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復活!琥珀の闘神!
襲い来る
しおりを挟む「ヴぃー!お疲れー!」
「お、おはよう···ございます」
緒向邸から約十メートルの物陰で、顔色の悪い共上は宇留達の護衛任務に着いていたFPSF隊員、豪巻児 敬路に挨拶をした。
百九十センチメートルの高身長にGIカット、伸縮素材のスーツは内側から突き上がる筋肉でパッツンパッツンに腫れ上がっている。
その暑苦しさに二日酔いの共上が辟易易易易易易易していると、豪巻児が軽く背伸びをしている共上に質問をした。
「ご一緒ではないんですか?先生は?」
「ルぅーぬッ···?スフィさんが後から連れて来るっしょ?今日も超元気に挨拶周りだよっ···と!ところで···」
したり顔だった共上は途端にキリッとする。今までフラフラしていたのがウソのようだった。
「はい!二人とも覚醒したようです···」
「やっとか······!」
「共上さん!」
「いや、俺が行く!」
共上は右手で後頭部を掻いた。幾分か気温が低い夏の朝。二人が見つめる緒向邸は静かだった。
音声ボリュームが下げられたテレビ。気まずい雰囲気。エアコンの代わりに回るのんびり扇風機。気まずい雰囲気。ご飯、ネギと油揚げの味噌汁、焼き鮭、出汁巻き玉子、焼き海苔、お新香。気まずい雰囲気。出汁巻き玉子を頬張る宇留。緊張するエシュタガ。
「むぉ!」
旨さに驚嘆の宇留。その顔真似をするヒメナ。ドヤ顔のエシュタガ。気まずい雰囲気。口を押さえてアクビをするヒメナ。エシュタガの湯飲みにお茶を注ぐ宇留。気まずい雰囲気。宇留に返杯するエシュタガ······
「ご馳走様でした!」
そう言いながら手を合わせる宇留と、黙って手を合わせるエシュタガ。そしてその直後、彼はいきなり語り始める。
「···俺が···今からマイナス 二十八歳の時に···」
「ぶフ!」
唐突なエシュタガの振りに不意打ちを食らった宇留は、飲んでいたお茶をこぼさない程度に吹いてしまった。再びドヤ顔になったエシュタガは話題を引っ込める。
「何でもない···この話はいずれまた···」
「んもぉ···」
本編の主人公、須舞 宇留。の かつて坊っちゃん刈りだった髪型は、ワックスと手櫛により、本人の希望に沿った髪型に整えられていた。
「藍罠さんは?」
「妹ちゃんのお迎えだ。今朝は夕べまでのキャラを維持したからな?まだ俺達の異変には気付いていない」
「ぬ!」
一応の敵同士。エシュタガと一緒くたにされた宇留は少々イラッとした。
「な」
「ん?」
「何故·····」
宇留がエシュタガに何かを問おうとした時、土間の入り口が開く。
「おはよ···うわ!」
入り口から顔を出した共上を、既に二人は真剣に見つめている。両方とも髪型が変わっていた事で、共上は彼らの復活を確信した
「···ふぅ···でどう?全部思い出したか?」
「はい!、共上さん···ですよね?」
答える宇留と、ただ黙って頷くエシュタガ。
「なぁら結構!あ!」
その時、共上は一度鼻を膨らませ、何処かから漂ういい香りに気が付いた。
「ぅまそう!その前に一回味噌汁ちょっと貰っていい?」
「ど?どう···ぞ?」
エシュタガが引き笑い気味に許可する。
「ありがたい!」
共上は、後ろ足に付いた泥を振り散らす子犬のように靴を土間に脱ぎ散らかして、台所に突撃した。
区界西際の山の尾根から良夢村を見下ろす森に、奇妙な大男達が向かっていた。
薄手のフード付きコートを纏った身長二メートル以上ある大男達は、木の枝の上を移動する者や、倒木を蹴り飛ばしながら涎を垂らし歩く者、ブツブツとナニかを呟く者など総勢四人。その内三人はフードを被っており、表情は見えない。そしてそこにはゴーザンと行動を共にしていた大男も居た。
「行くぞ」
やって来たまま、歩みを止めずに良夢村に向かう大男と、彼の後を追う大男達は尾根を下り、次々とほぼ垂直の傾斜を滑り降りていった。
ガタタ!
「あれ?」
藍罠がコミュニティ施設の昇降口を開けようすると、鍵が掛かっているのか扉はびくともしなかった。
「カギ掛かってんのか?」
藍罠は外から事務室の窓をを覗くが誰もいない。仕方が無いので今度は磨瑠香に電話をかけてみる······すると···
「おニィ!危なーーい!」
「!!」
施設の屋上からよく通る磨瑠香の叫び声。振り向いた藍罠の目に写ったのは、校庭から昇降口まで伸びる十段ほどの階段を駆け上がり、藍罠に殴りかかろうと向かって来る大男だった。
「っく!」
ガキャ!
