神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

 神寄りの心臓

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 コミュニティ施設。良夢村分校の屋上に居る磨瑠香の背中を、夏の風がボッと押した。
 磨瑠香の見つめる先。風に翻弄された髪がサララと視界の端に揺れ、蒼天より降臨する琥珀の巨神を指し示しているかのようだった。

「宇留くん···?ヒメナちゃん!···アンバーニオンが!わあ!···おおーーーい!ガンバレーーーーー!」
 
 満面の笑みで手を振る磨瑠香。
 そしてその後ろの屋上入り口には、長い黒髪に白いドレスを纏い、キリッとした表情の茶トラ猫を抱いた女性が立って微笑んでいた。

ブニャスマイ······!」

「お帰りなさい、クノコハ様······」


 


 着陸した所にあった川を越え、共上や藍罠達の居る対岸の丘裾おかすそを踏み締めたアンバーニオンは、ベデヘム144が顔を覗かせている丘の上に向かって駆け出した。
 宇留は早速背中に増設されたというブースターに力を込め、アンバーニオンに推進力を加味してみる。
 背中の四隅に穿たれた推力口から、通常時の姿勢制御用推力よりも一際濃い密度の波動が揺らぐ水のように吹き出し、登り傾斜の中程であるにも関わらずアンバーニオンは滑らかかつ、スピーディーに丘を駆け上がって行く。その内、背部からズドンと一際大きな衝撃波を発したアンバーニオンは、更に駆け登る速度を速めた。
 向かって来る敵の唐突な登坂中の急加速に動揺したベデヘム144は、両手で掴んでいた未変化移動球体を手放す。
 そこまで運ばれて来た丘の傾斜をゴロゴロと転がり戻る二つの未変化移動球体は、途中で何処からかカサカサと高速で這って現れた大男とガス大男を、それぞれ表面の膜で踏み潰した。
 すると二つの球体の膜がベデヘム144同様に絞り畳まれ、体の何処かに収納される。
 姿を現したベデヘム145、146の二体は丘を後転回りで転げ落ちながらも体勢を整え、腕の太い爪を地面に突き立てて停止したのち丘の上を睨んだ。
 ベデヘム144が振り上げた腕を振り下ろす間も無く、アンバーニオンの両肩の琥珀柱による突きがベデヘム144を弾き飛ばす。
 ゴガッッッ!
「グゴァ!」
 ベデヘム144は、フワリと滑空するように145、146の元へと落下した。
「ゴゴ!」「「ヴグォア!」」
 背後からベデヘム144の肩を左右で支え、もう一度三体で丘の上を睨んだベデヘム達は、青空を背にこちらを見下ろすアンバーニオンに向かって唸った。

 ゴゴゴゴ······
 巨大な飛行物体が空を切る轟音と、キャラララ···という甲高い連発音が響いた一瞬。ベデヘム達の周りの土壌がドツドツと弾け飛ぶ。それは連射された弾丸が地面を抉るさまに似ていた。
 ベデヘム達の頭上、アンバーニオンの正面を低空飛行でギノダラスが超高速で飛び抜けて行く。しかしエシュタガは未だ道路の上で琥珀の巨大戦闘機。ギノダラスに真剣な表情を向けたままだ。
 そんなエシュタガの元へ、軍用車が短い距離をわざわざ加速してやって来た。
「乗れ!」
 リアハッチから藍罠が顔を出した。
「······」
怪獣あれ戦うやるって認識でオーケOK?」
「······」
 藍罠の問いに可もなく不可もなく。エシュタガは仏頂面のままでリアハッチでは無く車体サイドに備え付けられたタラップに片手と両足を乗せる。
「!、いいよ!出してぃ!」
 天面のハッチから上半身を出していた奏がドライバーに伝達し、軍用車は走り出した。道の先で共上達も移動を開始しているのを、エシュタガは走風に目を細め確認する。
「···奴らは全部で!?」
「四体居るハズだよ?」
 エシュタガと奏が大声でやりとりを始める。
「···丘の向こう!アンバーニオンの前にデカイのが三体居る!」
「あんた!向こうが見えるのか?」
 エシュタガの瞳孔は、ヨギセの琥珀アンバーによく似たオレンジ色の光を湛えていた。


