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復活!琥珀の闘神!
集い結ぶ
しおりを挟む夏の青空に映える上居脇山を臨む良夢村のどこか。
小綺麗で和風モダンな一軒家の、かつて駄菓子屋の店舗だった土間から見える居間で、アニメを見る一人の老婦人が居た。
黒帯の胴着に男物の夏用半纏。全てパールシルバーの白髪は後頭部でピシリと纏められ、気品に満ちた表情に似つかわしくない薄茶色のサングラスを着用している。
座椅子に座りながらも背筋はしっかりと伸びて、端から見れば若者が老人のコスプレをしているかのようなオーラが満ちていた。
「オヤヴィン!今度は空からグ·ォリラが降ってきた!」
老婦人が見ているアニメの劇中では、高校生くらいのツナギの少年が、ネオソバージュの彼女を二の腕にへばりつかせながら、先程までのシーンの状況を上司に報告する。
彼女の方はというと、常に少年を見つめながらネェネェと口パクを繰り返していた。
「ケッ!」
老婦人は唇の片方を歪め、呆れた悪態をつくように息を巻く。
少年の報告を受けた上司は、おもむろに物陰からショットガンを取り出し、ガシャコとポンプした。
「慎吉ィ!メシにすっぞ!」
歩き出す上司を追う慎吉。
「グ·ォリラって食えんのかな~?ああ!待ってよオヤヴィン!ワスゥイントン条約ゥゥゥ!」
「オァルラァ!クァネ返せー!」
てっきり彼女だと思われていた取り立て少女は、少年の後を追った。
「ケッ!傑作だーー!」
老婦人。緒向 トウネのいまいち傑作のポイントが良く分からない評価が下される。
「「ただいまーー!」ま···」
緒向の家の土間に、坊っちゃん刈りの兄弟(?)が食材を詰め込んだトートバッグを携えて帰って来た。
「ぉカエリー!すまにゃいね?ウルはお風呂入っとイで?エシュは手を洗って下準備を頼まぁね?」
「かしこまりました、マスター!」
「ばっちゃん!アンちゃん!シャワーお先ー!」
「ああ」
兄の方?エシュは弟?のウルにニコッと爽やかな笑顔を向けて台所に荷物を運ぶ。坊っちゃん刈りで全然決まっていなかったが······
その二分後。
「師匠ー!」
「こんちはーー!」
開けっ放しになっていた入り口から、藍罠兄妹が緒向の元へやって来た。
「ハッハ!いらっしゃい!遠いトコどーもね?ゆっくりしんしゃい!」
「んむぇー!師匠!私眠いー!」
磨瑠香が眠い目をしょぼしょぼさせながら緒向に懇願する。
「まぁマルったらお疲れサン!すっかり都会ッ子に戻っちゃって!あっちの部屋に布団が適当に敷いてあるから適当に横にナットイで?」
「アりマスあうーー···」
一礼し靴を脱ぎ、居間に這い登った磨瑠香は、そのままフラフラと奥の部屋に吸い込まれて行く。藍罠と緒向はニコニコと磨瑠香を見送った。磨瑠香の靴を揃えた藍罠は、緒向とあと二人分。男物の靴がある事に気が付いた。
「今茶ァ来るからね?」
「せんせー?道場から誰か手伝いに来てるッスか?」
「そんなもんだぃ!イイコ達だよ?」
「へぇ!それで···師匠···?」
何かを言いかける藍罠。緒向は磨瑠香が本当に眠かったのと、例の積もる話から席を外す為に理由を付けて居間から去ったらしい事を察する。だが、その時······
「いらっしゃい!···えーと、あれ?お一人···?」
台所の暖簾から客数を確認する為に顔を出すエシュ。藍罠は座ったまま声がした台所の入口に顔を向けて一瞬フリーズした。
「······?」···「!ーーーーー」
藍罠は鼻の穴にワサビを詰められたかのようなリアクションで一瞬にして立ち上がり驚いた。
「な!なんでオマエがコココにーーー!」
「え?!」
急に戦闘モードになった藍罠は、エシュの襟元をひっ掴み居間に引きずり出す。
「ヨッキッ!」
緒向の一声で藍罠の動きがピタッと止まる。エシュは完全無抵抗で目を閉じて黙っていたが、怯えつつも全く腰が引けていないのが警戒心を解く理由にならない。変な坊っちゃん刈りはともかくイケメンが怯えているので、藍罠に少々の罪悪感が湧いた。
