神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

 琥珀の拳

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 その琥珀の巨神。

 ガルンシュタエン ティアザは、周囲に立ち込める真珠色の霧が晴れて消えるまでその場に立ち尽くしていた。
 そのかん数秒、邪魔する者は誰も居なかった。

〔「神 霧 剣ミストランサー!」〕

 エシュタガの声に応じたガルンシュタエンの手中に、一瞬にして霧のようなものが収束し、パールホワイトカラーの長剣が形成される。
 きびすを返したガルンシュタエンは、ビクッと反応し掴み掛かろうとしたベデヘム146の頭を踏み越え、ベデヘム達に目もくれずアンバーニオンへと向かって突進して行った。

「く!アノヤロ!!」
「ぬっ!?」
 藍罠と共上の顔が引き吊る。
 心の何処かに追いやっていた一抹の不安が、彼らの意識を駆け巡った。

 だがアンバーニオンの顔前に突き進んでいた神霧剣ミストランサーの切っ先は左側頭部へと逸れ、丁度アンバーニオンの背後でユラリと立ち上がったベデヘム144の眉間を突き、後方へと豪快に弾き飛ばした。
「ガォゴ!」
 ズズン······!
 一切微動だにしなかったアンバーニオンを、剣先を付き出したままで睨むガルンシュタエン。
 その頭部と胸周りは、以前とほぼ変わらず青白い仮面と装甲に覆われた琥珀の魔神といった容貌を引き継いでいるが、かつてエギデガイジュ改をボディとしていた際とは異なり、全身が琥珀の鎧、宝甲ほうこうで覆われたギノダラスをベースにしている為、アンバーニオンの同型機といっても過言では無い程に琥珀の巨神として完成しているように見えた。

「エシュタガ!」
「エシュタガ!ガルン···ありがとう!」

 宇留とヒメナには、彼らと共に戦うという迷いは無かった。
 だが······

〔か······〕
〔勘違いするなよ?アンバーニオン!今はこの体の借りを返すだけなんだからな?〕

 何かを言いかけたエシュタガを遮るように、ガルンシュタエンから子供の声がきこえた。アンバーニオンの中で微笑む宇留とヒメナ。
 そしてエシュタガは、何か笑える程マズイ食べ物を食べてしまった時のように、顎を引きクックと笑った。
「フッフッ···ああ、そうだな?」
 エシュタガの琥珀のブレスレット。ヨギセの琥珀アンバーの一番大きな琥珀の中には、少年にも少女にも見える小柄で中性的な人物が浮かんでいる。
 黒いゴシックメンズ風な衣装に、腕には琥珀のバングル、ショートヘアの前髪は長く伸びて目元は殆ど見えない。
「······」
 微笑むエシュタガがそんなガルンのコーディネートを後ろから見つめていると、振り返ったガルンは恥ずかしそうな表情をエシュタガに向ける。
「ちゅ、中枢活動体ヒトガタを、イシキしてミマ···シタ···!どうか、な?」
 ガルンは緊張からか、唇がフニャフニャに歪んでいた。
「カワイんじゃない?」
「!!」
 エシュタガはそう伝えると、ガルンの返す言葉も聞かずに神霧剣ミストランサーをアンバーニオンの側頭部脇から引き抜き、フォン!とわざと音を立て、空を切ってその長剣を下ろす。
 エシュタガが操るガルンシュタエンは、ガルンが琥珀の中で顔を真っ赤にしている内に身を翻し、アンバーニオンと並び立った。

〔ありがとう······!〕
〔···········〕
 宇留達の礼に、ガルンシュタエンは何も答えなかったが、宇留はそれでもイイと思った。
 

「ウぉ!」
「ゴゴ!?」

 ベデヘム145と146は、その場で双璧をなすアンバーニオンとガルンシュタエン ティアザの威容に僅かな怯みを見せる。
「おおお!アイツら!」
「ヨシッ!!」
 藍罠と緒向が、夏の日差しを照り返して胸を張る琥珀の巨神達に感嘆した。
「ふぅ~~!とりあえずミッションコンプだな?」

 ドゥズゥン!!

 共上が安堵のため息を漏らしていると、遠く背後の峠道の頂上でトリモチを剥がそうともがくベデヘム3が、一度足を踏み立てる。
「行くぞ行くぞ!もっとアイツと距離を取れ!······無理に剥がすとイテェぞ?ベデヘムさん?」
 共上の指示により、FPSF達の車列は更に峠を下って行く。



「本気か?あのヤロウ?」
 疾風川は、ウデジンの主砲の照準を再びベデヘム3に向ける。
 ギャドンン!
 ウデジンのトリモチ弾がもう一発発射され、駐車場パーキング敷設ふせつされたアスファルトが揺れる。





「!」
 ヴェリリィ!!
 ベデヘム3は、頭部の薄皮ごとトリモチを無理矢理引き剥がし、その勢いのまま飛来した二弾目をトリモチで受け止めてくるみ、地面に叩き付けた。

「何ッ!」
 驚愕した疾風川が見つめるモニターの映像スコープ越しに、ベデヘム3がギロッとウデジンを睨む。

 トリモチと共に剥がれたベデヘム3の頭部の薄皮は即座に再生したが、それでも左側頭部を覆うような酷い傷痕が残った。
 途端に峠道を潰しながら、ナックルウォークで駆け出したベデヘム3は、怒りの形相でFPSFの車列を追う。

