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Episode5
嫉妬する反乱者
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「どうした?」
「ねえ、アタシ達ってどっちから来たの?」
「んん? 船尾の方角からだが…」
ジェルデはそう言って拠点の方を指さした。ここからだと辛うじてトスクルたちの姿が見える。
「違う違う。レイク・サーペントから逃げてきた時だよ」
「ああ、そういうことか。ならば真西からだ」
改めて指で西を指し示す。するとピオンスコは満面の笑みになった。
「あっちか。だったら船をぐるりって戻せる? ここに来る途中によさそうな場所会ったの思い出したんだ」
「わかった。旋回しよう、細かな場所は教えてくれ」
「オッケー!」
危機的、とは言わずとも楽観視ができぬ状況においてでもピオンスコは無邪気に振る舞っている。これは強がりなどではなく、本人の生まれ持っての気質によるものだろう。彼女はズィアル達のパーティの楔なのではないかと、ジェルデは感じ取っていた。
個々の目的や戦う動機は見当もつかないがジェルデの目には、ズィアル達はよく言えば真面目、悪く言えば精神的に余裕がないように映っていた。その研ぎ澄まされたストイックさが彼らの強さなのかもしれないが、しなやかさのないものは同時に折れやすいことも知っている。
同乗していた三人は大人びてはいるが精神的には未熟さが残っているように思える。しかし、ことピオンスコにおいてはそれが良い形でパーティに作用していると見受けられた。きっとここに至るまでの道中もピオンスコの天真爛漫さに心を軽くさせられた場面も多いことだろう。
その時、ピオンスコが嬉々として言った。
「ほらここ! 枝が伸びすぎて垂れてきてるんだ。岸も窪んでるからこのくらいの船だったら入ると思う」
「確かに。入江からも離れていないし、丁度いいかも知れんな」
「でしょ!」
すぐさま服を乱暴に脱ぎ捨てたピオンスコは、そのまま躊躇いもなく湖に飛び込んで岸まで泳いで行ってしまった。そして身軽に枝を掻き分けて船を停泊させるための用意をテキパキと熟し始めた。
そんな様子を眺めていると、ジェルデはピオンスコの…いやズィアル達のこれまでの道程を知らぬままに夢想する。するとだんだんと感傷的な気分になってしまう。
歴戦の戦士たるジェルデは出自、性格、能力、目的の違う面々が団結し事に臨み、全員が一体となる快感を知っている。だからこそだろうか。ズィアル達を見ていると、自分の中にふつふつとある感情が沸いて出てくる。
きっと、羨ましいのだ。
そう思った時、ジェルデは自分の心を自分で打ち消し、否定した。
「いや違う。どちらかと言えば、これは嫉妬だな」
そして自分の耳にも届かないほどに小さな声で彼は呟いた。
「ねえ、アタシ達ってどっちから来たの?」
「んん? 船尾の方角からだが…」
ジェルデはそう言って拠点の方を指さした。ここからだと辛うじてトスクルたちの姿が見える。
「違う違う。レイク・サーペントから逃げてきた時だよ」
「ああ、そういうことか。ならば真西からだ」
改めて指で西を指し示す。するとピオンスコは満面の笑みになった。
「あっちか。だったら船をぐるりって戻せる? ここに来る途中によさそうな場所会ったの思い出したんだ」
「わかった。旋回しよう、細かな場所は教えてくれ」
「オッケー!」
危機的、とは言わずとも楽観視ができぬ状況においてでもピオンスコは無邪気に振る舞っている。これは強がりなどではなく、本人の生まれ持っての気質によるものだろう。彼女はズィアル達のパーティの楔なのではないかと、ジェルデは感じ取っていた。
個々の目的や戦う動機は見当もつかないがジェルデの目には、ズィアル達はよく言えば真面目、悪く言えば精神的に余裕がないように映っていた。その研ぎ澄まされたストイックさが彼らの強さなのかもしれないが、しなやかさのないものは同時に折れやすいことも知っている。
同乗していた三人は大人びてはいるが精神的には未熟さが残っているように思える。しかし、ことピオンスコにおいてはそれが良い形でパーティに作用していると見受けられた。きっとここに至るまでの道中もピオンスコの天真爛漫さに心を軽くさせられた場面も多いことだろう。
その時、ピオンスコが嬉々として言った。
「ほらここ! 枝が伸びすぎて垂れてきてるんだ。岸も窪んでるからこのくらいの船だったら入ると思う」
「確かに。入江からも離れていないし、丁度いいかも知れんな」
「でしょ!」
すぐさま服を乱暴に脱ぎ捨てたピオンスコは、そのまま躊躇いもなく湖に飛び込んで岸まで泳いで行ってしまった。そして身軽に枝を掻き分けて船を停泊させるための用意をテキパキと熟し始めた。
そんな様子を眺めていると、ジェルデはピオンスコの…いやズィアル達のこれまでの道程を知らぬままに夢想する。するとだんだんと感傷的な気分になってしまう。
歴戦の戦士たるジェルデは出自、性格、能力、目的の違う面々が団結し事に臨み、全員が一体となる快感を知っている。だからこそだろうか。ズィアル達を見ていると、自分の中にふつふつとある感情が沸いて出てくる。
きっと、羨ましいのだ。
そう思った時、ジェルデは自分の心を自分で打ち消し、否定した。
「いや違う。どちらかと言えば、これは嫉妬だな」
そして自分の耳にも届かないほどに小さな声で彼は呟いた。
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