神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

 一つの角

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 I県、軸泉市。
 夕方も差し迫り、賑わいの脈も強まりつつある飲み屋街のはずれ。
 タイムスリップでもしたかのような感覚に陥る古風な店舗が並び、煌々こうこうと照明が照る店舗の並びに対し、止まり木を求める人の通りは少ない。
 まるでその界隈だけが外界と遮断されているような、近所の喧騒がくぐもって聞こえる程の静かな通りに、一台のタクシーが停車した。
 見る人が見れば見た目だけはリフォーム推奨。分かる人が見ればこの雰囲気あじたまらん···な造りの寿司屋系居酒屋の前に、着物姿の緒向と白いスーツ姿の共上が降り立った。
「ぃらっしゃい!」
 入った二人を出迎えた大声は疾風川だった。
 外観とは打って変わって綺麗にしつらえられた店内には新鮮な魚介類と甘酢ショウガが放つなまめかしい芳香が満ちていて、老若男女問わず夕食ゆうげのテンションを跳ね上げる。当の店の主人はカウンター越しに無言の笑顔でただペコリとだけ二人に頭を下げ、調理を再開した。既に冷酒とホヤで始めていたカウンター席の疾風川に、共上は変な笑顔で迫った。
「センセが来るってのに自由だなオィ!てか早いな!もうこっちに来れたのかよ!あ!センセ!座って座って?」
「あたしゃ大丈夫ダヨ?」
「どうも先生!お久しぶりです!今宵はよろしくお願いします!」
 椅子から立ち上がった疾風川は青いガラスのお猪口をクッと緒向に翳す。
「お久しぶりです。せんせい?」
 疾風川の隣席から立ち上がっていた女性。航空国防隊のベテラン隊員、等和田ひとわだ 圭子けいこが続けて挨拶する。
「おーー!けーちゃん!元気かいね?」
「あはは···」
 緒向は等和田の掌を握りに歩み寄る。その時、運転していたタクシーを何処かに停めて来たスフィが、共上を押し退けるように入店した。
「はいよ~~うぃー!」
「お!お疲れ!」
「お疲れ?」
 ノシノシと店の奥に向かって行くスフィに疾風川と等和田が声を掛けた。
「チカレタ~~あ!女将さーママー!」
 裏口から一番手前にある奥のテーブルに向かったスフィは、ちょうどお茶を三人分出し終えた女将さんを捕まえて軽くハグをする。
「あっはっは!あららスフィちゃん疲れたの?いっぱい食べでってね?あらまぁ」

「ふふ······ちょっと早かったかな?」
 そんなスフィを優しげに見つめる共上は、そのまま腕時計に視線を落とした。


 数分後。
 海鮮丼とお吸い物を黙々と食べ続けているスフィの席の向こう。裏口の扉が開いて背の高い老紳士が入って来た。
「護森さん!」
「護森さんッ!」
 スフィ以外の全員が立ち上がって老紳士に挨拶をする。
「やぁどうも!お待たせして?」
 護ノ森諸店ごのもりしょてん、代表取締役社長。護森ごもり 夏雪なつゆきは、柔らかい物腰で全員に挨拶した。
 彼はイベント会社を中心に様々な事業を展開する傍ら、その人脈を生かしアンバーニオンをはじめとする “琥珀の戦士„ 、と呼ばれる存在をサポートする組織を受け継ぎ、秘密裏に活動している宇留達の恩人の一人でもある。
「しばらくだねなっちゃん?」
緒向オムちゃん!ご無沙汰してます」
 旧知の仲である緒向と護森は握手を交わした。握手を終えた緒向は、改めて集まっている全員を見回す。
「ふぅやれやれ!まさかこんな日本の端っこにある街の店に最終局面省ファイナルフェイズ一角シークレッツが揃うとはね?」

 共上、疾風川、等和田、スフィは微笑みながらも視線をピンと整えた。

豪巻児ごうまきこ達だけは巻沢あっちでボウヤ達の護衛オモリだけどな?」
「あいつは酒が飲めねーんだ。チョードィイースよ?」
 共上と疾風川はここには居ないメンバーを微妙に揶揄する。

