神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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復活!琥珀の闘神!

 奪 還

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〔エタランテス製鋼。ここは五十年前に閉鎖され、二十年前まではテーマパークだった〕

 闇夜に包まれた何処かの島。
 いかめしい鉱山遺構の残る廃墟の隙間を、武装した特殊部隊の隊員達が縫うように隠れて進んで行く。
 彼らの戦闘服の背には、FPSFと薄黄色い文字で描かれている。

〔二十年前?例の津波ですか?〕
〔ああ、少し浸水してからの閉鎖しっぱなしで今に至る、元レアメタルの鉱脈付けの加工場だったそうだ〕
〔そんな昔から?それが今は奴らのアジトって訳すか?···でも本当にこんなトコに重拳じゅうけんが···?、あ!〕
〔な?あっただろ?〕
〔ふぅ···サンキューです共上きょうがみさん!で、こんな時にナンデスけど、俺達本当に今日が初対面ナンデスよね?〕
〔そ、そ、そうだけ···ど?〕

「···わかりました!行って来ます!」

 通信を終え、暗視ゴーグルを装着したFPSFの隊服の隊員は、施設内の大扉の隙間から再び内部を覗き込む。
 隊員の探し物。国防隊の特殊事象対応分隊、重拳隊が誇った巨大なロボットアームを積載した特殊車両、十一式多目的マニュピレータークレーン改 重拳四号機がそこにあった。
 「ん?おまけ付き?」
 重拳の周囲には、歩哨の戦闘員三人が彷徨うろついている。
 キュピピ!!
 隊員の懐の端末が、か細い通知音を鳴らした。するとすぐに重拳の運転席のドアが、ひとりでにガパッと開く。
「!、行くかっ!」
 何事か?と扉に集まる戦闘員達。その背後に向かって様子を窺っていた隊員。藍罠あいわな ヨキトは駆け出した。






 太陽の表面。

 光凪ぐ広大な平原の中央に、漆黒の超巨大樹がそびえ立っている。
 その幹に垂れすがる二つの巨大な樹液の雫を、一人の美青年が見上げていた。
「·····」
 すると地鳴りのような太陽風の音が一瞬乱れる音がして青年は振り返った。
 樹高一万メートルを超える太陽の樹の少し上の膜のようなものを通り越し、ツツジ色の巨人が光の平原に降りて来た。
〔あァ全く!毎度生きた心地シナイワ!〕
 滑舌の悪い女性の声で喋った巨人は、ライオンか狼のような肉食獣を思わせる仮面にオレンジ色のマフラーを首に巻き、忍者のような出で立ちをしていた。
「遠いトコ何回も悪ぃね?スフィさん、キョーさんは?」
〔今日辺りは多分仕事!、?、それもってけバいいの?〕
 ライオン忍者の巨人、ロウズレオウは、足下に立つ青年、ムスアウに問い合せた。
 ムスアウの近くには二メートル程の楕円形の琥珀が二つ並べられている。琥珀のカプセルは一見ひつぎのような印象だが、仄かに脈動する光を放ち生命力を感じさせる。内部にはそれぞれ一人づつ誰かが横たわっているようだ。
 ムスアウはそのうち一つの琥珀のカプセルの側にしゃがみ込み、優しげに声をかける。
「じゃあよろしくな?最後まで?」

 シパパッ!

 ムスアウの声に応えるように、巨大な樹液の雫の内部で雷光がスパークしたように見えた。








    神樹のアンバーニオン 3


    









    絢爛! 思いの丈!


 


