22 / 201
復活!琥珀の闘神!
真に実る
しおりを挟む(これはまた···珍しい客が来たのう?)
快晴の海上、超巨大な怪獣であり、アルオスゴロノ帝国の準帝、ゴライゴの巨大な頭部の口元には、風力発電用風車の柱が煙管のように咥えられている。
忙しく回るプロペラによって発電された電力は柱内部のケーブルを通り、電気を嗜む巨獣の憩いの一時を満たしていた。
想文で話すゴライゴの話相手として宙に浮かんでいるのは、二等辺三角形の鋭角なフォルムを持ったUFOとも戦闘機ともつかない飛行物体。
琥珀のようなオレンジ色の機体に張り付いた青白い装甲板の表面は、太陽光を積極的に吸収して活力に満ち溢れている。
(律儀なヤツじゃ、わざわざワシなんかんとこにお伺い立てに来んでもよかろうに?)
(袂を分かつ事になるやもしれません。もし再度ご相対の際は······)
(マーマーあまり気に病むな?今のお主はもう巨獣でも帝国のシステムでも無い、ただのエシュタガの相棒だ!)
(ゴライゴ様······)
(行くがいい!あやつめがお前を待っているのじゃろぅ···ふぇ!ふぇクシ!!!)
爆発音のような空気の振動。
ゴライゴの唐突なくしゃみのせいで、彼が咥えていた風車の煙管が口から飛んで海上に着水する。
(ぬぅ?どこぞの美女がワシの噂でもしとるんか?モテて困るわぃ!?···それでな?今デバっているのは大方何処ぞから無理に引っ張り出して来たベデヘム共辺りだろうからの?)
「!」
(奴らはワシにはなんの関係も無いもんね!皇帝の眷属とも言うべき奴らにゃ遠慮は要らん!だが倒すには思い切りやらんといかんぞ?)
(はい!ゴライゴ様!ありがとうございました!)
その場で方向転換し、飛び立つと同時に弾丸のような凄まじい速度へと即到達する飛行物体をゴライゴは優しい眼差しで見送っていた。
すると海中に沈みかけていた風車の煙管が持ち上がる。クラゲのような白い半透明の触手が風車の煙管をゴライゴの口元に届けた。
(ふまんな?ホーヘン)
ゴライゴに煙管を運び終えた触手の先端が人の形になって、のっぺらぼうの顔をゴライゴに向ける。
(ゴライゴ様···例のモノ、無事格納できましてございます···)
(ご苦労!バイトくんはどんな様子だ?)
(意思は変わらぬと!)
(うむ!)
ゴライゴは再び飛行物体が飛び去った方向に顔を向ける。
(ガルンよ!案ずるな?ワシらもいずれ······あとはゲルナイド、そしてコティアーシュ···待っておれよ?)
ゴライゴの口元で風車の煙管が再び回転を始めた。
ベデヘム3の急襲を受けたFPSF達は、徐々に透明化を解いていくベデヘム3によって緒向とスフィを乗せたキャンピングカーが容易く持ち上げられるのを見上げていた。
「師匠!···バカな!じゃああれは!?」
藍罠が視線を向けた放牧場に落ちた未変化移動球体の残り一つ。それが内側から水蒸気を吹き出しみるみる萎んでいく。内部からは何者も現れる事は無かった。
「ダミーー!?」
藍罠が視線を戻すとベデヘム3の目は笑っていた。どうやら藍罠の疑問に、未変化移動球体の仕掛けを解く事でネタばらしを披露したらしい。
「ばっちゃん!」
振り向くアンバーニオン。ベデヘム3が立っている付近の異変に気が付いた宇留は、メインモニターのズーム機能を駆使してベデヘム3の右手に掴まれたキャンピングカーを目視で捉えていた。だがベデヘム144、145の猛攻は宇留が立ち止まる事を許さない。
「全員動くな!」
ベデヘム3が狂暴そうな外見に反して、野太くも紳士的な口調で目下のFPSF達を脅す。
「くう~!」
「?」
悔しがる奏に、エシュタガがわざとらしさを感じていた時だった。
「動かんのはアンタの指よゥ?」
「ム?なに?」
キャンピングカーの助手席が開き、ワイヤーがパラリと放り出され、墜落防止装置を片手に緒向と肩を組んだスフィがシュラッ!っと絶妙に遅い降下速度で降りて来た。
「!···」
軍用車から飛び降り、降着の補助に回ったエシュタガはスフィとは反対側に回り込んで緒向の足と背中をキャッチして受け止めた。
「マスター、お怪我は?」
「ホーー!スパイ映画みたいだね!ダイジョブ!ありがとよ?スフィちゃん、エシュ!」
「サ!先生!ハヤク!」
緒向の両肩を二人で抱えたスフィとエシュタガは、会話をしながらそそくさと共上の車に移動する。
「グ···!手が!」
「どうしたんだい?ベデヘムさん?」
ニヤリとする共上、ベデヘム3の動かせない手首の間接がギシゴシと軋む。
キャンピングカーのキャビンの内部では、ベデヘム3が掴んで潰れ、歪んでいる部分に日本刀が深々と突き刺さっていた。
刀身からは、ツツジ色の液体が濃薄禍々しく爛れるように溢れている。
「毒か!おのれェ!」
ベデヘム3が左腕でキャンピングカーを引き千切るように右手から外し終わる頃、共上達の車列は迅速に峠道を跨ぐベデヘム3から距離を取っていた。
ドバジュッ!!
