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復活!琥珀の闘神!
試 験 勉 強
しおりを挟む「はぃー!」
どこまでも広がるオレンジ色に光る絨毯、黒い空、地平線の先で連なり、天に向かって手を振っている炎。
漆黒の超巨大樹を背に立つ青年、ムスアウは、一人学習机の椅子に座って手を挙げている宇留相手の個人授業に勤しんでいた。
「はい?宇留君?」
ムスアウはその場でクッと掌を宇留に差し向ける。
「まず、アンバーニオンって何ですか?」
ムスアウは宇留を見たままでウンと頷きニコッと微笑んだ。
「本来は古来、地球に降って来た太陽の樹の硬化樹液から今は名も無き王国が削り出した儀礼用のシンプルでデカイ琥珀人形だった。最初の頃はちょっとスゴイ遊園地のアトラクションみたいなもんでな?あとは当時のヒト達が機能を加えたり、太陽に勝手に里帰りしちゃっては能力を付け加えられたり···んで私の時代、結局戦う為の巨人にせざるを得なかった時に開発師は嘆いてたけど······そんな憤りをどっかに仕舞って愛を込めてアンバーニオンを戦士として完成させてくれたよ?その後ももっと能力や機能の詰め込みは続くんだけど······」
「先輩、ヒメナはそこまで教えてくれなかったですよ?」
「そうだな?特に問題は無かったろ?···実はヒメナはな?···後から···イヤ?···あえて記憶を大袈裟では無い程度に忘れやすくなるようになってるのさ?」
「?!」
ヒメナがまるで何かの部品であるかのように語るムスアウの口調に、宇留の眉間がキンと潜む。
「まぁまぁ!聞いてくれ!?、記憶力が上がった状態で忘れづらいと逆に苦しいんだよ!その為の調整だ!忘れの術をキャンセルした私が言うンだから間違いない!ヒメナの為だ!あんなちっちゃい体にそんな負担させる訳ねーだろ?、ちなみにねぇ?ムス···イヤ!私はというと無理矢理慣らしたもんね!?その結果······おっと!今日はここら辺までだな?」
「はぁ······はい」
「大変だろうけど、これからヒモロギング ドライヴ、上手く使いこなしてみせてくれよ?」
「······」
宇留が机の上にある白紙のノートの上に琥珀のペンを置くと、ノートとペンごと机が光って消える。
椅子から立ち上がった宇留は、ムスアウを難しそうな眼差しで見つめた。
「アンバーニオン操珀者、最終講習初回!、次回もお楽しみに!体感時間五十分、実時間十分、現実経過時間0、05秒!戻ったら気をつけろよ?」
その挨拶はムスアウからではなく、後方に聳える漆黒の巨大樹、神椚から聞こえたように宇留には思えた。
※前回のお話から1秒後。
ベデヘム軍団を倒し、立ちすくむアンバーニオンとガルンシュタエンを包囲したのは、三機の国防隊の偵察ヘリだった。
〔まさか?フェイクサニアンだと?何故サニアン ワンと共に?〕
〔ん?よく似ているがコイツは?〕
〔ま、共闘?!〕
先輩······?
宇留は輝くしおりの一枚。ヒモロギング ドライヴについて。から手を離し、アンバーニオンの周囲を興味深げに飛び回るヘリに視線を移した。
新しいエンジンの事何も言って無かったような気がする?と、感じた宇留が再びしおりに目を戻すと、光って良く見えないしおりの表面に何か書いてある。
キミたちのキモチはソンナものナノかなあ?
「ん?······?」
宇留がその文を理解しようとしていると、しおりの輝きは更に増して文字は見えなくなった。
ヴェシュウウウウウウ!
「!」
「!?」
倒れたベデヘム達の体から気体が抜ける時のような音が響く。
そして空気が抜けていく風船のように萎んだベデヘム達の体の一部でモゾモゾと何かが蠢いたかと思うと、ピスタチオのような殻からハエの羽が生えた奇妙な物体がそれぞれの体から四つ飛び出し、超高速で南東方向へと飛び去った。
恐らくベデヘムの中枢活動体達が脱出したのだろう。アンバーニオンもガルンシュタエンも、去る者を追う事はしなかった。
逆にガルンシュタエンの中のエシュタガは、国防隊のヘリに良い視線を向けないままため息をついた。
(ふぅ···、さて!試乗でもして来るか··また後でマスターの家で会おう?宇留?)
