神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

 充 填

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 牛乳瓶運びトレーニング。


 二十本入りの牛乳瓶ケースに入った空き瓶一本づつに並々と水を注ぎ、なるべくこぼさないように決められたコースを歩く。
 ラスト百メートルの直線は全力ダッシュで走り、終了後は残った水の計量を行う。残った水が多ければ多い程···なんか良い感じ?だそうだ。


 押忍!俺の名前は鍵村かぎむら 跑斗あがと。みんなは、俺の事をエシュと呼ぶ。どうしてだろう?
 今、ヨッキくんの妹とウルは俄然やる気になって牛乳瓶ケースをそれぞれ受け取ると、開始前だというのに川へとダッシュして行ってしまった。子供達は元気でいいな?だがヨッキくんは相変わらずよそよそしい。そんなにこの髪型がおかしいのだろうか?俺は結構気に入っているのだが。
 秘密基地(物置小屋)の中で、自分だけ牛乳瓶を慣れた手つきでケースに詰め終えたヨッキくんは、俺に目もくれず外へ出ようとする。
「あ!先輩ヨッキくん!今日の合言葉はなんだったでしょう!?イクシオンッ!」
「?!、トッ···トットッと、都市?」
「正解!」
「っていうか何!?合言葉って?」
「マスターがハマっているアニメであったでしょう!合言葉のシーン!あれカック良いよね?後半メカグ·ォリラになって戻ってきたグ·ォリラが本人確認で前半の合言葉のいんを踏むのもイイよね?だから俺達最近合言葉にハマってるんだ!」
「知らんし!もぉ!あんたも早くおいでよってばよ!」
 そう言うとヨッキくんはウル達の後に続いて沢の方にイライラしながら歩いて行った。そんなに俺はヨッキくんの嫌いな奴にそっくりなんだろうか?あんな純粋そうな人に危害を加えるなんて俺の偽物め!会ったらいつかとっちめてやらなくてはな?











 沢へと下りる獣道と、水面とほぼ平行になっている沢沿いの砂利じゃり場。
 そこで肩を並べてしゃがみ、コポコポと牛乳瓶に一本づつ水を汲んでいるウルと磨瑠香。
 二人が座り込んだ合間が近いせいで相変わらずウルは気まずそうにしていたが、昨日よりは警戒心が和らいでいるようだ。それどころか若干頬を赤らめ、特に磨瑠香を意識してドキドキしているかのような素振りすら見せているウルに、磨瑠香の表情はほころんでしまっていた。
 普段、恋愛関係にはクール。という印象の彼を知る磨瑠香。そんな以前の宇留と、記憶を失っている現在いまのウルという格差ギャップ

 好き···かわいい···

 それをを堪能しようと、磨瑠香の中に女心が浮かび上がろうとする。
「!」 
 だが磨瑠香は卑怯者では無い。
 こんな状態の宇留を丸め込むようなマネをする事を、彼女の性格が許さなかった。
 かつて宇留に贈られた誠心と、ウルのすぐ側に“居る„琥珀の中の友人ライバルの為にも······

「ねーえ?」
「な、何、お姉ちゃん?」
「そのペンダン···
「あげないよ!」
「!」
 そんな誤解を受けた磨瑠香の、どこか切なそうな大人びた微笑みにドキッとしたウルは、少し恥ずかしに視線を沢に戻す。
 磨瑠香も至近距離で初めて見る、ギラついた宇留の男の表情かおに困惑してうつむいてしまった。

 ああ···当然だけどやっぱり大事なんだなぁ···

 そう考えてしまった後で後悔する。
 今度は本質のターン
 無意識に友人と自分を比べてしまった。
 反省。
 胸の高鳴りを誤魔化すように磨瑠香はうつむいたままで続ける。
「違うよ?その琥珀のおねえちゃんとちし、友達なんだよ?」
「え!ホント?!」
「だからね?イヤじゃなかったらちょーっと見せてほしーなぁって?」
 明るい表情で顔を上げ、ウルと再び見つめ合い提案を続ける磨瑠香は、何気ない会話の中で子供の一線上に戻って来れた事に対して、ホッとしたような、そのまま突き抜けたかったような、なんとも複雑な心境だった。

 沢の浅瀬に置かれた二人分の牛乳瓶ケースの瓶全てには既に沢水が充填され、ケース内に流れ込んだ沢水が瑞々みずみずしく瓶達を濡れ映えさせている。
「ちょっとごめんね?ヒメナ!」
「よっと!ありがとう!」
 磨瑠香がウルから受け取ったロルトノクの琥珀アンバーをしばらく見つめていると、曇って見えなかった内部が一瞬にして明らかになり、ヒメナが姿を現した。
「○○○ー!」
 笑顔で何かを呟くヒメナ。だが声は聞こえない。
 小さい口の動きでかろうじて磨瑠香の名前を呼んだ事だけはわかった。
「ヒメナちゃーん!!」
 再会を喜ぶ磨瑠香は抱き締めるようにロルトノクの琥珀アンバーを握って胸の前に引き寄せる。

 やっぱり放っておけない。宇留への想いも大きい一方、磨瑠香は何故かヒメナに対してかわいそう、という思いが溢れている事にも気が付いた。
 根拠はわからない。しかし彼らの力になりたいという感情がとめどなく満ちていくのは確かだった。





 わわわわわ!
 
