俺はファンタジーに憧れる

朝雨

文字の大きさ
上 下
4 / 6

4

しおりを挟む
「さっきはごめんなさいアスマさん。シグロさん、いつも乱暴で…。今日は特に酷かったですけど」
「大丈夫。気にしてないよ」

俺はカウンターに戻ったレナと話をしていた。
レナは申し訳なさそうにしているが、俺は本当に気にしていない。
サンレジェのゲームスタート時、ああいう横暴なキャラに絡まれるイベントがあったことを思い出したからだ。
その後のストーリーに絡んできた記憶もないので、本当にモブなのだろう。

というわけで、あんなのに構っている暇はない。
それよりも自分のクラス・トーカーの能力を早く確かめたい。
スタートの準備はできたのだ、早速話を進めていこう。

「じゃあクエストを受けたいんだけど」
「あ、はい!今来てるクエストはこれだけです」

そう言ってレナはクエストのリストを見せてくれた。

難易度E 大樹キリカンザスの枝葉採取
難易度B キリ水脈の洞窟探索
難易度D ガランダ銀山探索

「ガランダ銀山は、シグロってやつが向かう場所か」
「そうですね。シグロさんはクラスがディガーなので、鉱石の採取が主なお仕事です。いくつかクエストを達成してくれたので、エースディガーにスキルアップされました!」

当然の結果だな。最初はクラスの能力を活かして難易度の低いクエストを達成していくのが定石だ。

しかし、それでは成長に時間がかかりすぎる。
ゲームをプレイする時間と、こうやってリアルに動く時間はまるで違うものだが、いずれにしても俺はさっさとトッププレイヤーに戻ることが目的だ。

「おすすめは、やっぱりキリカンザスの枝葉採取からですね。この村から歩いて1時間くらいのところに群生地域があって…」
「いや、洞窟だ」
「え?」

俺の一言に、レナがすぐさま聞き返してくる。

「洞窟って、キリ水脈の洞窟探索ですか!? 無茶ですよ、難易度B認定されてます! 生息してるモンスターも多いし、奥にはボスクラスのモンスターが潜んでるって噂もあるくらいですよ!」
「ああ、知ってるよ」

クリアするまで多少時間がかかった場所だからな。よく覚えてる。

「でも、俺にこのクエストを受けさせてくれ。必ず良い結果を持って帰ってくるよ」
「そりゃあ、ギルド側に止める権利はないですけど…」
「そんなに心配しないでよ。俺はなるべく早く結果を出して一流の冒険者になりたいんだ。それに、難易度が高いダンジョンの方が俺のトーカーってクラスがどこまでいけるのか判断できるだろ?」
「ううん…今日登録されたばかりの冒険者に、これはさすがに…」
「大丈夫だって。資金もたくさんもらったし、しっかり準備してから行くよ」


暗い顔をしたままのレナを押し切る形で契約書にサインした俺は、ログボとしてもらった資金の一部を握って(幸いギルドで預かってくれるらしい)村の中をまわり、今夜の宿と食料、それから武器や防具一式を用意した。

「ふう…」

日が傾いたころ、俺は宿の部屋で一息ついていた。
時間が目まぐるしく過ぎていったので、ようやく状況の整理ができる。

買ってきた(何かの)干し肉とキャベツらしき野菜のサンドイッチを頬張りながら、俺はここまでの展開を振り返ることにした。

まず、ここはサンレジェの中、ということで間違いないだろう。
まさか車にはねられてゲームの中に来ることになるなんて。
あっちの世界では今頃、俺の死体が回収されて、会社や両親に連絡が行き、葬式の段取りが始まっているかもしれない。
というか、そもそも俺は死んだのだろうか?
実際に何が起こってるのか、理解の範疇を超えている。

「まあ、そんなことを考えてもしょうがないよな」

俺はサンドイッチを飲み込んでから呟いた。
あんなに退屈だったとはいえ、生活も仕事も、多少の人間関係も、どうしても気になる、未練があるものがいくつかある。
だが、考えても仕方ない。
こんな非現実的なことが起こっている以上、元に戻るなんて希望は抱かない方がいい。
そもそも戻りたいとかあんまり思ってないし。

