神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

文字の大きさ
上 下
18 / 201
復活!琥珀の闘神!

 踏 破

しおりを挟む


 エシュタガは沢沿いに座り込み、川の中に差し入れていた手首を引き上げた。
 指先から手首にかけて伝って滴る沢水の鋭敏な感触。
 それは新しい家電の箱を開封する時のような、以前とは異なる前向きな期待感を彼にもたらした。
 そんなエシュタガの背後に、足音が近付く。

「?······俺はどうなる?」
 エシュタガは沢に向かって来た共上に振り返らず訊ねた。既に緒向邸の周囲は、彼らにそれと分からないようFPSFの精鋭によって固められ、その銃口の一つはエシュタガにも向けられていた。
 共上は完全仕事モードのシリアスな表情でエシュタガに告げる。
「···アルオスゴロノ帝国の戦士、鍵村 跑斗こと、エシュタガはあの氷の島で死んだ。氷結島における作戦行動中に殉職、もしくは粛清されたと判断が下った。そして遺体の回収も困難。······という結論が今はあちこちで出回ってる」
「······」
 エシュタガはそのまま聞いて、ただ流れる水面を睨む。
「恩着せがましい事は言わない。君の回収は“こちら„の勝手な判断だからな?」
 共上はため息を挟んで続けようとした。
「味噌汁も旨かったぜ?···ごっそさん···で、なぁ?ゴーザンって知ってるか?······」
「ゴーザン!?」
「ああ、そいつは······」
 共上はそこまで言いかけて右腕のブレスレットに付いた機械を耳に当てる。
「!、なんだ?························!」
 共上はそのままエシュタガに素早く近寄った。
「わかった!······行くぞ!お客さんがおいでなすった!」
「!」
 エシュタガは立ち上がり、周囲のFPSF隊員達も警備態勢を変更する為ポジションを変更する。
「移動だ豪巻児!王子様を頼む!」
 二人は緒向邸へと足早に向かった。


 緒向邸では、入り口を警戒している豪巻児に急かされた宇留が身支度を整えていた。バタバタと部屋を行き来している宇留は、茶箪笥の中に飾られた古い写真に気が付いた。
 記憶が無い時には特に気に止める事も無かったシンプルな白い写真立てに入った写真。
 四人の美男美女。はにかみ笑う背の高そうな好青年と、賞状を持った十代くらいの空手胴着を着た女性、写真の端で顔が切れて分からない男性、そして髪の長い笑顔の女性に宇留は見覚えがあった。
丘越バジークアライズさん?」
「宇留くん!早く!」
 宇留は写真の真相を考える間も無く豪巻児に呼び出された。
「はーーい!今ーー!···ちょっとごめんねヒメナ?」
「うん」
 宇留はロルトノクの琥珀アンバーを胸元から服の中に入れて土間に向かう。
 そして一度居間を一瞬振り返る。
 短い間の楽しかった思い出を反芻はんすうした宇留は、豪巻児の待つ外に出る。豪巻児の後に付いて、自身の目に刺さった太陽ひかりを見上げた宇留は心の中で相棒の名を呼んだ。


 アンバーニオン······?
 
 

 日本直上の超高空。
 
 腕を組むロウズレオウの両脇に浮かぶ、二つの琥珀カプセルの内一つがドクンと脈を打った。
 ガゴゴ!ゴォウゥンッ···!
 怪獣の咆哮とも、エンジン音ともとれる轟音は、重低音となってロウズレオウと、もう一つの琥珀カプセルの楕円形の曲面を伝う。

「!」
 緒向と共にキャンピングカーに乗っていたスフィは、驚いて空を見上げた。
「?、なんだい?」
 緒向もフロントガラスから空を見上げる。
 国防隊、I県駐屯地から出動する車列を優先させるための渋滞に引っ掛かっていたキャンピングカーからは、前方の車に声を掛けてはUターンを促す隊員の姿が見える。
「こんにちは!この先ぃですね?···」
 やがてキャンピングカーの所までやって来たベテランそうな隊員は、緒向の顔を見て驚いた。
「お!緒向先生ェ!?」
「おはよ?なんかあったんかい?」
 緒向と隊員は知り合いのようだった。
「今お帰りですか?実は、良夢いいゆめの方で······」
 スッ!
 スフィが隊員に何かの手帳を見せる。
 途端に隊員の顔が引き吊る。
「先生はイソぐ!」
「し!失礼しました!おーい!関係車両一台誘導ォ!合流ー!」
 隊員は誘導棒を振り乱し停止線方向まで全力で走って行った。



