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復活!琥珀の闘神!
接し触れる
しおりを挟む2100年 7月2日 (金)
奪い返した重拳を載せた鬼磯目は、何処かの入り江に入港した。うえぇ···
マーちゃんに入り江の場所を聞いたものの、守秘義務と返され結局分からずじまいだった。まぁお互い最終局面省のアルバイト同士、事務的な対応だから別にいいんだけど。
氷結島事件から約一か月と少し。重拳隊は脱柵者に主力である重拳を奪われ、重深隊はおにかますと鬼磯目の姉妹艦を中破、両隊とも調査の為に事実上の活動停止、解散状態に追い込まれている。アナザーサニアン(ガルンなんとか)、アンバーニオンもパイロットの宇留達と共に消息を絶ったままだ。
アノ帝国の新兵器がぼちぼちと世界各地で猛威を振るい始めた中、色々細かい鬱憤が重なっていた国防隊内では、もう再三も再三イヤになった裏切り者狩りの疑心暗鬼嵐が巻き起こっていた。
「筋トレしか出来ないばっかりじゃ飽きるだろう?」
そんな時に声を掛けてくれたのが最終局面省の共上さんだった。
重拳が見つかった。協力してほしい···と。
茂坂さん···隊長にはそんな非公式のお仕事など!と止められた。もしもこの奪還作戦で、オマエの前に相棒“だった„椎山が現れたら戦えるのか?、と問われた。
そうなる事も、追えない事もつらい、そう言って俺はなんの解決策も無く、仲間達に背を向けてしまった。
そんな事が出来たのは、隊長が必要以上何も言わない=ワケアリの法則に則ったからだった。
上にも“何か„考えがあるようだ。と勝手に察しつつ自由に動ける事に感謝する。
自分は意外と実力者になびくタイプだったのか?と、後になって少々腹も立ったが、今は背に腹は変えていられない。
奪還作戦を終えた俺は作戦開始前と同じく、無線ヘッドホンと目隠しをされて車に乗せられた。
車に乗る前、隠し車道の脇から最後に見えたのは白い灯台の先端。そして二時間強程で新幹線駅に降ろされる。I県の新幹線駅だった。
I県は全都道府県中全国二位という規模の面積を誇る。最端から最端まで安全運転で走れば、必然的に一時間単位の移動時間がかかる。鬼磯目が入ったドッグもI県付近という事か?
指定のビジホを探す前に、駅前の牛丼屋で遅い昼食を済ませ、コインパーキングに停めっぱなしのレンタカーを預かったカギで解錠して確認する。その段階で共上さんから出た次の指示に俺は驚いた。
巻沢市、良夢村の緒向トウネ氏に接触する事。
巻沢市は、俺が所属している国防隊のI県駐屯地のある街。そして緒向師匠は、十年前に両親を失ったばかりの俺達兄妹にに空手だけでは無く、色々な事を教えてくれた恩人だった。
多分脱走してる位に思われていそうな巻沢でコソコソするという事。
俺の中に灯台下暗し的なイタズラ心が少し溢れたものの、そんな自分を簡単にスルーする程仲間達は無能じゃ無いと考え直す。
師匠に会うに当たって、妹の磨瑠香もT都から来て貰う事にした。
俺達兄妹と同じく師匠の教え子だった椎さんの相談もしたかったのと、磨瑠香の友達だった宇留の事も相談させてやりたかったからだ。伯母さんの話によると、最近良く眠れていないらしい。学校の空手部首脳陣も師匠を知っているらしく、名前を出したら即休みOKが出たので週末を利用して磨瑠香をこっちに呼ぶ事が出来た。
翌日。始発に乗ってやって来た磨瑠香は、かなり眠そうだった。
「おはよぅーおニィ」
小さいロボットキャリーバッグを引き連れて現れた磨瑠香の表情は、脱ぎ捨てられたワイシャツのようにクシャクシャで、せっかくの母さん似の美人さんが台無しだった。身長はそれほど高くないのに足が以前より長くなっているような気がする。この年代の子は、ちょっと見ない間に成長が早いなぁとしみじみ思う。勿論一般論で。
そんなこんなで磨瑠香と良夢村に向かってるんだけど···ん?あのカップルの彼女さん具合悪いのかな?じゃあモノローグはこの辺にして、お堅い仕事で熟成されつつある老婆心でも発揮しますかー!
