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復活!琥珀の闘神!

 先 達

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 C県、鍋子市。

「頑張れ!ゆっくり!」
 早朝、優しい波音が旋律を奏でる漁師町の道すがら。
 たどたどしく歩く少年は、猫仮面のセーラー服女子高生に激励の介添かいぞえを受けながら、道端の防波堤に手を添え歩行訓練にいそしんでいた。
「どうする?杖、復活する?」
 その途端女子高生の腕の中に、マジックで隠していたかのように松葉杖が一本現れた。立ち止まり、うつむいて苦しそうに歯を食い縛る少年、ゲルナイド中枢活動体に女子高生は松葉杖の使用を提案する。
「いや!まだ!。俺達は···く、この擬態構成するつくるのに、仕草も、形も!言葉も!結構練習するんだ!···最初の、頃に!比べ···たらっ!ぬ!く!···」
 コンクリートの防波堤と痩せ我慢を支えに歩き出すゲルナイド。女子高生は猫仮面の裏で、ゲルナイドの意気込みを微笑みで称えた。

 その時、彼らの拠点となっている祠に続く参道から、麦わら帽子に眼鏡、白いワンピースを着た少女がフラリと現れ振り返り、鳥居の前で一礼した。
「!」
「あ!マユちゃんだ!早いねこんな時間から、今日は日曜日だから、スグそこのおじいちゃんかな?」
「い、委員長?」
「?」
 ゲルナイドに委員長と呼ばれた少女はゲルナイドに気が付いて、そろりそろりと近付いて来た。
「あれ?知り合い?でもチナミにねぇ?わたしあの娘には視えないから」
「え?そうなの?」

 少女は近寄りながらしばらくゲルナイドを観察していたが、やがて口を開いた。


月井度つきいどくん······?」











 テーブルに置かれたオーブントースターの中では、上下に分離セパレートされたイングリッシュマフィンが三組六枚、こんがりと焼かれていた。
 そしてトースターの扉が開き、手前の三枚に溶けるチーズが乗せられると、扉は再び閉じられる。
 それぞれ一セットずつ、焼き上がったマフィンが手際良く三人分の皿に乗せられ、次の三組六枚がトースター内の網の上に綺麗に並ぶ。
 緒向は辛子高菜マヨをたっぷりと。
「こぅやって付けティェっへっへ!」
 エシュはピーナッツバター+練乳を。
 ゴッソリ!
 食卓には今日あるだけのトッピングが幾つも並んでいる。
「アンちゃんピーナッツバター全部使っちゃったよ?!」
「え!あ、あれ?おかしいな?」
「今新品開けたばっかりじゃなかったかい?マッタクモー!」
 エシュのマフィンには、ピーナッツバターが一瓶分、たった一掬ひとすくいでこんもりと盛られていた。
「ヒトビンくらいまぁえーわい!んぁが!」
 緒向は大量の辛子高菜マヨが搭載されたマフィンを一口で口内に放り込む。
「ぬ!」
 エシュも負けじと蓋をしたマフィンを、んがか!と口に押し込んだ。
やふへやるね?」
 緒向とエシュの視線が鍔競つばぜり合う。
あふふぁーほそマスターこそ
「うわあ······」
 二人に少しだけ引いてしまったウルは、何もトッピングしていないかと思われたマフィンを口に運ぶ。
 ハムッ!ポリッ
「!」
 軽やかな漬物を噛む音。緒向とエシュは戦慄する。
 ((た!たくあんだとぉ!))
 (一応食卓に出して置いた刻み沢庵!い、いつの間に!)
 (わざと渋く淹れた濃い番茶くらいにしか合わないウチのクセの強い沢庵を!マフィンに!末恐ろしい子ッッッ!)
「んぅ?···」
 妙な緊張感のある食卓に、ウルは縮こまりながらマフィンをかじり続けた。


「あー強夢ツヨムちゃん!昨日はありがとね?しばらくこっち忙しいから、道場とみんなをよろしくね?」
 ウルとエシュが食器を洗っている間、緒向は道場の関係者に連絡していた。電話を終えた緒向は、背伸びをしながら二人に告げた。
「今日の夜から明日まで、あたしゃおらんからね?適当になんか作って食べときなよ?あと昨日のお客さんもまた来るから、お茶くらい出しといてね?」
「かしこまりました!マスター!」
「それとウル!」
「はい!」
「何回もくどいようだけどね?レトルトだの解凍だので湯煎ゆせんするのにわざわざ火を付けっぱにしとく事ぁ無いんだ。沸いたら火を止めて、出来たアッツイお湯に入れときゃ勝手になんぼか熱が移るもんさ!」
「かしこまりましたバッチャン!」
「あと···ね?ん?なんだっけ?猫の親指?じゃなくて?っと?」
「?」
 考え込む緒向にウルとエシュが注目していると、家の前から話し声が聞こえて来た。