 取り敢えず。
 緒向と共上の間の席に座った護森のお猪口に冷酒をいだ共上は、世間話から話に入る。先に飲み物の銘柄を聞かないのは、このような席では護森は生粋の日本酒派である事を知っているからであった。
「あ!どうもありがとう、と!そっちも」
「···あ!ととと!いただきますッ!」
 ············
「っふ!···あれ?護森さんあのコ達は?」
「今日は帰らせました。違う所で飲んでますよ?それになんかあったみたいで。これから、忙しくなりますからね···」
「え!今日お一人で?」
「いえ?今日は違うコが···近くに···それにしても···ヒ···宇留くん達が無事で良かった。オムちゃんも色々ありがとう!助かったよ」
「なんのなんの!」
 そう言いながら護森は緒向とも返杯し合う。
「あっちはワカイコ達でバーベキュー大会だってさ!」
 酔いが回り口調が荒くなってきた疾風川は、豪巻児からスマホに入った返信を読み上げる。
「あ!そうだった!女将さん!帰りテイクアウトでノンアルビール一つ追加で!」
「はーい!」
「?」
「あ、あのね護森さん、こないだ会ったわんちぃさんに頼まれててね?今ウチにバイトに来てるコと知り合いだってんで、軸泉ノンアルビールをわんちィさんのおごりで持ってってホシーって頼まれたんスよ?」
「はははははは!···軸泉ノンアルビールそんなのって無いよ?普通のどこでも買えるよね?ノンアルビール。すいませんウチのが···」
「いやーイイコ達で良かったです!こんな事言っちゃ悪いんですけど、宇留くん助けた手柄の横取りみたいな事したんで、彼らの心配より縄張りの心配優先するよーなヒト達だったらどーしよとか思ってたんですけど、全然そんな事ァ無くて!仕事してても本当に心から宇留くん達心配してくれてるコ達で安心しました!さすが護森さん!いい指導してらっしゃいますよ!」
「ああ~!ありがとうございます~···」
「え~オミヤがノンアルって切なくね?!イヤガラセ?」
「面白いコ達よね?この後あっちに合流しようかしら?」
 疾風川と等和田も話に入る。
「いやぁ!ぜひそうして頂けると!彼女達の勉強になりますよ!」
「あぁ···あのコ達って···けいこくんのじゃじゃ馬好きもここに極まって来たな?」
「ええ、ハヤさんはあのコ達にひどい目にあったものね?」
「え?い?や?」
 詳細は不明だが疾風川の脳裏に困った記憶がよぎる。しかし酔った勢いとは言え、協力会社の社員エージェントをその社長本人の目の前でじゃじゃ馬呼ばわりしてしまった事を、疾風川は翌日思い出し恥じる事になる。だが、そんな事でもあまり気にしていなさそうな護森を見た緒向が一言もの申した。

「微妙に仲が悪いわよねあたしゃたち?」

「「「あっはっはっは!」」」

 全員が声を上げて笑った。宴に無関心だったスフィですら口に含んだお吸い物を吹かないように顎を引いてクックと肩を揺らす。

「あ~!所で···護森さん!これ···」
「?」
 共上はパワーストーン用の小さい巾着袋から何かを取り出し、護森の前のカウンターテーブルに琥珀のような結晶を一粒置いた。
「!!、これは?!」
「···“彼„からのメッセージが入っています」
「!ーーーーーッ、共上くん!···失礼!」
 護森は大事そうに琥珀の粒を手に取る。
「護森さん?そのメッセージはあなたの期待しているものではないかもしれない。それでもいいですか?」
 共上は、真剣な表情で中身半分になっていた護森のお猪口に日本酒を追加する。護森の目にはうっすらと涙が滲んでいた。

「···ありがとう共上くん!それでも···それでもいいんだ!ありがとう、ありがとう···」

 全員が切なな笑顔を護森に向ける。共上は礼を言われた照れを隠すように、自分のお猪口をグイッと空にした。

 

 
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