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Episode5

恐々とする勇者

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 しかし。

ここで「ああ、そうですか」と話を終えるのも癪だ。不満がなくとも前の三人のようにオレにやってもらいたいことの一つや二つあるかもしれない。食い下がって聞いてみる事にする。

「なら不満とはいかずともオレにしてもらいたい事とかでもいい。ここまでの旅の礼も兼ねていると言っても過言じゃない。日頃から世話になっている恩にも報いたいと思っている」
「殊勝な心がけじゃねえか」

 アーコは嫌らしく笑う。その顔を見て、オレは自分の考えを少しだけ後悔した。

「そうだな、何をやってもらおうか」
「お手柔らかに頼む…」

 オレはアーコが何を言い出すのかと恐々としながら待っていた。

 しばらくフワフワと空中を漂いながら考えていたアーコは妙案を思いついたような顔をこちらに向けてくる。

「あ、そう言えば不明不満があったな」
「え? さっきはないと言っていただろう」
「お前には持っていないさ、お前にはな」
「…」

 随分と含みのある言い方だ。

 つまりはオレは以外の誰かには腹に据えかねている何を持っているという事。そしてアーコがそれほどまでに鬱憤をため込む相手など一人しかしない。

 オレはアーコのやろうとしている事に当たりを付けた。

「ルージュをからかう手伝いでもしろって事か?」
「お、察しがいいな」

 やはりか。アーコはニヤニヤとした笑みを向けながらオレに一つ命令してきた。

「よし。それなら調理場に戻ってルージュにキスでもしてもらおうか」
「キ、キス?」
「ああ。色恋はあいつの数少ない弱点だからな。しかもテレパシーを切っている今なら悟られる事もないし、絶好の機会だ。あの野郎の慌てふためく姿を傍で爆笑させてもらうぜ」

 …確かにテレパシーの切れている今のタイミングであれば普段はできないような悪戯が可能だ。そう指摘されてオレの中にも一つの妙案が浮かんだ。

「…なら、いつか見せたようにオレ達と同じような大きさになれるか?」
「あ? なんでだよ」
「心が読めないとしてもルージュは中々の手練れだ。一瞬でいいから隙を作りたい。部屋に戻っていきなりお前のサイズが変わっていたら、きっと分析に気を使ってキスをするくらいの間はできるかもしれない」
「なんだ、お前も乗り気だな。やっぱりフォルポス族の姿から色々変えてやって正解だったぜ」

 などと心を弾ませながら張り切ってアーコは姿を変える。

 しかし、お前は一つ勘違いをしている。オレが思いついている妙案というのはルージュに対してのモノではなく、お前をからかってやるためのアイデアなのだ。
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