「あれ?昨日の!?」
 緒向邸の前にやって来た藍罠兄妹。向かって反対側では、以前道端で出会ったカップルが藍罠に気が付いていた。
「ああ!、お兄さん!昨日は有り難う御座います!こちらのかたでしたか!?」
 男性の方が藍罠に声を掛ける。藍罠は笑顔で返した。
「あ!いえ、こちらという程の者でも無いんですけど···」
「こちら、緒向先生のお宅でよろしかったですか?」
 女性の方が次いで質問をした。女性の顔立ちと、首から掛けている琥珀と木製根付を組み合わせたアクセサリーの印象が藍罠にある予感を提示する。
「···そうですね!多分今居ると思います!」
「あの!こちらにウル···須舞 宇留はお邪魔しておりませんでしょうか?」
「「!」」

「私、宇留の姉の須舞 柚雲ゆくもと申します!」

「「お!お姉さん!?」」


 訪ねて来た宇留ウルの姉、柚雲 は両親に事情を聞き、現在在住しているI県沿岸北部にある軸泉じくいずみ市からやって来た。
 付き添いの男性は彼女が勤める観光物産施設の同僚らしいが······
 宇留の両親は一度緒向の家に様子を見に来て無事を確認して事情を悟り、再訪を約束して一度地元であるT都に戻る前に、彼女にも声を掛け現状の説明があったとの事だったが、どうしてもいてもたってもいられなくなり良夢村を訪れたのだという。

 なんか騒がしくなりそうだな?

 話を聞いた藍罠は、訪問の挨拶をする二人を見ながら考えていた。


 家の前ではエシュが掃き掃除をしながら汗ばむ額を手で拭い、髪型以外爽やかな笑顔を朝の日差しにかざしている。
 藍罠は麦茶を用意しようと冷蔵庫を開け、磨瑠香は漆塗りのお茶うけ皿に婆菓子おかしを詰めようとしていた。
 居間のテーブルには緒向とウル、向かって柚雲と男性が座っていた。
「僕は柚雲さんの同僚の義亜ぎあ 風喜ふうきと申します!よろしくね?宇留くん!」
「は、はぁ···」
「本当は昨日伺う所だったんですけど!企画準備の仕事を仕上げて、徹夜で出発の準備してたら暑さで体調崩しちゃって、今日になってしまいました!申し訳ありません!」
「今日は大丈夫なのかい?」
 緒向は優しく柚雲に尋ねた。
「は、はい!バッチリですね!」
「う~ん!そりゃ良かった!で、二人は付き合って長いのかい?」
 柚雲と風喜はビクッと肩を弾ませ二人同時に赤面した。
「い、い、いえ、最近知り合ったばっかりなんですけど···ね?ゆっちゃん?」
「う、うん···う、う、う···運···命だよね?ナンチャテ···」
「「フフフ···」」
 二人は見つめ合い、自分達だけの世界に没入する。
 バカップルかい···
 幸せオーラにさらされた緒向とウルは、目を閉じた微妙な表情のまま首が任意の方向へと傾いて行く。
 彼氏さんあんたもお義兄にいさん候補かよぉぉ···!(冗談)
 笑いをこらえているかのような表情の藍罠の麦茶を注ぐ手が震え、コップからバチャバチャと麦茶が逸れて少々こぼれる。そこへ横から磨瑠香の手が伸びて来た。
「おニィ様···集中ですわよ?フフッ···」
 お前も何でかしこまってんだよ
 磨瑠香は兄が揺らすムギピッチャーを支え、何故か礼儀正しい。

 緒向と二人があれやこれやと世間話をしていると、掃除を終えたエシュが気配を消しつつ家に戻って来た。話の途中でエシュと目があった二人はペコリと軽い会釈を交わし合う。
「?」「?」
 柚雲とエシュに一瞬ボンヤリとした記憶がよぎる。

 あれ?この人どっかで?

 そのまま奥の部屋に引っ込もうとしたエシュを緒向が呼び止めた。
「エシュ!ウルもトレーニングに連れてっておくれ?」
「!」
「え?ウルにお客さんじゃ無いんですか?」
「ふぅむ、まーそーなんだけど···いいよね?」
「!、は···はい···」
 少しだけ気を落としたように見える柚雲。彼女らもウルの記憶が無い状態を察して、突き詰める事を良しとするつもりは無いようだ。そしてそのウルも、緒向の横で何故か申し訳なさそうにしている。
「あんたらも久しぶりに行っといで?」
「「え~~?」」
 麦茶セットを運んで来た藍罠兄妹も、緒向の思いつきに付き合わされる。
「ゆっちゃん······あの!緒向さん、僕達隣町の民宿に明日まで居ますので、何かあったらまた連絡お願いしてよろしいでしょうか?」
「あぁ、いいともいいとも!」
「ありがとうございます!」
 居間で緒向と二人が話をしている最中、藍罠兄妹とウルとエシュが土間に集合する。
「よし!牛乳瓶ケース持って川に集合だ!」
 藍罠がトレーニングの音頭を取る。
「おー!」
「よろしくお願いします先輩!」
「先輩!」

 緒向から少し自分達の事を聞いていたのだろう。ウルとエシュに先輩呼ばわりされた藍罠は、少しだけ鼻をフフンと高くしていた。






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