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Episode5
言いそびれる造反者
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「ところで、今から何作るの?」
「お肉と野草がいっぱいあるからスープをベースにして、食べ応えは麺で補おうかなって思って」
「わあ! 美味しそう!」
話を聞いただけなのにまるで実物が出てきたかのようにピオンスコは喜んだ。
ラスキャブは食料調達の役に立てなかったことを理由に調理の一切を買って出た。手際よく小麦粉に水と見慣れない木の実の果汁を練りこみ生地を作っていく。しかしソレを伸ばして麺に成形する気配が一向に感じられず、ぼんやりとラスキャブの料理を見ていたトマスは不思議に思っていた。
するとラスキャブはピオンスコを呼び、彼女から短剣を借りた。短剣はよく研いであり、鈍い光沢のあるその刃は傍目にも切れ味が鋭いことが容易に見て取れた。短剣を持ったラスキャブは、自分の頭ほどもある生地の乗ったまな板を抱えた。そしておもむろにその生地を短剣で削るように切り始めたのだ。
細かく切られた生地が沸騰した鍋の中に入り、ぐつぐつと煮られるうちにどんどんと不思議な形の麺になっていく。その様子を見ていたピオンスコは元より傍にいたトマスさえもまるで子供のようにキラキラとした目になっていた。
やがて茹で上がった麺と別で拵えていたスープを合わせると、待ちに待った食事の時間となった。
「できました。どうぞ」
周囲の散策やイナゴの操作に集中していたジェルデとトスクルはラスキャブの調理過程を知らないので味の評価以外に特に言及はしなかったが、トマスとピオンスコは味わったことのない麺の食感をも楽しんでいた。
「うまいな」
「あ、ありがとうございます」
「あんな作り方は初めて見た。『囲む大地の者』の調理なのか?」
「え?」
トマスの何気ない一言にラスキャブはつい固まってしまう。つい先ほど自分のしていたことだというのに、その時の自分の考えがまるで思い出せないのだ。
「えと…すみません。身体が勝手に動いていまして、そう言えばなんでこんな料理が作れたんだろう」
「ラスキャブは昔っから料理が上手だったよ」
「そう、なの?」
「うん。ね、トスクル」
「はい。よく野外で料理を作ってくれてたのでこのくらいは簡単でしょうね」
「うーん」
ラスキャブは困ったように考え込んでしまう。トマスは訳ありだろうと思って詳しく追及するのは控えることにした。それと同時に以前、まだこの『螺旋の大地』で生活をしていた頃に同じ味付けのスープを飲んだ事があるという他愛もない雑談の言葉もタイミングを失って言いそびれてしまった。
「お肉と野草がいっぱいあるからスープをベースにして、食べ応えは麺で補おうかなって思って」
「わあ! 美味しそう!」
話を聞いただけなのにまるで実物が出てきたかのようにピオンスコは喜んだ。
ラスキャブは食料調達の役に立てなかったことを理由に調理の一切を買って出た。手際よく小麦粉に水と見慣れない木の実の果汁を練りこみ生地を作っていく。しかしソレを伸ばして麺に成形する気配が一向に感じられず、ぼんやりとラスキャブの料理を見ていたトマスは不思議に思っていた。
するとラスキャブはピオンスコを呼び、彼女から短剣を借りた。短剣はよく研いであり、鈍い光沢のあるその刃は傍目にも切れ味が鋭いことが容易に見て取れた。短剣を持ったラスキャブは、自分の頭ほどもある生地の乗ったまな板を抱えた。そしておもむろにその生地を短剣で削るように切り始めたのだ。
細かく切られた生地が沸騰した鍋の中に入り、ぐつぐつと煮られるうちにどんどんと不思議な形の麺になっていく。その様子を見ていたピオンスコは元より傍にいたトマスさえもまるで子供のようにキラキラとした目になっていた。
やがて茹で上がった麺と別で拵えていたスープを合わせると、待ちに待った食事の時間となった。
「できました。どうぞ」
周囲の散策やイナゴの操作に集中していたジェルデとトスクルはラスキャブの調理過程を知らないので味の評価以外に特に言及はしなかったが、トマスとピオンスコは味わったことのない麺の食感をも楽しんでいた。
「うまいな」
「あ、ありがとうございます」
「あんな作り方は初めて見た。『囲む大地の者』の調理なのか?」
「え?」
トマスの何気ない一言にラスキャブはつい固まってしまう。つい先ほど自分のしていたことだというのに、その時の自分の考えがまるで思い出せないのだ。
「えと…すみません。身体が勝手に動いていまして、そう言えばなんでこんな料理が作れたんだろう」
「ラスキャブは昔っから料理が上手だったよ」
「そう、なの?」
「うん。ね、トスクル」
「はい。よく野外で料理を作ってくれてたのでこのくらいは簡単でしょうね」
「うーん」
ラスキャブは困ったように考え込んでしまう。トマスは訳ありだろうと思って詳しく追及するのは控えることにした。それと同時に以前、まだこの『螺旋の大地』で生活をしていた頃に同じ味付けのスープを飲んだ事があるという他愛もない雑談の言葉もタイミングを失って言いそびれてしまった。
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