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復活!琥珀の闘神!
はしご
しおりを挟む一件目。
居酒屋、「昨日の仇!」
護ノ森脆店の女性エージェント。
コードネーム。
パン屋ケ丘 わんちィと、駅弁ケ駅 パニぃの二人は、揃って昨日の仇の暖簾をくぐった。
「イラッシェー!あれ?今日は二人?珍しーね?」
「うーん、今日もね?パニぃが振られたからね?」
「いひぃ!(嘘泣)」
「ふぇー!それはそれは···」
昨日の仇の大将は、そんな事を言いながら壁掛けカレンダーをめくって油性ペンを持ち、板壁に落書きをしだした。それと同時に奥では女将さんがサーバーからビールを汲み始める。
「えーと、今年で四十五回目っと!」
カレンダー裏にある落書きは、板壁に 正 の文字が九個描かれていた。
「やだもーそんなの消してよー!ってそんなに多くはないでしょー?!」
「パニっちがいい人連れてきたらな?グスッ···」
「ハイドイタドイタ!狭いんだから」
ギュム!
「ああああ!」
大将は鼻をすすり、同情して泣くフリをしたが、ビールジョッキを二本と、お通しを運んで来た女将さんに足を踏まれて悶絶していた。
二件目。
中華料理、「絵連対歌麿」
「辣韮ジンハイ二つおかわりと、鶏炊いたんでーす!ほほえみ酢豚もう少々お待ち下さーい!」
アルバイトの女性は元気のいい声を張り上げ酒と料理を置いて行った。
「だいはいらんでさー!おかひーのよ!ヒャイヒューヒョーらってのにヒゃ!···キャリ!ポグ!ツォグ!ポリ···んがく!···だってのにさ!何で浮いた話が無い訳よー!最終局面省に頼むぞもー!あぐ!」
愚痴るパニぃはジンハイの底に沈んでいたもう一つのラッキョウを箸で摘まんで口に放り込んだ。
「ざ~ん~ね~ん~!最終局面省はエフじゃ無くてピィなんだよねピィぃ!」
「なんのこっちゃあ!」
酔って普段より訳のわからない事を述べる二人。その時、近くの席に料理が届く。
「三角パイコノヤローお待たせしましたー!オアツイのでオキオ付けてーー!さー被害のウラミ込めちゃってー!」
「「コメチャッテーィ!」」
「!」
店員のパフォーマンスに店内が盛り上がる。それは中華風ゴマあんをミルフィーユ状に巻いた春巻きの皮で包み、三角形に整えカラッと油で揚げたスイーツ。何故か軸泉市民は三割引で食べる事が出来る新名物だった。
「コノヤロー!」「コンヤロォ!」
「このらろー!」
パリぃ!
「「コノヤローーーー!」」
ィエーーーイ!パチパチパチパチ····
夫婦と三歳ぐらいの子供が合言葉と共に頬張り始める。わんちィとパニぃはグラスと箸を休め、その光景に見入った。
「懐かしいね?」
「今年なのにね?」
「なんか一年くらい前の気がするゥ···」
その家族はかつて軸泉を襲った脅威への不満を解消出来ただろうか?······
参考文献
神樹のアンバーニオン (無印)
三件目。
ラーメン、「チェスチャー」
「パニぃの未来とバカアニキの安らぎを願って!カンパーイ!」
「カンパぃ!」
カチャキン!
「ゴッッッッッ!「ぷくはぁ!!」」
「お お お !」
大盛ラーメンを三分以内で消滅させ、グラスビールで消化器を強制冷却する女性二人の見事な飲みっぷりに、その他の男性客陣から感嘆の声が上がる。
「もう一件いくぞーい!」
「へやッ!」
勘定の為にわんちィが伝票をレジに持って行くと、応対してくれた店主は二人に告げた。
「ああ···お代はもうあちらの方から···」
「ん?」
二人が店主の指し示したカウンター席の奥に目をやると、そこにはちょうど大盛ラーメンを完食し、紙ナプキンで口を拭いている淑女が居た。
その女性、等和田 圭子はこめかみに二本の指を添え、ピッと軽く弾いて二人に笑みを向け、立ち上がってレジに向かって来た。
「マスターご馳走さま!さ!行きましょうか?」
「ひ!ひええ!」
「あ!あなたはもしや!!」
店を出た等和田はわんちィとパニぃを引き連れ、入れる店を物色し始める。
激闘はまだ始まったばかりなのだが、この後は書くのも恐ろしいので良夢村の様子でも見てみよう。
「いてて!」
食器をカチャカチャ洗う音でウルは目を覚ました。
緒向邸の居間の天井。額には冷感パッドが貼られ、腹の上にはバスタオルが掛けてあった。
「気が付いたか?」
「!」
目を開けているウルに気付いたエシュが土間から声を掛けて来た。
「あ、アンちゃん!俺?」
「バーベキューしてたら、オレンジジュース飲んで、酔っぱらって熱出してぶっ倒れたんだ」
「ええ?!」
「アレルギーとかじゃ多分無いってお姉さん言ってたけど?お酒は誰も飲んで無いし···」
「う、うん···わかんないけど···?あ!先輩!洗い物すいません!俺も···」
台所のシンクの前に立って食器を洗う藍罠に気が付いたウルはビクッと体を弾ませ手伝おうとした。
「気が付いたか?寝てろ寝てろ?俺はジャンケンで負けたからやってるだけだ!」
「ああ、うにゃー!何でジュースで···?」
カチャカチャと食器を洗い続ける藍罠。立ちくらみを覚えたウルは結局まだ立てなかった。
「お姉さん達は民宿に戻ったよ?磨瑠香さんはツヨムさんが迎えに来て学校に帰った。今日は先輩がマスターの代わりでここに泊まってくれるってさ」
エシュはそう言いながら手の甲を軽くウルの左頬に当てる。
「まだちょっと熱いな?しかし罪だな色男?大変だったんだぜ?救急箱にも磨瑠香さんもお姉さんも、みんなヒンヤリパッド持ってたから、お姉さんと誰がが貼るか揉めちゃってさ!ウルが大変な時に!いい年齢してワカイコと張り合うなよって!」
だ れ が う ま い 事 言 え と ! お 前 が 言 う な !
