神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

志しの向こう

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 全方位星空の空間で光が剣を振り下ろす。
 その人型の光は一瞬しか姿を現さないので、
 剣で受ける自分もギリギリ防戦一方だ。
 他者に自分の戦うタイミングを強制されているという焦燥感。
 悔しかった。自分は真剣に向き合っているはずだ。
 光は渾身の力を込めて自分を斬り砕いた。
 焦りの隙を突かれた。
 敗北。
 
 しかし、人型の光の方もぐったりと宙に体を横たえている。

 相討ちだろうか?

 動かない体の視線の先。
 千切れた肘から先の黒い腕がスッと星空を横切る。
 星空をスモークグレーに透かすその腕は、何故か自分の手だと思った。
 もう自分には何も残されてはいない。
 悔しかった。指示されたいわれた通り、自分は真剣に向き合ったはずだ。

 目が慣れる。
 光だと思っていたヒト型·····
 アンバーニオンが、ゆっくりともっと強い光の中へと吸い込まれていった。




 星空にザプザプと強めの波音が混じる。
 星空はその夢と同じ星の位置にその瞬きを湛えていた。
 どこからが夢でどこからが現実だったのか、
 ゲルナイドにはわからなかった。

 
 いつの間にか船着き場の先端で眠っていたゲルナイドは、星暗闇の中で自分の左腕がちゃんと付いているか確かめた。
 今夜は波が強く、波頭の先端から飛び散った海水の粒が頬に細かく当たる。それと同時に、ボボボと風の音が耳元を通り過ぎていく。
 見上げた目線の上に掲げた左腕のシルエットが星の海を暗黒で覆ったのも束の間、近くの小さい灯台の赤い点滅ランプがフッとゲルナイドの左腕を照らす。
 どうやらこの中枢活動体の腕に限っては大丈夫なようだ。
「!」
 ゲルナイドはその肘の違和感が薄れている事に気付いた。立ち上がるとややではあるが、スムーズに間接が思った事を汲み取り動く。今朝は昨日よりも調子がかんばしくなく、今後の諦めすら脳裏をよぎったというのに······
 ゲルナイドは立ち上がり、ヌシサマの祠に向かう帰路についた。
 少々フラフラしていたが、着実に回復しているという事実は喜びとなって心を支えた。
「待っていろ、アンバーニオ······?」
 ゲルナイドは自分が宿敵を呼ぶバリエーションに芸が無いな?と初めて思った。それは次の一手を考える切っ掛けになると共に、アンバーニオンへの執着心について疑問に思った瞬間でもあった。


 暗い波間でそんなゲルナイドを見つめていた“人物„が浮かんでいる。
 クラゲの体のような白い半透明な人物は肩から上を海上に付き出し、ゲルナイドが住宅街の方へと戻って行くのを微妙に高い波の間からこっそりと見守っていた。
 





 7月6日 (火) 早朝。
 T都、馬瀬間まぜま区。


 怪獣大丈夫だった?

  大丈夫!

 なんか最近まるかのまわりに怪獣がよく出るね?心配

  汗と笑顔のイラストスタンプ。

 いつこっち帰るの?

  あした。ヒコボシサマも連れて行く

 
  かも?

 え?誰!?

  ひみつ

 うそ?まじめに!心当たりあるよ?

  明日までのひみつ真剣! タァ!

 わかった!  ヤァ!

 マユミコ委員長は磨瑠香とのメッセージのやりとりの間に、学校にしばらく来ていない宇留の事を考えた。
 磨瑠香の秘密を了承こそしたものの、ここ数ヶ月ですっかりセットになった感のある当の磨瑠香が語る事と言えば、宇留の事ばかりだった。(独断と偏見)
 どんないきさつがあったにせよ、恐らく行方不明の宇留を見つけたのだろう。クラス委員長として仲間の生存確認の吉報が届くかも知れないという期待は、マユミコ委員長の寝惚ねぼまなこをスッキリと覚ましていく。

 良い事がひとつ、ふたつ······

 マユミコ委員長は、テンションが上がったついでに語っちゃおうか?と決定する。

 コンタクトデビューしますよ?今週

  マジで!?

 あとこっちにもヒコボシサマばなしがあるもんね?

  うおお!?

 あしたです!待ってるね!あちょぉ!

  ぐああ!

  コンタクトの写真送って?

