神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

 再び生きる

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 暗闇の中で誰かが叫んでいる。
 それは彼の生まれ変わる前、幾世いくせか以前の記憶。
 こもった少女の声、しかしその一人称は俺であり、可憐な響きに反して口調は勇敢な男の口調ものであった。
 声はやがてはっきりと聞こえ始める。

「···俺の記憶が覚醒する前とはいえ!この体が宿敵である貴様などに焦がれるなど百生ひゃくせいの不覚!この度こそ!貴様との因縁断ち斬ってくれる!」

「エスイちゃん···いや!エシュタガ!!···こっちはまさかフったショックで内側なかからお前が現れて来るなんて思いもしなかったぜ!···だがわりぃな!俺は一途なんだよ!···今回は黙ってそのから出てってもらうからな!」

「黙れッッ!」
 
 少女の奇妙な都合に、青年おとこの反論が返る。

 ああ、そうだ。
 アルオスゴロノ帝国の戦士に課せられた魂を縛るわざ
 誰かに生まれ変わっても継続する経験値チートという快楽と、それに伴う恩は、帝国への永続的な忠誠へと繋がっていく。
 その転生の追憶により図らずも体が異性に切り替わる場合とき
 急性性同一性障害とでも呼べる状態の対策マニュアルを学習している我々でさえ、戸惑いを隠し切れないという現状において、更にもう一つ纏わりつく二重ふたえの嫌悪が、しばらくの間、彼女の中で“俺„の平静を壊したのだ。
 気分が悪い。
 そのような状況では、フィクションのような煌めきなどは無いと悟る。
 バイオフィードバックが、自身の意思に異性としての魅力を極端に示さないよう突き詰める。
 心が体を支配しているように、
 体もまた心を支配しているのだ。

 だが、最後に彼女は守った。愛した男を。
 俺が主導権を握る自分の体で。俺の機体ちからで。
 皇帝エグジガンのエガスデライガから、奴らのアンバーニオンを庇い···
 身代わりになって······!

「ぉ願い···私を···忘れて·····?」

 教えてくれガルン!あれは俺の意思なのか?
 彼女は俺と奴のどちらに願った?
 それとも·······?
 
 気分が悪い、悪い、······
 笑顔の記憶が、記憶が······

 ム····スアウッ!!俺の汚点······

「!」





 緒向邸の一室。
 まるで樹液の中に居るような重く濃いオレンジ色の常夜灯の下。
 エシュタガは、失っていた記憶を取り戻した。
 今の彼はもう、エシュでも鍵村 跑斗でも無い。

 間の抜けた笑みを浮かべ熟睡するウルの腹の上を膝立ちでまたぎ、無意識に首を締めようと手を添えていたエシュタガはハッと我に返る。
「!」
 仰向けになったウルの胸の上にあるロルトノクの琥珀アンバーの表面の曇りが取れ、内部のヒメナがギッとエシュタガを睨んでいた。
「·····」
「·····」

「んにゃ!」

「!」「!」
 しばらく睨み合っていたヒメナとエシュタガだったが、隣室で寝ている藍罠の寝言で沈黙が破られる。
 タッ······
「!」
 涙が一雫。エシュタガの頬を伝って琥珀の上に落ち、ウルの首元から手が離れる。
 ······ヒメナは眉間の力を緩めた。
「······」

 ト、ファサ······
 エシュタガは自分の布団に戻って横になった。

 俺は、一体···俺達はアンバーニオンと戦っていたハズだ!それから···それから······

 彼の知らない記憶がゆっくりと脳内で整頓され始める。ここに来た時、そしてエシュとしての記憶も···
「!」
 ふと隣のウルを見ると、ヒメナは琥珀の中からまだエシュタガを見ていた。

 あの時の続き······では無いようだな?