 牛乳瓶に水を汲むため、口笛を吹きながら川にやって来た藍罠は、至近距離で肩を並べる沢沿いの磨瑠香と宇留に驚いて思わず道の段差に身を隠してしまった。その際、牛乳瓶を脇に置いた藍罠は、奇跡の静音性を発揮しながら牛乳瓶ケースを接地させる。
 ーッッッ!びっくりしたーーー!思い余って角度的に一瞬キスでもしてんのかと思っちまったーーー!あー!びっくりしたーーー!勘違いかよー!···っていうか、何で俺コソコソ隠れてんだー!キモ過ぎだろーー!

 わ!わ!わッ!
 
 牛乳瓶に水を汲むため、口笛を吹きながら川にやって来たエシュは、至近距離で肩を並べる沢沿いのウルと磨瑠香に驚いて思わず道の段差、藍罠の横に身を隠してしまった。その際、牛乳瓶を脇に置いたエシュは、奇跡の静音性を発揮しながら牛乳瓶ケースを接地させる。
 「ヒソヒソ(言わんとしている事ァわかるぜ?)」
「(え?)」
 「(宇留アイツもなかなかやるな?)」
「(ウルがすいません!すいません!妹さんに!)」
 藍罠が、何で謝るんだ?と思っていると、泣いているかのように磨瑠香は肩を震わせていた。だが藍罠には、ウルが磨瑠香を泣かせているのでは無いという確信があった。
「(大丈夫だ!)」
「?」
 その時、泣いている磨瑠香を心配し、肩に手を添えようか逡巡しゅんじゅんしているウルの手が磨瑠香の背後で揺れる。
「(行け!行け!頭ヨシヨシなり!肩ポンなり!何なり!ナグサメロ!)」
「?、!、!」
 藍罠とエシュは小さいガッツポーズを小刻みに震わせ、ウルの後押しをする。しかしウルの手はパッと引き戻ってしまった。
「「(あ~っ!真面目かッッ!)」」
 片手で顔面を覆い、ウルのアプローチ不足を嘆く藍罠とエシュ。

「なんなのこのオッサン達、キモいんですけど?」

「なっ!!俺らはオッサンじゃねー!···」
 誰かの声に藍罠とエシュが振り返ると、そこには白いスーツにピンク色の薔薇の花束を持ったアラフォー紳士が立って、ニヤリと微笑んでいた。
「「共上さん!」」
 藍罠とエシュがハモる。
「ふぅ!やっと着いたぜ!あ!」
「?」
 共上は花束で顔を隠すと、ゆっくりとしたカニ歩きのように、横に向かって歩き出した。
「なんだ?」
 藍罠達の前に、ジャリっと誰かが立ち、ケースからポタポタとしたたった水が土の上に落ちる。
 水入り牛乳瓶ケースを持った磨瑠香達が、藍罠達の前に立っていた。
「!ーーーー」
 ゴッ!ゴゴゴゴゴ···
「おニィ···早く水汲んで来て?」
「「は!···はい」」
 すっかり小さくなった藍罠とエシュは、立ち上がって沢沿いへと逃げて行った。
 次に共上を睨む磨瑠香。共上は花束越しにビクッとするも、そのままのカニ歩きで歩き去って行った。
「ぬぅ!怪しい···」
 その時、誰かが磨瑠香に近付いた。
 
「この水ウマイの?」
「ん?あ!ダメです!沢水ですよ!」
 何処から現れたのか?金髪の女性が立っていた。
 そのまま磨瑠香の水入り瓶を一本飲み干す女性。
「オイシ!」
 願いは虚しく、沢水を完飲
 した女性が忠告する。
「マネしないでね!?」
 すると、いきなり女性は牛乳瓶を振って共上を呼び止める。

「おぉーい!コレに一輪クレよーい!」
 女性は怪しい歩みを止めない共上を追っていった。
「なんだろうねあの人達。瓶もう一個持って来ないと!」
「だねぇ?沢水はピロリ菌ヤバイって!大丈夫かな~?」

 怪訝な表情を浮かべ、三人は物置小屋(秘密基地)に瓶を一本だけ取りに戻った。勿論、そのルートもトレーニングの内である。















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