「やっぱりインテリアイジられてるし!」
 一分にも満たない間に、歩哨の戦闘員三名は床に倒れ気を失っていた。
 藍罠は、重拳の運転席ダッシュボードの足下付近にある二十センチ角のカバーを外して内部のポート類を確認する。開けるには専用の道具とコツが要ったが訓練通り上手く外せた。そこにはUSBポートを始め、新旧十種類程のアクセスポートが揃っていた。足敷マットの上に置いた携帯ライトの光が、大小様々なものからほとんど剥き出しの端子のようなものまでのラインナップを適度に照らし出す。
「うわ!俺ココ初めて開けたけどふるっ!さすが!九十年来のプロジェクトマシンだぜ!」
 キュー!ピピン! 先程重拳のドアを勝手に開けた時のように、再び藍罠の端末がアラームを鳴らす。藍罠は端末をポケットから取り出した。
「わかってるって!急ぐ急ぐ!」
 この時代ではとっくに旧式になった藍罠の端末には、同じく旧式のUSBメモリが刺さっていた。
 そのUSBメモリを引っ掛けている小さなカラビナには、ボールチェーンで繋がれた二枚のドッグタグがぶら下がっている。藍罠はメモリを端末から抜こうと手を添え、一呼吸置く。端末から聞こえるジジジという音が一際耳に残った。
「頼むぜ、パンチくん!」
 藍罠はメモリを抜き取り、重拳のUSBポートの合いそうな場所に差し込む。
 ファ···
 重拳は一瞬クラクションを鳴らしかけ、ヘッドライトも一瞬明滅させる。セキュリティアラームは解除され、続けて内部の機械からゴソゴソと音がし始めた。勝手にオンになったメーターディスプレイには支離滅裂な画像が乱立し、KOという画像が表示されたのち、やがて再起動という画像に切り替わった。

「現AI制圧完了!」

 ズヒュルル···グヴォォン!

 不満そうな音を立て始動する重拳のエンジン。
「どうだ?久しぶりだろ?っとお!次々···」
 藍罠はサイドバッグからスポンジパックを取り出し、更にその中から小瓶を取り出した。小瓶の蓋部分を無理矢理割り取り、その中身をダッシュボードの上にそのままばら撒く。
 パラパラと散らばったのは琥珀のようなクリアオレンジの破片。破片は急速に液化し、流れる水銀のようにダッシュボードの隙間に滑り込んでいった。
「よしゃ!」
 それを見届けた藍罠は簡単に運転席周りを片付け、助手席側のドアに外から移動し、直操ちょくそうと呼ばれる重拳の腕部コントロールルームに乗り込む。
「いいぜ!行ってくれ!」
 扉を閉め、直操内部でロボットアームを操る為の装備を整えながら指示を出す藍罠。重拳にインストールされたAI、パンチくんは、藍罠の言葉通りにエンジンの回転数を上げ、ヘッドライトを点灯した。


 ベギャン!

 重拳は外に出る為に容赦なく正面の大扉を殴り破った。広い通路を目一杯に使い左折し終わると、工場内の照明が警報と共に一斉点灯する。
 物陰から武装した戦闘員が次々と現れ、重拳に向かって小銃を乱射するも、重拳の装甲は銃弾をペチペチと簡単に跳ね返す。
「オイデナスっとお!」
 次の大扉に向かって重拳が加速しようとした時、明らかに無人の改造車が二台、脇から現れ突撃して来た。
「ー自爆?」    ·!!
  バキュタタタ!
 重拳のフロントグリルに増設されたガトリングガンが火を吹き、蜂の巣にされた改造車は大爆発した。
「あーあ!勝手にこんなもん付けられちゃって!」
 爆炎を突っ切って前進する重拳が次の大扉を破ろうとアームを振りかぶる。
「!」
 炎でオレンジ色に染まる大扉の上にある通路に、コートの男が立っていた。男は欄干に掲げられた、安と全と 第と一と描かれた四枚のプレートの中央で止まって重拳を見下ろす。空気を読んで停車する重拳、藍罠はよく知るその人物を、馴染みの無い違う名前で呼ぶ。
「ゴーザン······!」
 二人は一瞬睨み合っていたが、パンチくんの警報アラームが藍罠をハッとさせた。
 直操のディスプレイに割り込んで来たバックモニターには、大袈裟なボディアーマーを着込んだ身長二メートル以上の奇妙な大男が、重拳にくくり付けたワイヤーを手繰たぐり寄せようとしている所が映っている。直後、藍罠のシートにそこはかとない浮遊感が訪れる。
「マジか!なんだあいつ!」
 大男は少しずつではあるが、車体後部の牽引フックに取り付けたワイヤーで重拳を引きずっていた。それに伴い、大男の軸足を支える通路の鉄板がメコリとひしゃげる。
 そしてゴーザンはなんの躊躇ためらいも無く、手榴弾の安全ピンを外して重拳の先頭車ヘッド、運転席付近に向かって放り投げた。