「あ!」
エシュタガの想文が宇留の意識をかすめると同時に、大小二機の戦闘機に一瞬で分離変形したガルンシュタエンが急上昇し、宇留がいつか何かの動画で視た未確認飛行物体のように鬼加速して飛んで行った。
「全くもー!なんと言うか?」
「もう···ね?···」
宇留とヒメナはやや呆れたような笑顔でガルンファイターとギノダラスを見送る。
未だ変わらずヒメナとの会話で胸は高鳴り、既にムスアウとの授業も今朝の夢のように全体像はよく思い出せない。整理しなければならない事は正直山積みだが、達成感だけはジワッと心に染み渡っている。
仲間と呼ぶにはまだ早いかな?と、宇留達は二機が飛び去った青空を見ていた。
良夢村分校の屋上。
「?ー」
磨瑠香は口をポカンと開けてロケットよりも早く急上昇して行った飛行物体が残した飛行機雲を目で追っている。
磨瑠香の横には、軸泉の土地神である丘越 折子こと、慈神 バジーク アライズが、ブスッとした表情のお供、茶トラ猫のアッカを抱いて立っていた。
条件が整わないと常人には認識出来ない二人は、今のところ磨瑠香には認識不能の状態である。
「太陽の樹は彼らの存在を認めたようね?」
「ハテサテ?どうなります事やらねぇ?」
折子の腕の中で何故か不満げなアッカは、吐き捨てるようにボヤいた。
翌日早朝。
事後処理のゴタゴタに宇留が巻き込まれないように配慮した共上の機転によって、宇留は緒向の家に戻っていた。
アンバーニオンに再搭乗した影響か、頭髪は以前と同じ髪型に戻っている。
宇留が洗面所の鏡とにらめっこをしていると、夜の間にいつの間にか帰って来ていたエシュタガの歩く音がした。何故か歩く音で誰か分かってしまう自分が居る。
宇留が足音を追って居間まで来ると、エシュタガは既に靴を履いて出掛けようとしている所だった。
「!、おはよう!」
「お、はよう···?」
エシュタガも宇留同様に髪が伸びているようだったが、頭髪はラフな七三に分けられ、日焼けしたジーンズにYシャツといったコーデに、黒く大きいリュックを背負っていた。
「マスターは結局あのまま、学校で避難してたヒト達と夜通しドンチャン騒ぎだった。テーブルの上に炊き出しおにぎりとコンロに豚汁の残りがある。朝食にしてくれ?」
「···どっか、行っちゃうの?」
「俺はどうやら死んだ人間らしいからな??、マスターにもご挨拶は済ませたし···次···って事さ?」
エシュタガの脳裏に、僅かに下げた頭を緒向に撫でられている最後の思い出がフラッシュバックする。エシュタガは恥ずかし紛れに、少し大きめのYシャツの襟を掴んだ。
「!······あの!」
「?」
「ご馳走···さま?」
「!、ああ、また会おう」
エシュタガはヒメナにフッと視線を合わせ、パタッと静かに土間の引き戸を閉めて緒向邸を去って行った。
「······」
宇留がテーブルの上に置いてあるラップに包まれた十個のおにぎりと箸置きに置かれた箸に視線を移すと、土間の引き戸が開いて磨瑠香が入って来た。
「宇留くん!ヒメナちゃん!」
「磨瑠香さん!」
「!」
自分の名を呼ぶ宇留の記憶が戻った事を悟った磨瑠香は、今度こそ!とばかりに足早に居間に駆け寄る。
「マルカ!!」
再会の抱擁を予感した宇留とヒメナだったが、それは台所から姿を現した人物によって阻まれてしまう。
「おはよ!豚汁アッタマったヨ?」
台所から豚汁の鍋を持ってスフィが出て来た。
「わ!居たんですか?!」
頭に赤い生地の派手なバンダナを巻き、後頭部で結んだ部分で金髪を結わえ、豹柄のTシャツに花柄のスカート、ドピンクのエプロンとパンダカラーの鍋掴みを着用しているスフィに宇留達は驚いた。
「あなた、ご飯にする?朝シャンする?それともタワシ?」
