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復活!琥珀の闘神!
招 来
しおりを挟む高空でロウズレオウが護る二つの巨大琥珀カプセル。
右側に浮かぶ琥珀カプセルが下方から割れ始め、その内部から楕円形のプラモデルのランナーのような琥珀の枝に固定された琥珀の巨大戦闘機とも言うべき流線形の物体が姿を現した。
やがてそのランナーも、割れた琥珀カプセルの破片同様、細かく崩れて空間に融けて消える。
琥珀の巨大戦闘機、ギノダラス はゆっくりと良夢村に向かって降下し始めた。
「いいのか?アイツに先越されるぞ?急で大変だろうが深呼吸し······!」
ガルンシュタエンを呼ぼうとしているエシュタガを引き合いに、アンバーニオンの召喚を宇留達に促そうとした共上。
車中で背中をポンポンと二度優しく叩いて送り出そうとした共上だったが、一度叩き終わる頃にはもう後部座席のドアはガロリと引かれ、宇留によって既に開け放たれていた。
「宇留!お前?!」
軍用車から降りていた藍罠が、車内から降り立つ凛とした雰囲気の宇留に声を掛ける。宇留は黙って藍罠に笑顔を返し、大男とエシュタガの方を睨んだ。
大男達が宇留にも気が付いて振り返る。
クァゴオオオオオッ!
すると何処からか野太い怒号が丘を乗り越え、彼らと水田の上を撫でるように通り抜けた。
「総員!その大男どもは怪獣の中枢活動体だ!遠慮はいらん!落着物体との接触を阻止しろ!」
宇留に続いて降車した共上の指令が隊員達の配置を急かしたが、同時に大男達も仰向けに倒れ、背中がモコモコと激しく揺らいだ。
「いかん!さっきの咆哮は呼び出しか!」
移動球体から戦闘形態へと変化した怪獣。ベデヘム144は、同じくベデヘム145、146の未変化移動球体二つを掴んで引き摺りながら良夢村に向かって広大な放牧場を進んでいた。国防隊のヘリ部隊が機銃を掃射してベデヘム144の後頭部を叩くも効果は無く、完全に無視されていた。
「くそ!せめて地区だけは越えさせんぞ!」
ヘリ部隊の隊員がベデヘム144の後ろ姿に憤る。
大男達はスフィが出会った個体同様、背中から虫のような足を数本生やして丘方面の草むらに飛び込んだ。
ガス大男の方の紫煙が後方にたなびき、背が高く生い茂る草むらの中でもガス大男の居場所を大体指し示していたが、FPSFの隊員による発砲を含めた深追いは功を奏せず、大男達。もといベデヘムの中枢活動体達は姿を消した。
「みんな追うな!豪巻児!バックカバー班に防毒科学装備を要請だ!」
「「どっち?」」
共上と兄、弟の顔を交互に見て質問する豪巻児兄弟の声がシンクロする。
「どっちでも!···いい···」
一瞬声を張り上げそうになった共上だったが、宇留がロルトノクの琥珀を胸の前で持って構えているのを見て僅かに緊張した声になった。同時に藍罠も、エシュタガが道路の向こうで琥珀のブレスレットを構えているのに気が付いた。
琥珀のブレスレットが太陽を眩しく照り返し、カゲロウが足元で波立っている。
「ま!まさか!やっぱりオマエら記憶が!?じゃ!じゃあ、あいつは!?共上さん!!」
藍罠はエシュタガの反乱を危惧する。しかし口調は焦りと言うよりは残念そうなものだった。しかし共上はそんな藍罠を宥めるようにフォローする。
「大丈夫だ!多分!」
「ええぇ?多分!?」
丘の向こうで吠えるベデヘム144の声が大きくなってくる。だが宇留はハッとしたように水田に青々と靡く稲穂に向かってロルトノクの琥珀を掲げた。
「おーい!みんなは絶対怪獣に踏ませないからー!」
ズ!ザワアアアァーー!サササ···!
