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4 その少女、酔っ払う

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「リッド、それはどういうこと…?」
突然の誘いに少々身構える。ここまで優しくしてくれて、夜中に酷い目に…という想像は頭の片隅に置いているけれど、しばらく住めとはどういうことなのだろう。
リッドは向かいの席に腰掛け話を続ける。
「いや、深い意味はないよ。大公の屋敷はもちろん、公爵家に戻るのも難しいんじゃないかと思ってさ」
「ええ、それはその通りよ」
「だったらこの屋敷を生活に使えばいい。大公家のヤツらがどういうつもりでアンタをここに送ってきたのか理由はわからないが、とりあえず身の回りの世話は俺一人で何とかなるし、仕事を手伝ってもらえればこっちも助かる」
「それはありがたい申し出だし、私でも手伝えることがあれば喜んで」
「よし、じゃあ決まりだな。改めてよろしく頼むよエレナお嬢様」
「あ、ありがとう。でも…もうお嬢様なんて呼び方はやめて。私はもう爵位の家の人間ではないのだから」
自分で言葉にすると何だか泣きたくなったが、すっと息を吸って心を静めた。それに、今度はこちらが聞く番でもある。
「リッド、貴方の素顔を見せてもらうことはできないのかしら。その、奇妙な縁ではあるけれど、せっかくだし一緒にお食事できたら嬉しいわ」
「ああ、これか」
リッドは顔を覆う生地をつまんでみせる。
「まあ。そこは追々ということで。別に大層な顔面がしまってあるわけじゃないからな、変な期待はしないでくれよ」
「あら、それは残念」
リッドは目元だけで笑みを見せ…すぐに鋭い目つきに変わる。
「俺がこの屋敷に来て4年が経つんだけど、来客なんて一度もなかったんだ。正直に言って、絶対におかしい。アンタが破談されたことも含めて、今の大公家、何か起こってるんじゃないか」
「何か…起こってる…」
そうなのかしら。デイビットとの縁談は、伯父様のお力添えもあって2ヵ月ほどで段取りが決まった。
私もデイビットも何度か会う機会があったし、縁談として成立した時にも特に気になることはなかったのだけれど。
「そういえば、ミリアもアーサーも、何とも言えない顔をしていたわね」
「お、大公家の兵士か誰かか?」
「ううん、ミリアは妹で、アーサーは、その…」
「なんだ男か」
「そんな言い方はやめて。その、大切な人であることは否定しないけど」
アーサー。我がランバート公爵家と長く歴史を共にしてきたレギウス家の跡取り。私とミリアの大切な幼馴染、そして大切な…。
「婚約の話をした時、二人とも、喜んでくれているような、でも寂しそうにもしてくれて…」
不意に涙が溢れ、頬を伝った。次の言葉に詰まる。
「ああ、そうよ、ミリアも寂しそうな顔をしてくれたもの、そんな、ミリアを恨めだなんてそんなこと…」
考えがまとまらない。涙は止まらない。はしたなく鼻をすすると、リッドが真っ直ぐに私を見ていた。
恥ずかしくなった私はグラスのワインを一気に飲み干す。
「おいおい、そんなに飲んで大丈夫か」
「失礼なこと言わないで。私もう18よ、この程度の酔いで髪がもみくちゃになるものですか」
「ははっ、酔ってるって。驚いたよ、噂ではもっと無表情な人形だって聞いてたから」
「こんなところまで噂が届くの? だいたい来客なんて一度もなかったんでしょ」
「絡むなよ、例えば食材調達の時でも人と話すことはあるさ」
「ああそう」
こりゃ限界かな、とリッドは呟き席を立つ。
「さあお嬢様、今日はとにかくお疲れだ。部屋に戻ってゆっくり休んでくれ」
「それは…ええ、そうね。ごちそうさまリッド、いろいろありがとう、本当に」
そう告げて私は2階の部屋に戻り、倒れ込むように眠ってしまった。
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