「!、キョーさん!来たぞーー!」
 奏が叫び、軍用車がクラクションを鳴らす。
「!」
「うおお!もう来たぁー!」
 リアハッチから猛烈な勢いで迫るベデヘム3を確認した藍罠は、片手で揺れる車中の手摺に掴まり、ハンドガンをベデヘム3に向ける。
「なぁ!くそ!」
 FPSF達が進む峠道の先にヘアピンカーブが姿を現し、車両は減速を余儀なくされ、豪巻児が悔しそうに表情を歪めた。
 ベデヘム3は、背後に着弾した三撃目のトリモチ弾に怯んだがそれも一瞬の事で、じわじわと距離を詰めて来る。
「······!」
 真剣な表情に変わった共上が、懐に手を差し入れる···まさにその時だった。

 ·アイワナ?

「?」
 軍用車がカーブクリアの為、最大限に減速した時、ロボットキャリーバッグ内のパンチくんが藍罠に話かけてきた。
「?、パンチくん?」
 · ······

 ドッ!!

 そのまますましていたパンチくんは、ロボットキャリーバッグを藍罠の脇腹にタックルさせた。

「がっ!」
 普段鍛えている藍罠にとって、比較的痛みは薄かったが、唐突なパンチくんの反乱に動揺が沸き上がる。
 その衝撃で藍罠のポケットから飛び出した琥珀を、ロボットキャリーバッグパンチくんは大口を開けた犬のように蓋を開け、パクッと食べる素振りで内部に放り込んだ。
「パンチくん?!」
 ロボットキャリーバッグは軍用車内を滑り、外へと飛び出して行く。
「!」
 軍用車内の僅かな明るさが更に落ちる。
 ロボットキャリーバッグの後を追って軍用車のキャビンから顔を出した藍罠が見たのは、軍用車に向かって拳を振り下ろそうとしているベデヘム3だった。

「!!!!」





 カッ!

 軍用車とベデヘムの間に割って入るように道路上に居たロボットキャリーバッグが激しく輝いたかと思うと、FPSFの車列を全て覆う程の巨大なオレンジ色の魔方陣が現れベデヘム3の拳を弾き返した。

「グォヌォォ!なんだこれはァ!」

 魔方陣から熱気が溢れ、ドン!という衝撃と共に何かが魔方陣から出て来た。
 アンバーニオンの両肩の琥珀柱に良く似た物体が四本、そして遅れて一本、計五本の琥珀柱が魔方陣の表面から浮かび上がる。
 一本のサイズはアンバーニオンのもの程では無く、内部の勾玉の形も異なっていた。



「こ!これは!腕か?」
 バンの窓から身を乗り出して魔方陣を見上げる共上は驚いていた。
 五本の琥珀柱の指はギャシリ!と重く拳を握り、再び剛腕を振り下ろすベデヘム3に拳を叩き込んだ。

 ゴシャアアッ!

「ゴォッふぉ!」
 琥珀の拳による超高速のクロスカウンターが左頬にヒットし、後ろへとよろめくベデヘム3だったが、魔方陣から更なる全体像を現した琥珀の腕はベデヘム3の左腕をガシッと掴み引き寄せる。

「グオオオオオォォッ!!」

 握力を上げていく琥珀の腕。掴まれた部分の腕は煙が上がる程赤熱化し、ベデヘム3を苦しめる。
 腕を振り払おうとするベデヘム3は、その時、魔方陣の奥でこちらを睨む琥珀色の目に気が付いた。
「!!」
 ゴンッッ!
 琥珀の腕はいきなりパッと掴んでいた手を放すと、ほぼ手首のスナップだけでベデヘム3に裏拳を当て、丘の下まで弾き落とした。

「す!すげぇ!」

 驚愕する藍罠の目の前で、琥珀の拳が魔方陣に引き込まれて消えると、引き続いて魔方陣の消失と共ににパンチくんの輝きもフッと治まった。






 ·キューーン!

 停車した軍用車から降りていた藍罠の元へ、ロボットキャリーバッグパンチくんが犬のように走り寄って来て蓋を開ける。

 ガパッ!

「!」
 内部には、藍罠がかつて謎の少年に貰って持ち歩いていた琥珀が鎮座していた。恐る恐るその琥珀に手を伸ばした藍罠は、その熱さに驚く。
「!、アッつ!」
 まるで熱湯にでも浸していたかのような熱さ。藍罠が右手の指をさすっていると、共上がいきなり横から小ぶりなビール瓶を藍罠に差し出して来た。
「お疲れ!すげぇな?コレ!でもおかげで仕事が増えちゃったよ?」
「え?」
「パン屋さんの軸泉ノンアルビールでございます」
 怪訝な顔でビール瓶を受け取り、指先を冷やす中で藍罠は事情を悟る。
「?、ああ!!お、覚えてたのか?あのヒト!」
 スッ!
「パン屋さんのビールとか意味がわからないワヨ?」
「あ!」

 スフィにノンアルコールビールを奪われた藍罠は、すぐに奪い返そうとしたが、ものの二秒も経たない内に全ての飲み干されてしまっていた。



「俺のぉ······?!」













 

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