 「???···」よく見えなかったがヒメナは何かを呟いたようだ。
 しかしエシュタガには何も聞こえなかった。だが無言で唇を動かして適当に答える。

 失礼···寝込みを襲うのは主義に反する。

 ヒメナはエシュタガの唇を読み、発言を理解した。
「ん!ぬぁ!あ!危ないよ!アンちゃん!」
「!」
 宇留がいきなり寝言を言う。
「······」
 エシュタガはそのまま宇留の横顔を見ていたが、思い出したように寝返りを打って二人から顔を背けた。一瞬だったが、ヒメナの目にはエシュタガが笑っているように見えた。

 知らないの?孫とライバルの後輩は子よりかわいいそうよ?

 ヒメナのその声がエシュタガに届いたかどうかはわからない。だがもう既にエシュタガは軽く寝息を立て、普通の人間のように安らかな寝顔で眠っていた。

 
 




 翌朝。
 窓から差し込む光と手のぬくもりでヒメナは目を覚ました。
 ウル···記憶を取り戻した宇留はロルトノクの琥珀アンバーを握って抱き寄せ、声を押し殺して泣いていた。
「う··リュ···?!」
 まだ舌は上手く回らなかったが、ヒメナも声を取り戻していた。居間の方から朝食を準備する音と、朝のニュースの音が流れて来る。
「宇、留ゅ、?」
「ヒメナ···ごめん···ごめん···!」
 宇留が小声で語りかける。ウルだった記憶を受け継いでいる宇留は、居間で朝食の準備をしている者が誰なのか知っていた。
「ウリュ···」
 微笑んだヒメナは琥珀越しに宇留の指先に触れる。
「!」
 その瞬間、ヒメナに爽やかな力が溢れた。光が沸き上がり全身の隅々まで満ちていくような衝動。生身の身体であったなら走り回りたくなるほどの高揚感。
 そしてもうひとつのぬくもりの記憶。
 背中から優しく抱き締められる暖かく安らかな記憶。だが、その記憶を呼び覚ましたのは他でも無い。

 それは宇留の おもい だった。



 意を決して立ち上がった宇留は、ゆっくりと居間の入口へと歩みを進めた。
 最大の警戒心を持って居間へと一歩を踏み出す···テーブルの前に座っているエシュタガは、見ていたテレビからすぐに視線を反らして宇留を見た。
 坊っちゃん刈りだった頭髪は整髪料で適度に乱され、以前のように優しくも獲物を狙うような流し目で睨む目を見た宇留は悟る。そしてそれはエシュタガも同様で、お互いに記憶が戻った。いう確認は不要だった。
「······」
「······」
 テレビのニュースが天気予報を淡々と読み上げる。テーブルの上には食器と調味料、焼き鮭とお新香、焼き海苔が置かれていた。そしてエシュタガが重い沈黙を破った。
「まずは···」
「!」
「まずは顔を洗ってこい···」
 エシュタガは、何かの小さいケースを宇留に向かって放り投げた。
「!!」
 それを受け止める宇留。投げた後のエシュタガの指先が、羽ばたいた鳥の羽根先のようにしなって見えるよう格好を付けたポーズになっていたのが癪に触ったが、宇留は受け取ったプラ小瓶を確認する。
「ヘアワックス?」
 まさか······!。
 宇留の脳裏に、ウルの記憶に基づいた嫌な予感がよぎる。
「使うかは任せるが、残りはくれてやる」
「あ···!」
 宇留は自分の髪を掴んで、エシュタガではなく何かを恐れた。
「あ、あ、あと!」
「?!」
 エシュタガは何故か急にどもった。
「た、た···」
「?」
「た、卵焼きは···甘い派か?しょっぱい派か?」
「え、え?」
 緊張感が一気に瓦解する。ここぞとばかりにムキになった宇留は正直に答えてやった。
「あ、あ···アまい派···ですけど?!」
「そ、うか···わ、わかった···奇遇だな?」
「?」
 そう言うとエシュタガは台所へと向かった。
 そして宇留も洗面所へと直行する。


「ああああああああーー!」
 鏡で自身の髪型をハッキリ確認したのだろう。
 思春期少年少女名物、洗面所シャウトが緒向邸に響き渡る。

「フッ······」
 出汁巻き玉子を作り始めたエシュタガは、微笑みながら卵焼き器をガスコンロで温め、手際よく卵液をかき混ぜていた。
















 

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