藍罠は額に青筋を立て、グワッとした顔で食器洗いを続ける。
「どうする?氷に変えてみようか?」
「いや!大丈夫!なんかもう大丈夫!氷までは大袈裟かな?」
「ああ!わかった!氷は氷ゴリなんだな?」
「くっ!」
あまりにひどいダジャレにゾッとした藍罠は、思わず水道の蛇口をお湯に切り替えた。
ふ!!!こ、こんな事でええ!あなたがユーナ!
方や、ロルトノクの琥珀の中で、ヒメナは笑わないように必死だった。
「あ!しまった!蚊取り線香買ってくるの忘れた!」
続けてエシュは買い忘れに気付く。
「ん?買って来ようか?」
藍罠は手を拭きながら居間に戻って来て、エシュに御用聞きしようとした。
「いや!こんな時は···」
「?」「?」
エシュは居間にある立派な茶箪笥の一番下の引き出しを開ける。古く黒い飾り金具と引きカンが擦れ合い、カチョカチョと懐かし気な金属音を立てる。
「あった!」
「んぅ?」
エシュの手の中には小瓶が握られていた。その中にはクリアイエローの結晶の破片がいくつか入っている。
「この琥珀を燃やしてみようか?」
「ぅえー!琥珀?燃えんのそれ?」
藍罠は疑ったが、勿論この琥珀片は地球で採れる普通の琥珀である。
「この間、マスターが試して見せてくれたんだ!虫除けにもなるっていうんだけど本当かな?」
「試してみようよ!」
ウルも二人に混ざろうと近寄って来た。
「?!」
藍罠は空耳が聞こえたような気がしたが、わざと聞こえなかった事にした。
エシュは何処かから探して来たピンセットで琥珀の一片を掴むと、蚊取り線香に使っていたライターの火にゆっくりと近付けて行く。
砕けた琥珀の先端に火が灯ると、上昇する雫の形に沿って輝くように燃えあがり、ポッと黒い煤を撒き散らしてすぐに火が消える。
「うわ」「わ」「!」
ツンとした不思議な香りが三人の鼻腔に刺さる。
「こ、これあれだァ!箪笥の!昔の防虫剤の匂いだ!ばあちゃん家とかの!」
「う~ん、正直期待した香りではなかったな?」
「これで虫コナイの?ずっと火がついて無くていいの?」
三人はあれこれ考えていたが、焦げた琥珀はいつも使っている蚊取り豚の中に放置する事にした。
「少し煤が出るからな?焦げた状態だけでも効いてくれるといいんだが···」
「なんかすぐ火消えちゃうしね?」
「なんでだろうな?個体差かな?」
興味深げに焦げた琥珀を眺めるウルとエシュをニヤニヤと後ろから眺める藍罠。
やれやれ、理科の実験みてーだな?
人間の男特有の解明欲から来る奇妙な連帯感。しかし安心は出来ない。気は最後まで抜くまい。ウルもエシュも不安定な状態なのだ。
藍罠が気を引き締めようとしているとエシュが言った。
「すぐに消えるとなると燃えないともとれるな?燃えない?燃えない···?UNBURN?フッ···!(キラッッ!)」
「······」「······」
「え?」
エシュの格好を付けたインチキフランス語風英語を聞いたウルと藍罠は、今度こそ真顔になって引いてしまった。
「風呂入ってくる」
「おやすみ···」
「ぬ·ぅ··」
エシュはしばらく、寂しそうにフリーズしていた。
「お、おやすみ······」
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