「···あ、あの!オレなんか悪い事···?」
「!······せんせー!コイツ!前に言ってた!俺が徳盛でケンカした······」
「ヨッキ?わからんかぃ?このコ記憶が···」
「記···憶?」
「バッチャン!僕が使ってる布団で女の子が寝てて眠れないよーー?」
藍罠がエシュの襟元を掴む手を緩めようとしていると、奥の部屋への入り口に嘆き顔の少年が立っていた。髪型が変わっていたのでエシュ同様、藍罠は少年が誰であるのか理解するのに一瞬困った。
「宇留······!?」
エシュの襟元を掴む藍罠の手が勝手に解れる。そして友達のハズの磨瑠香の事を女の子呼ばわりする知り合い。須舞 宇留と思われる少年の出現に、藍罠は内臓を氷水でシメられる思いだった。
エシュは恐る恐る目を開けて様子を伺い。ウルはキョトンとしながら全員を見ている。
「おま···生きて···!」
「とりあえず落ち着いて!全員座りなぃ!」
宇留に歩み寄ろうとした藍罠を制した緒向は、全員をテーブルの前に集めた。
青年はエシュ。少年はウルと自己紹介があった。緒向の采配で、藍罠の激昂は人違いという事で仮の謝罪をしてその場は収まる。藍罠は、ウルが首からぶら下げている表面が曇った琥珀のペンダント、ロルトノクの琥珀をしっかり確認して、ウルが高い確率で宇留であると確信する。
あの琥珀の女の子も無事なのか···?
そしてやはりこの男は···?
ヒメナの事も知っている藍罠は、二人の状況を案じたが、今はただ黙っている事にした。
「うぬぅ···」
モヤモヤする藍罠をよそに、ウルとエシュは台所で音楽をかけながら仲良く焼き肉の下ごしらえをしている。
「ねぇアンちゃん、いじめられなかった?」
「ああ、大丈夫だ、心配するな?」
な!ア、アンちゃんだとぉぉ?!俺の方が先にお前の義兄ちゃん候補になったんだろうが!(冗談)。っていうか!どっちかっていうと宇留の方がアンバーニオンちゃんでしょーが!いじめどころか宿敵同士で何やってんだー!
俺達はあんなに全力で戦ったってのに······
嫉妬心とも失望とも心配ともつかない奇妙な感情が、藍罠の心の殻の内をカコンカコンと跳ね回る。
「ヨッキ!分かっとると思うけどね?」
「え!あ!はい!」
緒向の声が藍罠を現実に引き戻す。本人の混乱を避ける為、記憶喪失症状のある人間に質問責めはNG。藍罠はどこかで聞いたセオリーを思い出す。一番つらいのは本人なのだ。
「ふむ!何にも心配はいらん!ご飯支度が出来るまで外の空気スットイで?昔とあんま変わっちょらんけどね?」
「そ、そうします···」
藍罠はグラスに残った麦茶をグイッと飲み干し、土間のスノコの上に降りて靴を履く。
「しいの事は後でゆっくり話そう」
「!」
緒向は入り口の扉を開けた藍罠に声を掛ける。
「···押忍!」
藍罠は振り向かずに答えて外に出た。
風が強くなったのか、晴天に雲が速く流れている。
藍罠は近くの公園の東屋のテーブルに突っ伏していた。問題を過積載した荷台からボトボトと荷物が落ちて自分を押し潰すイメージ。そこへ田舎特有のセミの大合唱がトッピングされ解決策を考える為の集中力を奪う。
「あーあ」
数度目のため息。以前から彼の苦悩に寄り添ってきた幼馴染みの東屋だけが、藍罠の悩みを吸い込む···かと思われていた。
ザッ···
テーブルを挟んだ向かいの席に誰かが座った。セミの大合唱が止む。
「!」
驚いて顔を上げる藍罠。向かいの席に見知らぬ少年が座っていた。
少年ではあるが大人びた雰囲気、荒っぽそうなオーラを清潔感のある髪型の印象が中和している。
「勝負!」
少年はテーブルにドンと右肘を突き、微笑みながら藍罠に腕相撲勝負を挑んで来た。
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