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Episode5
引き留められる勇者
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「ピオンスコ、お前たちが『螺旋の大地』から『囲む大地』に送られてきて俺達に会うまでどのくらいの期間があったんだ?」
「ええと…正確に数えていた訳じゃないけど、三カ月くらいだったかな」
「わ、私もあの森でザートレさん達と会うまではそのくらいだったと思います」
ラスキャブがピオンスコに捕捉するように付け足す。確かに最初に出会ったあの森で暮らしていた期間を考えれば、以前の記憶が無くなっていたとしても状況整理には使える。
いずれにしてもおよそ四カ月前まで魔王軍は『囲む大地』に魔族を送り込んでいたというのは間違いない様だ。
だがこんな子供たちまで送り出す必要があるのか?
子どもまで敵地に送り込まなければならない程に魔王軍は疲弊している?
いや、ルーノズア得た情報によると魔族をわざと隷属させ、裏切らせることで奇襲を仕掛ける作戦だとも言っていた。ともすれば、考えたくもないがこういった子供の方がより浸透させやすいとも言えるか。
いや、ダメだ。何を考えても憶測の域を出ない。状況から判断できることも、トマスの言うように城の中で研究をしていたような獣が出歩けるようになっているくらい魔王の城に異変が発生しているという指摘以上の事は分からない。
しかし戦士としての勘、というモノに頼ればできるだけ急いで事を起こした方がいい気がしてならない。
ついて早々だがラスキャブ達は十二分に休息を得て、体力は十分のようだ。行動を起こすにしてもなるたけ秘密裏に動きたいオレ達にしてみれば、夜の方が都合がいい。
オレはすぐに出発する旨を全員に伝えた。流石に数度引き留められはしたが、この場の全員がオレがどういう奴なのか十分に熟知してくれている。何を言わずともニッと口角を上げるだけで、みんなが諦めてくれた。
けれども、珍しくラスキャブが食い下がってきた。
「せ、せめてこれは食べてください」
「そうです、ザートレさん。レイク・サーペントとの戦いも勝ちこそしたようですが消耗も大きかったでしょう。食事くらいはしてもいいのでは…それとも無事に辿り着くのをひた向きに信じて待っていたラスキャブの手料理は不要ですか?」
「いや、そうはいっていないが…」
「俺も酒がないんだったら少し休ませてくれ。あの性悪を体に入れてたんだ、少しは気遣ってくれたって罰は当たんねーぞ」
アーコがそんな愚痴を言う。するとジェルデが妙案を思いついたような顔をしていった。と、言うよりもその愚痴こそがアーコの作戦だ。
「酒ならまだ船内にある。取ってこよう」
「ジェルデにも褒美とまでは言わずとも、伝説と戦士と酒の席を同じくするくらいの報奨があってもいいのではないかしら?」
「おお! それはいい!」
トマスの言葉にジェルデが声を上げる。
皆があの手この手でオレの強行軍を阻止しようとしてくる。ここまでされたのでは流石に我を押し通す訳にも行かない。確かにここからが正念場になるのだ。英気は養しなっておくべきかもしれない。
「ええと…正確に数えていた訳じゃないけど、三カ月くらいだったかな」
「わ、私もあの森でザートレさん達と会うまではそのくらいだったと思います」
ラスキャブがピオンスコに捕捉するように付け足す。確かに最初に出会ったあの森で暮らしていた期間を考えれば、以前の記憶が無くなっていたとしても状況整理には使える。
いずれにしてもおよそ四カ月前まで魔王軍は『囲む大地』に魔族を送り込んでいたというのは間違いない様だ。
だがこんな子供たちまで送り出す必要があるのか?
子どもまで敵地に送り込まなければならない程に魔王軍は疲弊している?
いや、ルーノズア得た情報によると魔族をわざと隷属させ、裏切らせることで奇襲を仕掛ける作戦だとも言っていた。ともすれば、考えたくもないがこういった子供の方がより浸透させやすいとも言えるか。
いや、ダメだ。何を考えても憶測の域を出ない。状況から判断できることも、トマスの言うように城の中で研究をしていたような獣が出歩けるようになっているくらい魔王の城に異変が発生しているという指摘以上の事は分からない。
しかし戦士としての勘、というモノに頼ればできるだけ急いで事を起こした方がいい気がしてならない。
ついて早々だがラスキャブ達は十二分に休息を得て、体力は十分のようだ。行動を起こすにしてもなるたけ秘密裏に動きたいオレ達にしてみれば、夜の方が都合がいい。
オレはすぐに出発する旨を全員に伝えた。流石に数度引き留められはしたが、この場の全員がオレがどういう奴なのか十分に熟知してくれている。何を言わずともニッと口角を上げるだけで、みんなが諦めてくれた。
けれども、珍しくラスキャブが食い下がってきた。
「せ、せめてこれは食べてください」
「そうです、ザートレさん。レイク・サーペントとの戦いも勝ちこそしたようですが消耗も大きかったでしょう。食事くらいはしてもいいのでは…それとも無事に辿り着くのをひた向きに信じて待っていたラスキャブの手料理は不要ですか?」
「いや、そうはいっていないが…」
「俺も酒がないんだったら少し休ませてくれ。あの性悪を体に入れてたんだ、少しは気遣ってくれたって罰は当たんねーぞ」
アーコがそんな愚痴を言う。するとジェルデが妙案を思いついたような顔をしていった。と、言うよりもその愚痴こそがアーコの作戦だ。
「酒ならまだ船内にある。取ってこよう」
「ジェルデにも褒美とまでは言わずとも、伝説と戦士と酒の席を同じくするくらいの報奨があってもいいのではないかしら?」
「おお! それはいい!」
トマスの言葉にジェルデが声を上げる。
皆があの手この手でオレの強行軍を阻止しようとしてくる。ここまでされたのでは流石に我を押し通す訳にも行かない。確かにここからが正念場になるのだ。英気は養しなっておくべきかもしれない。
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