横方向へ飛び退き、ギリギリで大男のパンチを回避する藍罠。昇降口の扉に大男の拳がめり込む。しかし妙だ。大男のパンチは凄まじい轟音をたててはいたものの、ガラスすら割れず扉の破壊には至っていない。当の大男も自身の拳を見て不思議そうに首をかしげていた。
「!」
大男は施設内のエントランスに誰か立っているのに気付いた。髪の長い女性のようだが外が明るい為、薄暗い中の様子は良く分からない。
この女の仕業か?
大男は不明なものよりすぐに手が伸びるものを選択する。大男は見開いた目でギロリと藍罠を睨んだ。
「こいつ!ゴーザンんトコの!」
藍罠は階段脇の傾斜を走り降り校庭に立った。大男は階段をゆっくりと降りて来て藍罠と向き合う。
「おニィ!」
「磨瑠香!下がってろ!」
ヒーローっぽい事を言う藍罠だったが、相手は手榴弾が至近距離で爆発してもシレッとしていた強者だ。大男の体型も相まって手ぶらで戦うのは文字通り骨が折れそうだ。
···大男が一歩踏み出す。
「!、さて···?」
構えを取って大男を睨む藍罠がどう攻めようか考えていると、屋上から黒い影が飛んだ。
「!」
黒い影は藍罠と大男の頭上を飛び越え校庭に着地して、超高速で走ると大男の脇腹にタックルするようにぶつかる。
ドっ!「ぐ!」
小柄な影のタックルは凄まじい威力だった。大男は階段の脇に立つデリバリーバッグを背負った偉人像、或鱚 真帆蔵像の台座に叩きつけられた。
黒い影。磨瑠香が連れていたロボットキャリーバッグは、その場でターンからの加速、横スライド移動からのブレーキで藍罠の横に陣取る。
「ふぅ!助かったぜパンチくん!」
·ピピン!
ロボットキャリーバッグのメモリに居候していた重拳のAI、パンチくんは、アラームで藍罠に返事をした。
立ち上がった大男が藍罠達を睨む。藍罠は再び構え、パンチくんはタイヤを空転させて地面の小石を散らし飛ばす。
その時、校庭に軍用車両が突入して来た。
藍罠達の後ろに停車し、次々とFPSFの隊員が降りて来て大男相手に銃を向ける。屋上の磨瑠香に気付いた隊員の一人が、身振り手振りで奥に引き下がるよう合図をする。そして最後に豪巻児の弟、豪巻児 奏が対戦車ライフルを持って降りて来た。見た目は敬路をコピーでもしたかのように瓜二つである。スーツに巨大なライフルが全く似合っていない。
「こんな奴ゲームで見たな?俺よりでかくね?ね?藍罠ちゃん?」
藍罠の横まで来た奏は対戦車ライフルを構える。
「ア···ワ な?」
大男がもう一歩前に出た。全隊員が銃を向け直す。
「···藍罠 ヨキト!俺達は皇帝が血より生まれし眷属ベデヘム!···名乗ったぞ?···ゴーザンと戦え!」
「!」
すると大男は藍罠達に背を向け、校庭を駆け抜けるように離脱を始めた。
隊員達による容赦の無い銃の乱射で、数発の弾丸が走り去る大男に命中するも、大男はまるで意に介さず走り抜けて茂みに消えた。
「追うな!次だ!ベータ、ガンマは学校の護衛配置に散開!」
「「了解!」」
奏が追撃しようとする隊員達を呼び止め次の指示を出した。
「藍罠ちゃん!ここと妹さんと体育館の避難民はウチのチームが!君は私達と一緒に先生の家へ!」
「!、宇留!」
奏の言葉にハッとした藍罠は、レンタカーに積んでいた自分の装備を身に着けに向かう。ハンドガンのチェックを終えた藍罠は、屋上でコソコソこちらの様子を窺う磨瑠香に大声で叫んだ。
「磨瑠香!ここに居ろ!キャリーバッグ借りてくぜ!?」
「え!ええ~!」
パンチくん入りのロボットキャリーバッグを担いだ藍罠は、奏と数名の隊員達と共に軍用車に乗り込み緒向邸へと向かう。
「おニィ···宇留くん···!」
磨瑠香はコミュニティ施設の屋上でヤキモキしながら軍用車の青いパトランプを見送っていた。
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