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復活!琥珀の闘神!
奉る行い
しおりを挟む当時、太平洋上で起こったその戦闘には、大国の首都を数分で陥落させる程の戦力が投入されていた。
我が国の西海岸から同時に上陸した三体の怪獣は、対応が間に合った連合軍の反撃でなんとか文字通り水際で海に押し返され、三体共に“撤退„した。
追跡を行っていた部隊が、突如として現れた怪獣一族の王によって全滅させられた事により、首脳陣は即対応が可能な全戦力の投入を決定。
しかし終わってみれば、艦艇はただ海に浮かび、戦闘機はただミサイルをばら蒔いたのみで終わっていた。
中破以上多数。追跡部隊含め犠牲者はゼロ。
この事実はある意味、前線を指揮する者にとって戦慄すら突き抜けた恐怖であった。
ただ闇雲に暴れまわる野獣では無い存在が、手心すら敵にかける余裕を持って戦い···いや、遊んだのだ。攻撃もほぼ効果の無い巨大な怪獣が、人間並みとも言える高い知性をもって生殺与奪の権を既に戦場で握っていたという事実。
“王„はいつでも我々を殺す事が出来たのだ。
国際世論の圧力によって衛星兵器の軍縮が進む昨今、世論だけでは無い何か。怪獣が何らかの手腕を持って政治に介入しているという都市伝説が生まれるのも無理は無い話なのかも知れない。現に超衛星兵器の減少と、彼らの襲撃頻度の減少は比例しているのだから。
夜。
怪獣災害からの復興が進む海外のとあるビーチリゾートのパーキングエリア。
破損車両の仮置き場になっている広場の一角に停められた商品看板の無いケータリングカーの運転席に座るスーツ姿の男性、最終局面省職員の疾風川 優牙は、タブレット端末に表示された報告書の序文を読み終えた。
「で、問題と言うのは?」
疾風川は助手席のアロハシャツを着た肥満体型の男性に尋ねた。
「後のページにもあるが、我々がどう調べても由来の分からないコース上から一つの打診があった」
「···例の現象上ですか?」
「ああ、詳細は現段階では不明だが、差出人は“宮殿跡„のサルベージに関わった人間の出頭を要求している」
「なるほど······」
「君の両親の母国だけではなく、彼らはこの世界にとって貴重な人材だ。人と人のように、国との交渉をするように穏便に済ませたい」
フッ、墓を暴くヤツが貴重な人材?
疾風川は心の奥で呆れて笑った。
「だが彼らはアノ帝国に靡いてる節がある。まともに事が進みますかね?」
「最悪、君達のトコロの···いや!失敬!」
助手席の男性は自身の提案を自ら遮る。
「······申し訳ありません。リーダーは今忙しくて、まぁ、穏便にという事ならそれで進めてみましょう?」
「そうか!では頼むよ!?」
「はい、それではまた······」
男性は助手席を降りて、並んで停めてあった黒い公用車に乗り込んだ。
「早く面子揃えてくれよリーダー···」
疾風川は独り言を言いながら連絡相手をスマホで探す。
「······!、競流か?今大丈夫か?少し探してほしい話があるんだが?···」
疾風川の乗るケータリングカーの隣に停まっていた公用車はヘッドライトを灯し、パーキングエリアから猛スピードで走り去って行った。
緒向の家に戻って来た藍罠は、少年に貰った琥珀をポケットに忍ばせ入口の扉に手を掛けようとした。
「ぅええええぇっ!」
「!」
家の中から磨瑠香の泣き声。多分この感じは嬉し泣きだろう。心配していた宇留とやっと会えたか?と、藍罠の顔が綻ぶ。
笑顔のまま扉を開け、「ただいまッスー?」と土間に踏み込んで行く藍罠。
居間では困った表情で皿をテーブルに運ぶウルの両肩を、後ろに居る磨瑠香がガッと掴み、二人電車ごっこのようにじゃれていた。
磨瑠香は泣き顔をキープしたまま、居間と台所を往復するウルの後ろを付いて回り、明らかにウルの邪魔になっている。
「うぇぇ!よかったよーー!宇留くん生きててよかったよーー!ぅええ!」
磨瑠香のテンションに困惑するばかりの記憶の無い宇留には申し訳ないが、藍罠はひとつ溜飲が下りた。
「ん?んふ!あはははっ!」
かと思えばウルの顔を覗き込み、今度は笑い出す磨瑠香。どうやら坊っちゃん刈りが気になるらしい。
「はは、はは?」
「ああ~兄弟ともここに来た時ゃ髪ボサボサでねぇ?超久しぶりだったけど、あたしゃが切ってあげたのさ」
つられて苦笑いするウルを見た緒向が言った。
「バッチャン!このお姉ちゃんコワイ!」
「お 姉 ち ゃ ん!?」
何故か喜んで目をキラキラさせる磨瑠香。
「ははは、お姉ちゃんがごめんな?まあ焦らずいこうぜ?」
藍罠は、キョトンとしているウルの肩を叩いた。
はて?お姉ちゃん?なんか忘れている気がするね?
お姉ちゃんというキーワードに反応した緒向は、エシュがジンギスカン用の鉄鍋をテーブルに運んで来るまでじっくりと悩んでいた。
「ぬぅ~うまふ~~♪」
焼きたてのラム肉を、少しの野菜と一緒に口に放り込んだ磨瑠香の表情筋がほどけた。
「ヌッ!」
藍罠はここぞとばかりに焼き奉行に徹しようと食材に手を伸ばそうとするも、いつもエシュが一瞬先に手を動かすので焼く事が出来ない。
「さぁお兄さんどうぞ!ホラ!ウルも!」
お、お兄さんだぁ?
「あ!アンちゃんありがとー!、ん、ファボフス(頬張り音)、あっふ!」
夏にピッタリな爽やかな笑顔で焼けた分を藍罠を初め全員の取り皿に置くエシュ。だがそれだけにどうしてもその髪型なんとかしろ!といつも思ってしまう。
くそぉ!焼き肉サバイバルで偉い上官に絶賛された俺の焼き奉行道。師匠にも認めてもらおうと思ってたのに!く!隙がない!。やはり鍵村ぁ!わざとじゃねーだろなぁ?っていうかタレうま!
「今晩は二人共道場というか、学校に泊まるといいよ?」
「マジすか?」
「今日は疲れたベイ?喋っておいたからこれから行って二部屋準備すればいいよ?」
「え~?あそこオバケが出るんだよね~?」
いきなり磨瑠香が怖い事を言い出すので、ウルとエシュはビクッとした。
「ああ!あの子はドスケッチブックだからねぇ、これ持ってきな?」
緒向が差し出した透明ビニール袋には、ピーマンが三つ入っていた。
「お守り!これとアニキが居れば来ないだろうよ」
「そんな師匠人をピーマンみたいに!」
「あははっ!」
すっかり元気になった磨瑠香を見た藍罠は安心して微笑む。残るは······
「!」
磨瑠香はいきなり隣に座るウルの首飾り、ロルトノクの琥珀に顔を近付けて表面を撫でる。
ナデナデ!
「!」
曇った琥珀越しの磨瑠香の挨拶に、ヒメナはこっそりと微笑み返した。
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