 


 良夢村の隣町。
 柚雲と風喜が宿泊していた民宿の前を、国防隊の車列が通り抜けて行く。
 民宿前でマイクロバスに乗り込もうと行列を作っていた人々は、口々に現状の噂話を囁き合っている。
「怪獣襲撃警報がもう出るって?さっきタマゴが小次郎原の方に落ぢたって!」
「でもさっき、サにあんわンも降りで来たってヨ?ヨぐ似た琥珀の飛行機もさっき旋回してったって!」
「あれ来ねぐなったんでねーの?」
「!」「あ!あのすいません!」
 住民達の会話に柚雲が詰め寄った。
「そ!その話···」
「あ!ゆっちゃん!先生だ!」
 緒向を助手席に乗せたキャンピングカーを国防隊の車列中に発見した風喜は、柚雲にそれを伝える。
「先生ー!」
「!」
 二人に気付き、走り抜けて行くキャンピングカーの車内で運転するスフィ越しに片手を振る緒向。キャンピングカーはそのまま軍用車と共に良夢村の方へと向かって行った。
「国防隊と···一緒?あの人は一体?···何が起きてるんだ?」

 アンバーニオン···ウル!ヒメちゃん!···治ったんだね?···頑張って!もう無茶しないでね?····

 柚雲は切実な視線を良夢村の方に向ける。二人が住民達と共にマイクロバスに乗るよう急かされ始めた頃、ドン!という轟音が周囲の小高い山に反響した。





 丘を下りベデヘム達に立ち向かうアンバーニオンに、ベデヘム144と145が向かって行く。ベデヘム146は旋回して戻ってきたギノダラスに吠えて威嚇しながら拳を胸の前でゴツゴツと当て合わせる。

「ギノダラスッ!ポリム オンッ タイタグッ!」

「!」
 軍用車に掴まっているエシュタガがヨギセの琥珀アンバーに口を寄せて詠唱すると、ギノダラスは減速しガチャゴチャと変形を開始した。
 ギノダラスは飛行形態から頭部の無い巨人形態へと変形し着地すると、中腰で腕を振りベデヘム146に向かって構えた。
「ボファ!」
 ベデヘム146が口から紫煙の塊ガス球をギノダラスに向けて吐き出す。
 ギノダラスがガス球を左腕で弾き消す頃にはもう、ベデヘム146が袈裟斬りに右腕の爪を振り下ろそうとしていた。
 だがギノダラスは冷静に左腕の貫手をベデヘム146の体にツンと突き伸ばし、貫手をガイドに正拳突きをベデヘム146に抉り込ませると同時に左腕の貫手を引き戻す。ギノダラスの腰部間接の隙間から火花のような光が舞った。
「ガゴハ!」
 鼻っ柱を叩かれたベデヘム146は五歩、六歩とギノダラスから後退りしていく。
 腕を振り回しながらポーズをとり、おもむろに片足立ちになったギノダラスは、ダン!と引き上げていた片足を大地に叩き付ける。
 その見栄からブワッと発せられた衝撃波に驚いたベデヘム146は、ようやく顔を覆っていた腕を取り払いギノダラスを睨んだ。



「丘陵を越える!周り込んで戦況を把握するぞ!」
 共上が全車に指示を出す。すると脇道からFPSF車列の最後尾に向かって、スフィと緒向のキャンピングカーがややドリフト気味に合流し、藍罠の乗る軍用車ギリギリまでわざと接近してから車間距離を開ける。運転席のスフィは無表情、緒向はガッハッハと笑っていた。
「あぶねっ!なんてヒト達だ!」
 解放していたリアハッチからそれを見ていた藍罠は冗談半分に苦言を呈する。
 共上達の車列は、丘に沿う曲がりくねった道を登って行った。