スフィの口調が何の脈絡も無くクール系の口調になる。あとちょっと意味がわからない。
「あ な た ??」
宇留はキョトンと磨瑠香の呟きを聞いていたが、すぐに誤解の気配を感じ取り、大慌てで訂正し始める。
「い!いぃ違、違うよ!こ、これは!?」
「違わないヨ?ボデーガァドだもん!(?)ホレ!メシ!クエ!」
スフィはスズズと自分のお椀から豚汁を啜る。
「んー!煮詰まってるウッ!痛いくらいあっふくて塩辛くてウマフ!!」
「だ!だ、だ、だ、そうです······」
磨瑠香は宇留の弁解を聞くも、頬を若干膨らませ不満げだった。
続けて磨瑠香がスフィの横に座り、「どこかで会いませんでしたか?」「!?」などとプレッシャーをかけ合ってていると、藍罠兄が遅れて緒向邸の土間を訪れた。
「押忍!元気か?宇留!」
「ヨキトさん!!おはようございます!」
「大丈夫そうだな宇留、!?、アイツは?······行っちまったか···?」
「······はい!」
すると藍罠の他にも誰か後ろに居る。
「ウル!!?」
藍罠の後ろから柚雲と風喜が顔を出した。
「姉ちゃん!!」
「ウルーーーーー!」
結局、今朝の宇留へのハグ権は柚雲が勝ち取っていった。
「!ーーーー、宇留!よ、よかったなぁ!?」
藍罠が明後日の方を向き、鼻先を指で摘まんでグフッと嗚咽を漏らす。
「やれやれ、急にニギヤカになっとるし!」
気を使い、外で柚雲を待つ風喜の横を通り抜け、緒向も帰宅した。
「ヒメちゃん!ウルを守ってくれてありがとう!私!何にも出来なかったから···心配で···」
「お姉さま?祈ってくれてありがとう。その気持ちはちゃんと力になってましたよ?私の方こそ、ウ、ウリュに···あ!···」
ヒメナの語り口が急に大人しくなり、手が恥ずかしそうに気道の上に伸びる。
「あれ?なんかヒメナちゃん今日カワイイ!どしたの?」
異変を察した磨瑠香が宇留達の側に戻って来た。
「彼ピとなんかイイ事でもあった?」
スフィが齧りかけのおにぎりを両手に一つずつ持ちながら余計な事を言った。
「「「「か、彼?!」」」」
宇留、磨瑠香、藍罠、柚雲の声が同時にハモる。
宇留の頬は紅潮し、心臓の鼓動が高鳴る。アンバーニオンに乗ってる時だけじゃないのかよう!と宇留は焦る。
何を考えてるんだ?···先輩!
宇留はヒモロギング ドライヴのしおりに書かれていた文字は誰の考えなのか?、と言葉の理由を考えていた。
だがここで緒向がこのやりとりに追い討ちを掛けて来た。
「そりゃあね?“ふたり„は、いついかなる時も肌身離れず一緒に······」
エシュタガは良夢村を程好く見下ろせる坂の途中まで登って来ていた。
「ねぇ、エシュタガ、これからどうするの?」
エシュタガの手首のブレスレットの中でガルンが問い掛ける。
「そうだな?少し遊ぶか、鍵村の家に帰るか···お前はどこか行きたい所はないか?」
「えええ!?そ、そんな事初めて言われたぁ!」
ガルンはモジモジと手を合わせ、自分の指を交互に揉んだ。だがすぐに真剣な表情に戻って更にエシュタガに質問する。
「······エシュタガ、怒らないで聞いて?······エスイちゃんの魂は···何処へ行ったのかな?」
「!!!」
その時、遠くからワー!キャー!と喚く声が聞こえて来た。
遠目に見える緒向邸の前で、宇留と思われる少年が数人の女性陣にもみくちゃにされながら追いかけ回されている。
「···フフフ···きっとどこかで、元気にやってるさ!」
エシュタガは遠くの宇留達から視線を外し、牛乳瓶の底のようなグルグル眼鏡を掛けると、踵を返し峠道を歩いて行った。
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