すると、宇留の声に答えるかのようなタイミングでドッと吹いた突風が稲穂達の上を駆け抜ける。
そのざわめきはまるで、歌手のMCで盛り上がった観客達のようだった。
「行くよヒメナ!またよろしくね!」
「うん!宇留!」
「ふふ!」
目の前で起こった奇妙な現象に、エシュタガは笑いながら琥珀のブレスレットを眼前に構える。
「はは···そうか、この面白きに···俺達は······」
エシュタガの目が一瞬琥珀色に輝く。
それは琥珀のブレスレット、ヨギセの琥珀から、
“新たなガルンシュタエン„
のマニュアルが生体メール機能、想文によってエシュタガに着想した合図だった。
「アンバーニオンはオマエだ。借りだけは返しておこう、スマイ少年!」
宇留とエシュタガは遠く向かい合って同時に詠唱する。
「「ウェラ!···クノコハ!······」!」
「ウヲ!···」
「ニアジェム!···」
「アンバーーニオンッ!!」
「ギノダラスッ!!」
ロウズレオウの左側に浮かんでいた琥珀カプセルが割れ、アンバーニオンが姿を現した。
“見た目だけ„はほぼ以前と変わっていない。
アンバーニオンは自身を型にはめていた琥珀の湯道を振りほどくように機体を捻り、宇留達の元へと急降下を開始した。
アンバーニオンの急降下に気が付いたギノダラスはノーモーションで落下速度を早め、アンバーニオンに追い付かれないギリギリの速度で降下を始める。
一瞬追い付け追い越せと先を争っていた二機だったが、アンバーニオンが速度を緩めるととともに、ギノダラスは旋回軌道コースに侵入する為アンバーニオンから離れて行った。
オレンジ色の光に包まれた宇留達がアンバーニオンの胸元にある赤い操玉に到達し、以前より長めの調整認証が行われた。
次に操玉で目を見開いた宇留を、違和感が出迎える。
! コックピットレイアウトを変更しました。
詳細
! パイロットスーツを標準化しました。
詳細
! 背部ブースターを増設しました。
詳細
! 新型エンジン。
ヒモロギング ドライヴについて。
詳細
着想するには
しおりをタッチ。
スキップするには
しおりをロングタッチ。
メニュー出し入れには視界内外
からタッチスライド。
以前とは若干造りの違うコックピット、そしてパイロットスーツへの衣服変換が自動的に行われた。
宇留の目の前には輝く長方形のひも付きしおりが無感情に四つ浮かんでいる。
文字は書いてはいないが、それぞれに視線を向けるだけで意味が伝わってくる不思議なチュートリアルがそこにあった。やがてしおり達は、アプリアイコンのように宇留の視界の邪魔にならない程の端に整列して並ぶ。
宇留はその時になって初めて、ヒメナとロルトノクの琥珀が胸元に無い事に気が付いた。
「ウリュ!」
宇留が心配し始める直前になって、ヒメナの声がすぐ側から聞こえた。だがこの声は想文では無いようだ。
「ヒメナ!え!?今ドコ?」
「ここは···多分別の場所にある違う操玉!なにか···私用になってる!これも新しいレイアウトみたい!ウリュは大丈夫?わかる?」
「うん!大丈夫!でもヒメナは前みたいに今、素体に居なきゃって事かな?ちょっと淋しいね?」
「「!」」
それは唐突だった。
宇留とヒメナが思い合った瞬間。心が何かで溢れそうになった。
コックピットは離れていても、何故か以前よりも遥かに増した共在感。
体のサイズ、経験、人間関係、背負っているもの、能力、時間、心情。
自分達は友人同士でパートナーでありながらも実は全く違う存在。
そんな様々な諦めすら消滅しているのではないか?という同調感。
思えば想う程膨らむ淡い期待を恐れた二人は、そのときめきに危機感という偽りの仮面を付け、思わず心の奥に仕舞ってしまった。
「······」
「······」
なんだ···これ?
キュズゥゥーン!
やがてアンバーニオンは、共上達が居る道路脇、その草むらの向こうにある河川敷に降り立った。
丘の向こうにはアンバーニオンを睨みながら歩んで来るベデヘム144の頭が既に見えている。
ガゥオオオオオオオオオオォォォッ!
守る約束をした水田を背に胸を張り、復活の雄叫びを上げるアンバーニオンは、ベデヘム144に立ち向かう為歩み出した。
その奇妙な感情はアンバーニオンの新しい力の影響か?
それとも···
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