 いいよ侍

 マユミコ委員長は、あらかじめ用意していた指揮棒タクトを振る燕尾服のキツネのイラストを磨瑠香に送信した。




 登校前、身支度を整え、家のリビングにやって来たマユミコ委員長は、父親と話す誰かの声に気が付いた。
 お客さん?、だれ?
 マユミコ委員長がリビングの入り口から顔を出すと、父親の谷泉 志太朗大しだろうたと、スーツ姿でマスクの男性が話をしていた。
 母親の琴梨ことりは、煎茶を三人分リビングのテーブルの上に置くと、
か細くおはよう!とだけマユミコ委員長に告げて、やや不機嫌そうに席を外した。
「まゆ?今ちょっといいか?」
「?」
「この人は父さんの仕事の関係先の人でな?」

「おはようございますお嬢さん。こんな朝早くに申し訳ございません」

 と、言って男性が差し出した名刺には、

 キーヴィレイブ研究所 根継桁ねつぎけた 程九ほどく

 他、マユミコ委員長にはよくわからない肩書きがビッシリと描かれていた。
 
「はい!、えっと?」
「学校の前に申し訳ありませんね?少し急を要するものですから」
「マユ?少しだけ聞き取りのお話してもらってもいいか?」
「私に?」
「更にすいませんねぇ?お話の内容によっては今日学校をお休みして頂く···?かもしれません」
「え?!」
「月井度 アラワルくん、ご存知ですよね?」
「!」
 マユミコ委員長はゾッとした。些細な、しかし穏やかな記憶に土足で踏み込まれる予感。

 この人は多分、月井度くんを襲った怪獣の話を聞きに来たんだ!

 マユミコ委員長は上の空で根継桁の前置きを聞く。
 現が怪獣に危害を加えられた事件を当研究所は把握している事、保護者が行方不明かつ、不自然に関係先から失踪届けや、あらゆる確認事項が請求されていない事、マユミコ委員長が週末に遊びに行った祖父宅近くで現の目撃報告がある事。そして今日の訪問に至るまでに、こちらの情報をやむを得ず調査した事。
 個人情報に関してはあまりいい気分ではなかった。マユミコ委員長が志太朗大を見ると苦虫を噛み潰すような表情で黙っている。父親としても娘の前で個人情報をひけらかされるのは、あまりいい気分では無いのだろう。しかし根継桁は容赦なく次の嫌悪感をタブレット端末の画面に表示して差し出してきた。
「···これは先日、某SNSサイトに投稿された鍋子東漁港の写真です」
 根継桁は写真のある部分をピンチアウトで拡大する。
「この二人、あなたと彼では?」
 そこには確かに、ゲルナイドと談笑するマユミコ委員長の姿が偶然か否か、写っていた。
「そ、そうですね?」
「そうですか!では、後ろの赤い服の女性は?」
「?」
 よく見ると二人から数歩引いた後ろに、赤い服を着た女性が立ってマユミコ委員長達を見ていた。
「え?!こんなヒトいたかな?」
「そうですか?、ではそれはいいとして、本当に彼と会ったんですね?」
「はい!私、もう会えないと思っていたクラスの仲間に会えて嬉しくて、てっきり何処かで保護してもらってたと思ってて···今どうしてる?とか、大ケガをしたとか以外何も詳しい話は······?」
「そうですか!わかりました。お嬢さん?お父様も、落ち着いて聞いて下さい。ここからが本題です」
 根継桁はタブレット端末他、全ての資料をカバンへと仕舞う。
「彼、月井度 現くんは怪獣の摂食行為により怪獣の体組織に濃厚接触した影響で、未知の病原体に感染している恐れがあります。そして彼と接触した君も例外では無い!」
「え?!」
「一度我々の検査を受けて頂けませんか?そしてもし彼がまともな保護を受けていないのだとしたら、しっかりと現状を確認する為にも、あなたに協力して頂きたい!あなたを、ひいては彼を守る為でもあるのです!」
「そんな!?」
「マユ······きっと大丈夫だ、心配するな?」
 志太朗大が諭すようにマユミコ委員長に語り掛ける。
「玄関前で女性スタッフが待機しています。準備が出来たらみなさんで我々の車両へ!」
「ヒ······!」
 マユミコ委員長の直りかけていた悪い癖、引き笑いが少しだけ戻って来た。


 最悪だった。
 現への疑問よりも、日常を踏み荒らされた気分の方がよほどマユミコ委員長の心の中で汚く渦巻いていた。
 チリリリ······
 そんな時、制服から私服に着替え直したマユミコ委員長の耳に鈴の囁きが涼やかに響き渡る。
 祖父の家にあった釣竿用の紫メッキの鈴を、マユミコ委員長がかわいいと言った所、祖父がものの二~三十分でストラップに改造してプレゼントしてくれたものだ。
「?」
 マユミコ委員長はそのストラップが付いた財布を不思議そうな表情で手に取る。
「記憶が無くなる位イヤな事があって、怪獣に食べられて、助かったのに今度は病気なんて、かわいそうだよ!」
 マユミコ委員長は鈴のストラップをキュッと握り締めた。
 体調は今の所悪く無い。しかしマユミコ委員長は、ゲルナイドの事が心配だった。



 谷泉家を乗せたキーヴィレイブ研究所の車を玄関先で見送った根継桁は、スマホでどこかへと電話を掛ける。
「······お疲れ様です。こちらの偽装工作カバーは完了。引き続き、鍋子の現場に合流します」

〔ご苦労〕

 電話口の向こうで、中年男性の声が根継桁をねぎらった。
 
 
 
 
 
 







 

 
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