 アンバーニオンはベデヘム144、145の二体に何度も爪を振り下ろされていたが、琥珀の鎧、宝甲ほうこうの性能は以前よりも増しているようで、殆どのダメージを分散していた。
 強度というよりも、中途半端な弾性と高い修復力のバランスを瞬時に微調整する速度が向上している。かつてのガルンシュタエン戦での反省がことごとく生かされている印象をヒメナは感じていた。
 ベデヘム達は打撃だけでは埒が明かないと思ったのか、僅かに身を引き二体同時にアンバーニオンの両腕目掛け、タックルで懐へ踏み込んで来た。
「!!」
 グァシ!
 アンバーニオンの両肩の琥珀柱がグリンと自在に動き、先端の四つ又に別れたトゲがツメのようにグニャリと変形すると、アンバーニオンは総計四本の腕でベデヘム達の二本ずつの腕を掴み、三体はガシッと組み合った。
「ヒメナ!なんとかエンジンはダイジョブ?」

「うん!ダイジョブ!まだまだアガるよ!遠慮しないで?!」

「よっしゃ!うおおおおおっ!」

「「ヴお?!」」

 アンバーニオンの目がクワッと輝き、その気合いはベデヘム達を圧倒する。

 ガゴォォォオオォーウン!!

 ガゥオオオオオオオッ!

 アンバーニオンの胸部内で新型エンジン、ヒモロギング ドライヴが怪物のような唸り声を上げ、アンバーニオン本体がそれに輪唱する。
 即座に歩み出したアンバーニオンの最初の一歩には、三体分を支える重量が集中し、周囲の土壌に途方も無い振動をもたらした。
 二歩、三歩と後方へ押されて行くベデヘム達は、たった一体の敵、自分達よりは華奢な腕を持つアンバーニオンによってついにバランスを失い、薙ぎ倒しにされた。

「ウグ!」
「グッ!ゴルルルッ!」
 悠然とベデヘム達を見下ろしながら琥珀の腕を琥珀柱に戻していくアンバーニオンを睨みながら、自分達の再起立を自身に促すベデヘム達。
〔さあ!来い!〕
 アンバーニオンはファイティングポーズをとってベデヘム達を待ち構えた。


「すごい!太陽で本格的なオーバーホールをしてきたみたい!まだ色々な能力もあるみたいだよ?ウリュ!」
 ヒメナがいつになく、はしゃいでいるように言った。
「まだまだボクとの完全リンクには時間がかかるんだけど、それでも以前まえよりも断然強くなってる!ウリュ!このまま押し切ろう!」
「うん!ありがとうヒメナ!こいつら追い返してやろうね!」

 トキン!

「「!!」」
 宇留とヒメナの心臓が優しくも高らかに跳ねる。
 そう、再び。互いの名を呼ぶと起きる奇妙な現象。
「······」
 なんだこれ?
「······」
 え···?

 宇留とヒメナは戸惑っていた。

 束の間の沈黙を誤魔化すように宇留はヒモロギング ドライヴの詳細イメージをタッチして内容を確認する。離れているコックピット故、互いには偶然同じ行動をしているとは分からなかったが、ヒメナも同じく詳細を確認していた。
 運用方法云々よりもいち早く目に付いた項目。

 エモーションチャージ機能(米)のちょっとした不具合により、吊り橋効果(米)に注意する事♪。

 宇留もヒメナも、その項目にだけ感情的な何かを感じて、二人の関心はヒモロギング ドライヴへと向いていた。





「あれか!?」
 丘を乗り越える道路の頂上でアンバーニオン、ギノダラス、ベデヘム軍団を確認した共上。
「「「!」」」
 しかし同時に共上、スフィ、藍罠、エシュタガ、緒向の背筋が悪い予感に凍えた。
「なんだこのニオイ?」
 軍用車の上の奏も、異臭と不自然に薙ぎ倒された周囲の雑木林に気付く。

「総員前進しろーー!今すぐにっ!」

 共上の号令で五秒ともしないうちに全速前進を始めたFPSFの車列だったが、スフィ達の乗るキャンピングカーが不自然にブワッと浮かび上がる。
「!、師匠せんせーーーー!!」
 リアハッチから身を乗り出してキャンピングカーが浮かび上がった方を見る藍罠。
 キャンピングカーの両側面は不自然に歪みへこんでいる。
「な!何か居る!」
「!」
 キャンピングカーの何も無い背後を睨む藍罠とエシュタガ。

 
 そこには透明化能力で峠道を跨ぎ、共上達を待ち構えていた怪獣。ベデヘム3がFPSF達を見下ろしていた。

 

 












 
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