俺はファンタジーに憧れる

朝雨

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「よし、水脈の洞窟に向かおう」

キリ水脈の洞窟はヤルダ村の北西に位置する、岩場の多い山の中腹にある。
ゲーム上ではポイントを選ぶだけなので、10秒もあれば移動できたのだが、当然ながら実体験ではそうはいかない。

というわけで身支度を整えて宿からギルドへ移動だ。
レナの話では、キリ水脈方面への乗合馬車を用意してくれるらしい。


「あっ!おはようございますアスマさん!」
「おはようレナ!」
「すごい!装備もしっかり整ってます!鉄の胸当て・アームカバー・レッグカバーに、耐久性抜群の革素材パンツとブーツ、いいなーその麻のシャツ着心地良いですよね!」
「おお、見ただけで全部言い当てられた」
「私がどれだけの冒険者さんを見送ってると思ってるんですかー。依頼やダンジョン、季節にあったオススメ装備もありますから気軽に聞いてくださいね!でもアスマさんの選択、バッチリです!」
「はは、ありがとう」

まあ、レナのオススメ装備はサンレジェをプレイする中で何度も提案されてきたものだからな、しっかり覚えている。
おかげで昨日はスムーズに装備を買い揃えられた。
鎧や剣なんて実際持ったらクソ重いんだろうなあと覚悟していたが、身につけてみるとほとんど重さを感じない。さすがゲームの世界だ。

「はい、じゃあそんなアスマさんに、本日の配給でーす!」

そう言ってレナが出してくれたのは、鮮やかな水色の液体が入った小瓶だった。

「王国からの配給品、本日は生命力回復ポーション30本セットです!長期の探索に役立つこと間違い無しですね!」
「助かるよ!」

よし、2日目のログボだな。ゲーム中では生命力が回復できたが、実際に飲むとどうなるんだろう?
とりあえず5本ほど持って行くことにした。

午前9時。俺はギルドが手配してくれた乗合馬車に飛び乗って、他の冒険者たちとともに移動を開始した。
馬2頭で引っ張る馬車は、元いた世界の軽トラ程度の大きさで、今回は…先客が6人が乗っている。
ずいぶんと大柄で筋肉質な男もいれば、真っ白なローブをフードからすっぽりかぶって顔もわからない魔導士らしきヤツもいるなど、みんなクセが強そうだ。

レナが心配そうな顔をして見送ってくれたが、にこやかに手を振っておいた。
何せゲームオーバーが無いのだから、死にはしないだろう。もちろん痛い、苦しい拷問みたいなのは勘弁してほしいが。

キリ水脈の洞窟はヤルダ村から馬車で1時間程度で着くらしい。村の生活用水として利用されている名もなき川の源流に当たるので、定期的に調査を入れて安定性を担保しているというわけだ。
水質がどうとかは俺にはわからないが、水の流れが多い少ないくらいは見てわかるからな。

クリア条件は状況の確認だけで、モンスターとのバトルは必須ではない。
たしかクリア条件の到達地点までショートカットとも言うべき裏道が設定されていたはずだ。
えーと、ダンジョンの道筋はどうだったっけ…。

「ずいぶんと貧弱な装備だな」
「は?」

不意に話しかけられた気がして、咄嗟に声が出た。
見ると、馬車に乗る時は気付かなかった優男が声を発したようだった。今の俺と同じような黒髪に、キレ長の瞳。ものすごく美形だ…しかし、こちらを見ていない。
そもそも俺に話しかけたわけではないようだ。
その視線の先には、栗色のおさげに眼鏡、若草色のローブを纏った、伏し目がちの女の子がいた。
優男からの視線に、あからさまに戸惑っている。

「え、あの、これは…」

あわあわと両手を振りながら、何か言いたそうだが言葉が出てこない。
そんな様子にお構いなく、優男は言葉を続けた。

「その装備、村でも格安の下位製品ばかりだ。この馬車が向かう先のダンジョンのどれも、君の身につけている装備では太刀打ちできない。考え直せ」

ずいぶんと歯に衣着せぬ物言いだ。

「あ、あの、私の家、お金がなくて…。こんな時に、お父さんも体を壊しちゃったんです。私、たまたま魔法の素養はあるみたいだから、とにかく早くお仕事したくて、だから冒険者で、ダンジョンに高ランクでも…」
「まあまあ、落ち着いて」

思わず話しかけてしまった。女の子の戸惑いの目が今度はこちらに向く。軽く笑顔を見せて安心させてやる。少々ぎこちないのは許してくれ。
そのまま黒髪の青年の方に向き直る。

「なあ、突然そんな言い方はないんじゃないか?彼女は頑張ろうとしてるじゃないか」
「貴方は誰だ」
「あ、俺? アスマ・レガンス」
「英雄アスマ、実在したのか」
「え、あ、いやー…たまたま同姓同名なだけだよ」
「そうか。ボクはフェイロンだ。初めまして」
「あ、うん、初めまして」

フェイロンにつられてお辞儀する。なんか調子狂うな。

「で、彼女への物言いについてなんだけど。あんなケンカ売るようなこと言わなくてもいいんじゃないの」

そう告げると、フェイロンは特に表情を変えることなく答えた。

「この馬車が向かうダンジョンは難易度にバラつきがあるが、棲息する魔物の強さを考えると、最低でも金属加工の装備品がないと太刀打ちできない。彼女の装備では無謀だ。警告はできるうちにしておきたい」
「へえ、詳しいんだね。てか、警告のつもりだったのかよ…」
「考え直せと言った」
「親切心だってことはわかったけど、もう少し言い方を変えた方がしっかり伝わるぜ」
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