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復活!琥珀の闘神!
楽 園
しおりを挟む「どーゆー事ですか!宇留はともかく、何でテヘペロリストが師匠の所に居るんですか!?」
良夢村の外れ、廃校を再利用したコミュニティ施設の校庭。
そこに停まったレンタカーの車内で、藍罠は不定期連絡してきた共上にまくし立てた。
〔イイ男だからだろ?〕
「冗談言ってる場合ですか!」
〔いざとなったらエージェントが二名近隣に待機しているし、ひどい時は捕まえるし、···もしかして君はあの方の実力を過小評価しているのかね?〕
「滅相ござらん!(ガクブル···)」
〔ならいーがね?名を聞いただろう?ともかく!彼らはウル君にエシュ君だ!···っていうか空気読んでよ。色々落とし所取り成すのに大変だったんだからさぁ、大丈夫だって、帝国の戦士ったってー膨大な前世経験値に若い体が追い付かない例が大半らしいしだしさ?···〕
そこで共上は一度区切り続ける。
〔···椎山を煽ったんだろう?〕
「!」
〔そこに現れるかもしれないと思わないか?〕
「な!ここを戦場にす···!〔だからさ!それはこっちも同じだ!したくない!、だがあっちはそうとも限らない。大切な物を知っているからこそ大切なものを奪いに来ようとするかも知れない!だから君がそこに居るんだ···〕
「くっ···!」
〔その為にモスコシやる事がある。心配するな!何にも出来ない訳じゃ無い。油断だけしないでもうちょっとだけゆっくりしててくれな?·····〕
共上との通話を終えた藍罠は両手でステアリングを掴み項垂れた。
「なんか···無力だ······」
もう少し無駄に悩んでいたかった藍罠だったが、先に施設に入った磨瑠香だけにチェックインなどを任せる訳にはいかないので車を降りる。その時、施錠してリモコンキーを上着ポケットに入れた藍罠の指先が、そのポケットの中に忍ばせていた琥珀に触れた。
「······」
琥珀と擦れ合って傷付くのを防ぐ為、リモコンキーを反対側のポケットに入れ直した藍罠は校舎の時計を見上げる。
「懐かッ!」
廃校と言っても廃墟感はまるで無く、今すぐにでも学校が再開出来そうな程に建物は綺麗に保全されている。体育館の方からは子供達の気合い充分な発声が響き、藍罠の郷愁感を呼び覚ました。
「みんな頑張ってるな?」
かつて生徒達の昇降口だったエントランスに入ると、思った以上の喧騒が藍罠を包む。出入りする人が持ち寄った野菜やお菓子、工芸品等が並んだ簡単な産直販売コーナーや、シニアサークル、只のお茶飲み会からガチ趣味人の集まりが各々の空き教室で催され、廊下の人の流れは思った以上だった。
空手道場になっている体育館には、週末という事もあって県内から緒向に師事する子供達が集結しているようで、外に居た時よりも大きな気合いの声が軽音倶楽部の音に乗って聞こえてくる。
するとエントランス脇にある元職員室の事務室の扉が開いて磨瑠香が出て来た。
「あ!ハイ、おニィこれ!」
磨瑠香は二つあるカギの一つを藍罠に手渡す。三つある宿直室を改装した宿泊室の内二部屋のカギ。その時藍罠は磨瑠香がソワソワしている事に気が付いた。
「あれ?先にみんなに顔でも出して来るか?」
「え!、うん!」
「荷物運んどくぞ?俺も後で行く」
「ありがと!」
微笑んで磨瑠香の部屋のカギも受け取った藍罠は、廊下の長椅子に置いてあった磨瑠香の荷物の横に自分の荷物を置いて事務室の扉の前に立つ。磨瑠香の後をゴロゴロと付いて行ったロボットキャリーバッグを横目に、事務室の扉を開ける藍罠。
「こんにちはー!お世話になります!」
挨拶をして、知り合いの職員と少々世間話を交わした藍罠は、全ての荷物を持って宿泊室に向かった。
「あ!マルカちゃんだ!」
「マルチゃ!」
体育館で練習していた数名の女の子が、そろそろと入って来た磨瑠香に気付く。