「大丈夫ですか?」
車通りの少ない巻沢市の市道。藍罠は車を停車させ、対向車線の歩道のフェンスにもたれ掛かる女性を気に掛ける男性に尋ねた。
気温が一秒毎に上がっているような気がする初夏の朝。カップルの女性は熱中症だろうか?具合が悪そうなのが女性という事もあって、藍罠は助手席の妹、磨瑠香の助けも借りようと思ったが、目配せした先の彼女はクーラーの効いた助手席で爆睡中だった。
「あぁ!わざわざすいません!昨夜遅くまで旅···いや!出発の準備をしていたものですから!拠点の民宿が目と鼻の先ですので、今日は戻る事にした所なんですよ?」
女性の恋人らしき男性がはっきりしっかりした声で丁寧に藍罠に礼を言った。
「(良い声だな?客商売のヒトかな?)そうだったんですか!失礼しました!暑いのでどうか気を付けて···」
「あぁ!ありがとうございます!さ!ゆっちゃん!」
「ぅぅ、ありがと、ふーさん」
女性も軽く会釈を藍罠に返し、男性と寄り添って数十メートル前の民宿まで戻って行った。
「ごめんね···るぅ···」
「弟くんはきっと大丈夫だよ?がんばれおねぇちゃん!」
藍罠から離れた二人は、それだけ会話をして民宿に入って行った。
「······ふぅ!よかった!」
暑さよりもお節介の気恥ずかしさで少々汗ばんだ藍罠が涼しい車内に戻った。車を出す前に藍罠は財布を漁り、名刺を確認する。
「名刺ケースと新しい束は入り江の荷物に忘れてきちゃったしか?」
藍罠は仕方無く緒向に渡す名刺の質を妥協せざるを得なかった。
気が付くと助手席の磨瑠香が後ろを振り返りカップルを見ていた。
「ワリィ!起こしちまったか?なんともなかったよ」
「···あの彼女さん、どっかで···」
「ん?」
「まぁいっか!」
五秒後、向き直った磨瑠香は再び爆睡を再開した。
巻沢市、良夢村。
小さな川沿いにある森を、スッと突き抜けている狭い道路。
斜めに倒れた枯れ木が他の立木に寄り掛かり、中途半端に道路を塞いでいる。
車が通れそうで通れなさそう、でも車高の低い車なら通れそうな気もするけどちょっとぶつかりそうかも?。放っておいても折れて落ちそうな気もするけどタイミング悪く下に落ちたら危ないし、ちょっとうごかせば落ちそうな気もするし、行政に頼むのも大袈裟な気もするし···とその場に集まった数名の老人達が悩んでいると、いつの間にか長いロープが枯れた倒木に絡んでいた。
「それ!みんなで引っ張っぺぇ!」
「「「!、ぇーい!」」」
ロープの端を持ったリーダーっぽい男性の提案で、枯れ木から充分長く伸びたロープを張った老人達は、枯れ木が下まで落ち込みそうな方向に向かってロープを引こうとした。
「道路車来ねぇな?行ぐぞ!」
「おょーい!」
「せっーーぇの!」
老人達は渾身の力を込めてロープを引く。
「はぃ!おじいさんが引っ張って!おじいさんが引っ張って!おじーさんが引っ張って!オジ···さんが引っ張って!おじィ!····」
枯れ木は少ししか動かない。全員がヘラヘラと笑ってロープを緩ませてしまう。
「おじいさんしか居ネェー!」
「www!だァー!笑わせんなじゃ!ただでさえ無ぇ力がますます入ンネーじゃあ!」
「ソレデモカヴハヌケマセンwww!」
「カブじゃ無ー!木ィだっつの!」
「んお!若ぇのが来たぞォーー!」
老人達の注目の先に、坊っちゃん刈りに顔立ちの整った不思議な雰囲気の青年が通り掛かった。その手には読みかけであろうくたびれたカバーのジュブナイル小説、~青空ゃじけなばれ出けかる意味ながい~、が軽く握られていた。
あれ?
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