「よし、とりあえずはさよならだ現世」

あ、どうかスマホの検索履歴は見られませんように。


では、ここからの活動を考えよう。
クエスト依頼を受けたキリ水脈の洞窟は、実は難易度に対して範囲が狭く、クリアがしやすい場所だ。
たしか、水脈の源流を調査して水の流れが3箇所に分かれていることを確認すればクエストクリアだったはずだ。

クリアすれば一気に経験値を稼げる。
さっさとステータスを伸ばして、クラスチェンジを進めよう。

まあ、トーカーってクラスが何ができるのか、単純に興味はあるけど。
それは動いてからのお楽しみだな。

ふぅーともう一度大きく息を吐いて、俺はベッドに倒れ込むと、そのまま眠ってしまった。



「助けてください、どうか、この世界ために…力を貸してください、英雄様…」

どこかで聞いた声がした。

どこで。

ああ、そうか。車にはねられる前に聞いた声だ。

「誰なんだよ、あなたは。俺が力を貸すって、どういうことなんだ?」

真っ暗闇の中、俺の声が反響し、そのまま消えていく。

「助けてください、どうか…」

女の声は変わらず、同じ言葉を届けてくる。

「どうすればいいんだ? あなたが俺をサンレジェの世界に呼んだのか?」

「助けてください、どうか…神を、止めて…」

「神…?」



はっ、と目を開けると、宿の天井が目に入った。
窓の外は薄らと明るい。
これは…どうやら、夕方から翌朝まで眠ってしまったようだ。

時計の針は6時半を指していた。
昼寝と合わせて何時間寝たんだ…まあ、スマホも何も無いので、過ごし方としてはちょうど良かったのだが。

身体を起こすと、とても軽い。
そして盛大に腹が鳴った。

「体感としては、飯食ったばっかりなんだけど…」

減ったものは仕方がない。
俺は身支度を整え、再び食料に手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

ゲームの中に転生したのに、森に捨てられてしまいました

竹桜
ファンタジー
 いつもと変わらない日常を過ごしていたが、通り魔に刺され、異世界に転生したのだ。  だが、転生したのはゲームの主人公ではなく、ゲームの舞台となる隣国の伯爵家の長男だった。  そのことを前向きに考えていたが、森に捨てられてしまったのだ。  これは異世界に転生した主人公が生きるために成長する物語だ。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

無法の街-アストルムクロニカ-(挿し絵有り)

くまのこ
ファンタジー
かつて高度な魔法文明を誇り、その力で世界全てを手中に収めようとした「アルカナム魔導帝国」。 だが、ある時、一夜にして帝都は壊滅し、支配者を失った帝国の栄華は突然の終焉を迎えた。 瓦礫の山と化した帝都跡は長らく忌み地の如く放置されていた。 しかし、近年になって、帝都跡から発掘される、現代では再現不可能と言われる高度な魔法技術を用いた「魔導絡繰り」が、高値で取引されるようになっている。 物によっては黄金よりも価値があると言われる「魔導絡繰り」を求める者たちが、帝都跡周辺に集まり、やがて、そこには「街」が生まれた。 どの国の支配も受けない「街」は自由ではあったが、人々を守る「法」もまた存在しない「無法の街」でもあった。 そんな「無法の街」に降り立った一人の世間知らずな少年は、当然の如く有り金を毟られ空腹を抱えていた。 そこに現れた不思議な男女の助けを得て、彼は「無法の街」で生き抜く力を磨いていく。 ※「アストルムクロニカ-箱庭幻想譚-」の数世代後の時代を舞台にしています※ ※サブタイトルに「◆」が付いているものは、主人公以外のキャラクター視点のエピソードです※ ※この物語の舞台になっている惑星は、重力や大気の組成、気候条件、太陽にあたる恒星の周囲を公転しているとか月にあたる衛星があるなど、諸々が地球とほぼ同じと考えていただいて問題ありません。また、人間以外に生息している動植物なども、特に記載がない限り、地球上にいるものと同じだと思ってください※ ※固有名詞や人名などは、現代日本でも分かりやすいように翻訳したものもありますので御了承ください※ ※詳細なバトル描写などが出てくる可能性がある為、保険としてR-15設定しました※ ※あくまで御伽話です※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様でも掲載しています※

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...