練習は中断せず、胴着を着た指導員の女性が磨瑠香の元へとやってきた。
「よぐ来たねーー!」
子供達の声が大きく、必然的に指導員の女性と磨瑠香の声も大きくなる。
「はい!ご無沙汰してまーーす!」
「もうちょい待ってで!後で休憩すっがら!」
「はい!」
女性の黒帯に刺繍された“椎山„の文字を見た磨瑠香は、ほんの僅かに眉を潜めた。
藍罠が体育館の道場にやって来た頃、ロボットキャリーバッグの蓋を開放した磨瑠香は、持参したおみやげのお菓子を全員に配っていた。小さい子供達は藍罠を見て「?」となっていたが、彼を知る数人の年長組の少年少女は立ち上がり「押忍!」と挨拶してくれた。
藍罠はこちらに気付いた磨瑠香と指導員の女性に何かを摘まむ仕草で あとちょっと とジェスチャーをして頭を下げ何処かを指差した。
「?」
困る磨瑠香の横で、そのジェスチャーを理解した女性はウンウンと頷き指でOKのサインを出した。
多数の絵画作品が飾られた廊下を奥へ進んだ藍罠は、元図工室の扉を開けて中の様子を見る。
「こんちわ~?」
元図工室の一角には、二ヶ所に区切られた模型制作ブースが並んでいて、その内一つに陣取った男性が挨拶代わりに藍罠に声を掛けた。
「よぉ!臭うからそれ付けてね?」
「?」
入口の側に置いてあった学習机の上には、簡易防塵マスクが幾つもビニール袋に入れられて備え付けてあった。
藍罠はそれを装着して男性が作業しているブースに向かう。
「お久しぶりです」
「おぅ!」
男性はエアブラシでプラモデルの塗装を行っていた。塗料の溶剤臭を吸い込む段ボール枠の吸塵換気扇のフィルターが机の奥で口を開け、エアブラシのボタンをノックする時のみ作動する静音コンプレッサーが時々クァーー!と鳴る以外はとても静かな元図工室。男性は塗装を一段落させて藍罠の方に椅子を回して向き直った。
「いーくんの事で、たくさん人がこっちにも来たよ」
「ぁぁ···なんか、すいません···」
「ヨキくんが謝るこたぁ無いさ、俺も道場に居る妹もまさか、イトコがお尋ね者になるとは思ってなかったし。で、最後にいーくんはなんて?」
最後。嫌なイメージの言葉と記憶に一瞬藍罠の言葉が詰まる。
「!っと···?」
「ああ、ごめん、言えないよね?」
「···すいません」
「ん~、でもなんか実感湧かないなぁ?これは勘だけども、いーくんなんか戻ってきそうな気もするし」
「!」
男性が目を泳がせた先を追った藍罠は、棚の上に飾られたプラモデルの完成作品を目にした。
藍罠も持っている重拳のプラモデルが二つ。
親戚からいくつも届き、良夢村の隣町にある国防隊の宿舎の自室に置きっ放しにして来たプラモデルの完成形。
二両の重拳が腕を展開させ、拳をかち合わせている簡単なジオラマがそこにあった。
「······っ!」
「まぁ焦らず行こうよ?」
男性は感慨深げにプラモデルを眺めて考え込む藍罠に少しだけ微笑を浮かべ、作業を再開した。
···
······
···········
その夜。
緒向邸の一室。
まるで樹液の中に居るような重く濃いオレンジ色の常夜灯の下。
微風の冷房の音が響く部屋に布団を並べて敷き、横になっているウルはバッと目を開け、隣のエシュに声を掛けた。
「アンちゃん起きてる?(ヒソヒソ)」
「ぁぁ(ヒソ)」
「なんかさぁ、枕がイイ匂いで眠れないよ?何でだろ?(ヒソヒソ)」
「そうか···良かったな?(ヒソヒソ)」
「えぇ~?(ヒソ?)」
エシュは核心に触れず、目を閉じたまま寝返りを打った。
一方、太陽の表面。
巨大な黒い樹の幹に並んで垂れ下がった二つの樹液カプセルの内部には、アンバーニオンとガルンシュタエンのシルエットがそれぞれしっかりと浮かんでいる。
「もうすぐだな?」
それらを見上げるムスアウは、ニヤリと口角を上げ、自信ありげに微笑んでいた。
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