴蘭の衣服に付いていた人工の花びらがパラっと落ちる。
「告白じゃないのかよ!?」
隊員達が対応策にに勤しむ中、怒って防波堤の方向に戻る鈴蘭にサーファー姿の女性隊員が寄り添う。
「あれ?愛の告白の方が良かった?」
騒ぎが広がる中、女性隊員は焦りつつも、満更でも無さそうな鈴蘭を見てニンマリとしていた。
「違います!冗談です!···顔は覚えたぞ!あのヤロウ!」
「!」
鈴蘭の八つ当たりに睨まれたカモメの群れが波打ち際から一斉に飛び立って、日光を斑に遮った。
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