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復活!琥珀の闘神!
神火の罪
しおりを挟むいつか。
どこか。
夜が明けたばかりの薄日に包まれた雲海。
触れた積乱雲の一角を削り、蒸発させながら縦横無尽に飛び回る炎の流星を、琥珀色の鳥人が猛追している。
琥珀の巨神、アンバーニオンの空戦形態であるアンバーニオン オドデンドは、炎の流星の横に並んで飛ぶ。
「止まれヴァエト!もういいんだ!アイツはお前が倒した!もう止まってくれ!」
ウオオオオオオオオオオオォ!
この時代のアンバーニオンの操珀。ムスアウが巨大な炎の流星に語り掛ける。炎の流星からは青年の雄叫びが轟いた。
ムスアウの後頭部にはオレンジ色に輝くフクロウが張り付いて顔面を翼で覆い隠し、宛らヘルメットの様相を呈している。
「王さん達にあのバカ連れて帰るって約束したんだよ!熱ぃのはいいとして!、アンバーニオンはゼレクトロンの馬鹿力だけには勝てねーんだ!お前が止めてくれ!」
ズパァ!!
「わが!」
ムスアウの説得虚しく、炎の流星は衝撃波を伴い加速してアンバーニオン オドデンドを振り切った。
「······ムスアウん!ああなってはもうん!神世の琥珀巨神、一度違えてしまってわん···!」
オレンジ色に輝くフクロウ、オドデンドが壮年男性の声で語った。
「!···」
「オドデンド?、ムスアウもわかっています」
「!······」
ムスアウの胸元に輝く琥珀のペンダント、ロルトノクの琥珀。
その琥珀の内部に漂う小人の少女。ヒメナが冷静にムスアウの感情をフォローする。
「ヒメナん!ぬぅ······」
三人が途方に暮れようとしていた時、ロルトノクの琥珀の表面が震え、男性の声が聞こえて来た。
〔ムスアウ殿、もういいのです!〕
「なっ!王さん!」
〔ゼレクトロンの炎が再び大地、今度は市中を、民の命を抉るかもしれない前に、人工操玉をこちらで自爆させて頂く!〕
「···諦めんなって!」
〔もう息子をこれ以上苦しませないでくれ!〕
「!」
〔娘達も、ヴァエトももうわかっている···。神世の業を人の手などで御そうとした我ら親子の傲慢と罪。どうか、どうかこの手で······!〕
石作りのビルのような城の屋上で、ムスアウに王と呼ばれた高貴な服装の男性が、アンバーニオンと通信する為の琥珀を口元から放し、その代わりに物々しいスイッチユニットを手に持った。その傍らでは男性の娘達である姉妹が踞り、兄であるヴァエトの運命を嘆いていた。
ウ!ゥオオオオオオオオオオオオォ!
「······く!馬鹿野郎ッ!」
空中で急停止するアンバーニオン オドデンド。ムスアウは悔しそうな顔で暴走する炎の流星、ゼレクトロンを見上げた。
何かを察したのか、ゼレクトロンはそのまま急上昇していく。時折軌道が曲がるのは正気を失ったヴァエトのコントロールに機体が抗っているからだろう。もはや操珀も機体も無い。完全な暴走状態だった。
ボグッ!
「!ーーー」
ゼレクトロンの喉元で鈍い音がした。
途端に体表の炎が消え、全身が金色に見えるまで赤熱化したゼレクトロンが姿を現した。
頭部と両肩部の角、筋骨隆々の三つ首カブトムシ巨人のような姿をしたゼレクトロンは、頭部を下にして落下を始める。その体表はみるみる乳白色の痂に覆われていった。
「······ヴァエト···」
(オドッっあん!交代しようぜ?)
「ぬん!アッカかん!?」
悲しみに包まれるアンバーニオン オドデンド内部の三人に渋い中年男の声、想文がテレパシーのように“着想„する。
近くの小道、ムスアウの仲間達である琥珀の鎧を纏った虎、アッカことソイガターと、清楚な印象の黒髪の女性、バジーク アライズが、浮かぶアンバーニオン オドデンドと落下していくゼレクトロンを見上げていた。
「······ムスアウ?あなたもゼレクトロンも悪くないわ?」
「···せめて近くの“泉„にでもゼレクトロンを眠らせてやろうぜ?ナ?ムスアウ···」
「······」
意気消沈しているムスアウの頭からオドデンドがバサバサと羽ばたいて離れ、ムスアウが無意識にかざした腕に止まる。
(ムスアウ······)
ヒメナはこの後すぐムスアウが前を向いて動き出すまで、労りの表情を向ける事しか出来ない自分を無力だと思っていた。
透明度の高い水中で、ヤマメがこっちを見ていた。
回想を終えたヒメナは、何故こんな時にゼレクトロンの事を強く考えていたのだろうと思った。
涼しい···
清流の水に直接触れる事は出来ないがそれでも十分に心地良い。加えて浮力を制御して無重力感を演出してみる。近頃のモヤモヤが洗い流されるようだった。水面の煌めきが自身を包む琥珀に反射して光が踊り、ヒメナの視界を癒す。
「もう大丈夫?冷たくない?」
少年の声と、引き上げられる予感。
ヒメナは琥珀の中で、珍しげに自分を見つめるヤマメに笑顔で手を振って別れを告げた。
木漏れ日揺れる美しい沢沿い。
ゆっくりと河の中から引き上げられたヒメナの入った琥珀のペンダント。ロルトノクの琥珀は、少年の手によって純白のタオルにくるまれ、優しく沢水が拭われる。
ヒメナは条件反射に目を閉じて、髪を拭かれる子供のような仕草をとってしまう。
「これでよしっと!」
······
少年の顔を見たヒメナは現実に引き戻される。顔立ちはいつも通り整っていてかわいい位なのに、この坊っちゃん刈りがちょっとイマイチだ。
前の髪型の方が好きだったのに。
現在。
巻沢市、良夢村。
「じゃあ!アンちゃんの所に戻ろね?」
少年はロルトノクの琥珀を丁寧に首に掛ける。
······
“今„は少年にヒメナの言葉が通じない。
ヒメナは微笑んで口を動かし頷くだけだった。ジェスチャーでしか少年とコミュニケーションを取れないヒメナだったが、それで充分だった。長い間でも無い期間ではあるが、息ピッタリに歩んで来れた間柄だと自負している。
それはヒメナにとって、ムスアウ以来の······
「ジガ!」
少年が物置のような小屋の入り口で叫ぶ。
ヒメナは慌てて琥珀の表面を曇らせ、自身の姿を隠す。
「キューコ!」
小屋の中からクールな青年の声で合言葉が返って来る。扉が開き、坊っちゃん狩りにワイシャツとジーンズのイケメンが少年を出迎える。何故か小屋の中は冷房が効いているかのように涼しい。(エアコンは設置されていない)
「ただいま!アンちゃん!」
「ここはウチじゃないがな?フフ···」
少年は当然のように椅子に腰掛け、青年は読みかけで伏せ置きにしていた小説に栞を挟み直してテーブルの隅に置いた。
「アンちゃん!今日お客さんが来るからご馳走だってバッチャンが言ってたよ?」
青年の目が少年の方をギラッと向き、瞳が煌めく。
「そうか!それは楽しみだな!」
「エ?エヘヘヘ!」
「フ?フハハハハハ!」
談笑する兄弟らしき少年と青年。
ハァ···············
その光景に呆れたヒメナは、かなり久しぶりに大きなため息をついたような気がしていたのだった。
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