「ヌグォ!」
ベデヘム3の左側頭部にクリーム色の液体が着弾し、左目を塞ぐ。ベデヘム3は驚き、手に持ったキャンピングカーを林に落とした。
良夢村からニキロメートル程離れた山の頂上にある展望台の駐車場に、紫を基調としたペイントを施した巨大な多脚戦車が陣取っている。
脚というよりは、四本の腕を地面に接地させ、その腕が繋がった胴体は、天面に背負ったライフルのような主砲を遠くのベデヘムに向けていた。
最終局面省の秘密兵器の一つ。
ウデジン 未知式多腕移動砲台。
〔お待たせ!バックアップに入る!〕
操縦席の疾風川からの通信が共上に入る。
「ダイジョブ?」
〔······ダイジョブじゃ無いよ?AIに運転して貰ってるよ〕
共上同様、疾風川も昨日の酒が残っているらしい。
ドドゥン!!
「!」
アンバーニオンと戦っていたベデヘム144が昏倒してその場に倒れる。
「!、なんだ?」
「アッチニモやっと効いたみたいネ?」
舌を一瞬唇の上で這わせたスフィが、いつの間にか手元に戻って来ていた日本刀の柄を眺める。
(このコは···なんて女性だよ···)
運転席の豪巻児は、背後に座るスフィに戦慄した。
ベデヘム146は、ギノダラスの微妙に遅い動作の隙を付き、足払いで転倒させる事に成功した。
「ヴァグァッ!」
三歩程バックステップし、飛び上がりパンチを振り落とそうとしたベデヘム146の頭上から光弾の雨が振り注いだ。
キュダダダダダダ!
「グォ!」
その直上からの圧力によって、強制的にジャンプはキャンセルされ、ベデヘム146は地面へと伏した。
「ガルン!」
エシュタガが叫ぶ。
豪巻児が気を使い車を停車させると、エシュタガは車を降りてガードレール際に駆け寄り、ギノダラスとベデヘム146を注視した。
トリモチ弾を頭部から引き剥がそうとしているベデヘム3も一度手を止め、残った片側の右目で飛来する飛行物体を睨んだ。
〔エシュタガーーー!〕
機首を垂直に立て、急降下して来た飛行物体。
ガルンファイターは、地面に激突するか否かのタイミングでカクン!と不自然な軌道で水平飛行に戻ると、真っ直ぐにヨギセの琥珀を天に掲げたエシュタガの元へとやって来た。
「エシュ!」
「!」
車から顔を出した緒向がエシュタガに声を掛ける。エシュタガは僅かに振り向き緒向の言葉に耳を傾ける。
「おもいっきりやっといで!!」
ハッとしたエシュタガの横顔に、琥珀色に輝き始めたガルンファイターの光が後光のように近付く。
「はいっ!」
決意を固めた真剣な表情で、眼前に構えたヨギセの琥珀の光に包まれたエシュタガは再び叫んだ。
「······ティアザッ!ガルンアップ!!」
「ガルン!···シュタエン!!」
ガルンファイターの輝きに同化したエシュタガだった光は、爆音と共に弧を描いて急上昇し、立ち上がりつつあるギノダラスに向かって正確な円を描き再び急降下を始める。
やがて弧を描いていた光の矢は、ギノダラスの脳天目掛け命中し、爆発音と共に真珠色のキラキラした爆煙が濃霧のように周囲に拡散した。
キュボ!ァァァァァァ······
〔エシュタガ?〕
アンバーニオンもベデヘム達もその光景に見入る。
「ぐ!グォァァァァ?」
ベデヘム146はラメ入りの絹のような水蒸気の中で、こちらに背を向けて立っている琥珀の巨神に気が付いた。
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