魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode5

涙ぐむ反乱者

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「よかった」

 トスクルはそう呟いた事に、自分でも少し驚いた。思った以上に自分はザートレ達に信頼を寄せているのだと。少し前までなら『囲む大地の者』にこんな感情を抱くことはなかっただろうという思いが生まれたが、ラスキャブ達にいい報告ができると自分で自分の照れ隠しをした。

 何はともかく大よその無事は確認できた。ともすれば到着は時間の問題だろう。生み出されるイナゴは魔法製で、母体であるトスクルの命令を単純ながら遂行するように動く。あの時のイナゴには自分のところにザートレ達を連れてくるように命じておいて正解だったと、咄嗟の自分の機転を褒めたい気分だ。

 もう少し時間が経てばより正確な位置と移動速度などから到着時刻を予想することもできるだろう。

 だから、現段階で自分にできることはなくなった。

 そう結論付けたトスクルは、ラスキャブへの報告がてらに料理の手伝いをしに向かったのだった。

 ◇

 その頃。

 ピオンスコとジェルデは船を隠すための場所を探して、沿岸を進んでいた。『螺旋の大地』は全体を森で囲まれているのではないかと思えるほどに隙間なく樹海で覆われている。先ほどまで降りていた入江が一部例外であり、他はこれでもかと外部からの侵入を拒んでいるかのようだ。

 が、今はそれがありがたい。うっそうと生い茂る草木はカモフラージュにはもってこいだからである。人の手が加わっていない枝々は岸を軽々と飛び越えて少しでも陽の光を浴びようと青い手を伸ばしていた。

「この辺りはどうだ?」

 ジェルデは岸の一部を指さしてピオンスコに言った。トマスとトスクルの二人が強く推すので連れてきたが、果たしてどれほどのものかと期待と不安が入り混じった感情はなるべき表に出さないように心掛けて。

 木々の枝で薄暗くなっていて、隠す分には適していると素直にそう感じた。

「うーん、あそこはなぁ…」

ジェルデはてっきり二つ返事で決まるモノかと思っていたので、渋るピオンスコに理由を尋ねた。

「何故じゃ? 木の影になっていてよさそうなものだが」
「今の時間だからね。明日の昼には丸見えになっちゃうよ、あそこは」
「む、そうか」

 ジェルデには遠征や護衛の任務で何度か夜営をした経験はあるが、それはほとんどが一夜限りのもの。長期間に及ぶ潜伏は事実上、初めての事だ。だから本能的に長期の潜伏を見越した指摘をしてきたピオンスコには目から鱗が落ちるような思いだった。

 尤もピオンスコのそれは論理的な思考とは真逆の本能と勘によるもの。それはジェルデも気が付いている。うまく順路立ててやらないといつの間にかとんでもない事に陥ってしまうだろう。

 ジェルデはかつて、パーティを組み若手を指導育成していた頃の事を思い出していた。するとピオンスコの無邪気な様子と相まって、不意に目頭が熱くなってしまい、年を取ったなと自分で自分を笑った。

「しかし、拠点からあまり離れては本末転倒だ…」
「あ、そうだ!」

 その時ピオンスコが何かを思い出したように声を上げた。
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