「なんじゃありゃ?バケモンじゃねーか?」
 カゲロウが揺らぎ始めた誰も居ない良夢村の農道を、二体の大男が堂々と歩いている。青く若い稲穂が風に揺れる風景にそれは、やや無粋な組み合わせだった。
 迷彩服にギリースーツを汗だくで羽織り、数百メートル向こうを歩く大男達を監視していた老人達は、双眼鏡で観察するのを止め腰を落としたまま次の監視ポイントまで移動を開始した。
「本部!本部!こちら···ありゃ?おかしいな?」
 一人の老兵は移動しながらしきりに無線を気にしている。
 すると、明らかに雲では無い濃い影が一瞬彼らの頭上を通り太陽光を遮った。
「な!なんだ?」
 ドォォォン!
 一度の爆発音に続いて、三つの巨大な球体が良夢村の上空をかすめ、山の向こうに落着する。同様の爆発音が続け様に辺りに響いた。
「放牧場の方?」 
「バゲモンが向かってる方だ!」


 
 一方、車両で移動中の国防隊も、四つの球体が放牧場へ落ちるのを確認していた。
 全車両が停車し、連絡の糸がみ込まれる。
「······」
 車列の最後尾付近を走行していたスフィのキャンピングカーも例に漏れず停車していたが、前方で鳴り響くいくつもの不自然なクラクションにスフィは反応する。
「!」
 大男が堂々と国防隊の軍用車列の横を走って後方へと向かっていた。
「センセ!ここに居て!」
「···あいよ」
 スフィがヌルッと運転席からキャビンに滑り込む。大男がキャンピングカーに迫る中、キャビンのサンルーフから日本刀を持って抜け出たスフィはキャンピングカーの前に飛び出した。
「!」
 急に目の前に降ってきた日本刀美女に驚いた大男だったが、大男は走って来た勢いのまま右ストレートを繰り出す。だが一瞬早く、スフィの抜き胴の方が大男の懐を通り抜ける。
「···!」
 服と薄皮が斬れ、固い物の表面に幕を張った皮下脂肪の上を刃が滑る感覚。
「!」僅かに焦ったスフィが振り返ると、大男はもうキャンピングカーのフロントグリルを掴んでいる。
「ふん?」
 フロントガラス越しに大男と冷静に睨み合う緒向は、車内の虎縞模様ボタンをパキンと押し割った。
 ヴァズン!
 フロントグリルの隙間から突出した電極から大男の体に高圧電流が流れる。だが大男はフードの中から見せている口をニヤリと歪めた。
「やれやれ、そういう事かい?全く、アノジジイは躾がなって無いネェ?」
 緒向はコン!とフロントガラスを内側から拳で叩く。
 パキシッ!
 フロントガラスに僅かなヒビが入ったかと思うと、大男は額を大きな力で打ち弾かれたように仰け反って後方に吹き飛び、前方に停車していた輸送車にぶつかって倒れた。
 やがてフロントガラスのヒビは、割れた部分に凝縮するように内側に向かう何らかの威力によって圧着され加熱し、跡こそ残ったが完全にヒビが塞がった。
 大男はそのまま倒れて動かない。
 続々と大男を包囲するように武装した隊員が集結する中、スフィが緒向の助手席の外までやって来た。
「すごいやセンセ!おかげで本気の毒斬り使わないでスんだよ?」
 緒向はパワーウインドゥを開けながら、“殴った„方の手の甲を眺め、指をワキワキと動かしている。
「ふむ?なんでこんなにのが打てるのか、わたしゃにもわからんのよね?」

 ウワ!

 大男を囲んでいた隊員達がどよめく。
 大男はぐったりとしたまま仰向けで動いていた。背中から大きな虫のような足が現れチャカチャカと動いている。
 足は気を失った大男を信じられない高さまで跳ね上げ、輸送車の上を這って逃げた。全員が銃を向け直す頃、既に大男は藪の中に消えていた。
「スフィちゃん!」
 緒向が車外のスフィを呼ぶ。
「!」
「あやつめ小さいけど怪獣だよ?さっき降った球体を押さえるんだ!きっとあれはそこに向かうんだよ!」
「うん!」「「「はい!」」」
 スフィは自分の声より大きく返事をした隊員達の方にジロッと視線を向ける。そしてブレスレットの機械で共上と連絡を取った。


 

 冷房の効いたアイドリング中の黒いバンに乗った宇留、共上、エシュタガ、運転席の豪巻児。
「ちょっと待っててくれ、ああ!わかった!こっちもすぐ行く!先生によろしく」
「······」
 スフィとの通信を終えた共上はしばらく黙っていた。
「共上さん?」
 沈黙に耐えかねた宇留が共上の顔を覗き込む。
 共上は黙ってポケットから琥珀のブレスレットを取り出しエシュタガの前に差し出した。
「!」
「君のだ!一応返しておく!」
「これって!」

 琥珀のブレスレットはエシュタガの相棒、ガルンのカードが変化したものだった。エシュタガはすぐには受け取らず、黙ってそれを見つめていた。




「ガルン······」









 
 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

神樹のアンバーニオン

芋多可 石行
SF
 不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。  彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···  今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...