 ·アイワナ!直上!グレネード!
「ぬっ!」
 直操に響いたパンチくんの言葉で一気に作動した重拳のロボットアームの平手打ちが手榴弾を受け止め、振り回された指先から離れた手榴弾は後方の大男の目前まで飛ぶ。
 ドグォウゥンッ!!
 大男は頭を腕でガードし爆発を凌いだ。ワイヤーを手放し片膝こそ着いたが、その場から一歩も動く事は無かった。
 重拳は振り回した拳を握りしめながら前進し、そのままの遠心力を利用して大扉に殴り込む。
 大扉の鉄板は、厚紙か何かのように呆気なく弾け飛び、衝撃で通路のゴーザンが少々よろけた。
「くっ!」
〔···ゴォーザンッ!〕
 重拳のスピーカーから藍罠の声が響く。
〔ゴーザン!まだ方法はわかんねーけど!しいさんは必ず取り戻す!待っててくれ!椎さん!〕
 ヴワァァァン!
 重拳はクラクションを鳴らして、工場を出て行った。
 重い足音を立てて小走りに重拳を追跡しようとした大男は、頭を片手で抱えうずくまるゴーザンに気付き足を止める。
「!、ゴーザン!大丈夫ですか?」
「ぐ!···大丈夫だ!フフ、悔しいだろイサク···ぬ!」

 そんなゴーザンを再び頭痛が襲った。



 工場の外部では、帝国の戦闘員達と、FPSFこと最終局面省特務隊の銃撃戦が繰り広げられていた。
 やがてその場に、狭い道路をもがくように轟音を上げて走る重拳が走り込んで来た。そして銃撃のどさくさを見計らったかのように、ピンク色の照明弾が海上に上がる。
「バカめ!輸送船も無しにどうやって島から走って出ようってんだ!?うわッ!」
 重拳を嘲笑あざわらう戦闘員を守る壁を、特務隊の弾丸がチュチュン!と叩く。
 重拳は車体下部の姿勢制御用の装置の一つ、瞬間舷外浮材モーメントアウトリガーで路面を叩き、一・五メートル程のボロボロの防潮堤を飛び越え砂浜に着地した。
「オラーァーーー!」
 重拳はタイヤを砂で滑らせながら、照明弾の上がった海上に向かって突っ込んで行く。
 海に入った瞬間、波打ち際で車体下部の着地用ブースターが全開になったかと思うと、意外にも沈まずに勢いを保ったまま沖に向かって進んで行く。
「イケイケ行け!沈むなー!」
 それを見た特務隊の隊員達は頭上で跳弾が弾けているにも関わらず、重拳が沈みませんようにと応援する。だがそんな彼らと藍罠の願いも虚しく、さすがの重拳も沈み始める。
「しっかりしろ重拳!気合いだーー!」
 ブースター噴射もう無理のアラームと、浸水警報のアラートが同時に鳴っている直操に、ガタンという衝撃が走る。
「お!おおお!間に合った!」

 ゆっくりと海上に浮かび始める重拳。そして重拳のタイヤ下に巨大な運搬キャリアが姿を現す。そしてそのキャリアを運ぶ巨大な潜水艦が藍罠に“声を掛ける„。

 ·お待たせ様でした!藍罠さん!

 無人AI多節潜水艦、鬼磯目 海上輸送キャリア装備が浮上し、キャリアの両サイドに備わったホールドクローがガチンと重拳を固定すると、沖合いに向かって加速した。
 藍罠は重拳の直操の窓を開けて身を乗り出し、キャリアのすぐ前方にある鬼磯目の艦橋に向かって声を掛ける。
「サンキューマーちゃん!助かったぜ!」
 チュ!ギュオィーーン!グッ!
 パンチくんはロボットアームを操り、いいね!とばかりに親指を立てた。
 ·エヘヘ!ありがとーございます!マーチャンですか?カワイーですね?
 鬼磯目を操るAI、マーティアは潜望鏡を藍罠に向ける。
「妹がまだちっちゃかった頃のお下がりの呼び名だけどね?」
 ·おお!それは光栄であります!
 夜明け前の薄闇の中で微笑む藍罠の横顔を、パッと朝日が照らした。目を細め太陽の方向を向く藍罠。何故か藍罠の脳裏に、もう一人の探し人の面影が浮かぶ。
「宇留······?」

 重拳を奪還した藍罠達は予定通り、共上の指定したポイントに向かって帰投した。
 島の工場を制圧したFPSFだったが、ゴーザンこと椎山しいやま 伊佐久いさくと、藍罠が遭遇した大男は発見出来なかったという。














 
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