魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode4

決意する勇者

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 予想通り、ルプギラを使うほどの速度は出なかったがはるかに静かに移動できる。レイク・サーペントがオレの仮説通りに音によって標的の位置を確認しているのなら、ひとまずは安全圏には逃げられるが…。



 ただ、オレの中の勘がこのままでは終わらないと教えてくれている。



 わざわざ狼の姿を取らなくても、予感めいた感覚がねっとりと肌にまとわりついているのだ。それは杞憂であってほしいと願っていたが、どうやらオレが感じているプレッシャーは皆も感じ取っていたようで、全員が未だに安どの表情を浮かべられずにいた。



 そして、その予感の的中は案外早く訪れた。



 突如として船の後方の湖面が山のように突起したかと思うと、それは大波を巻き起こしながらはじけ飛ぶ。するとその中心から、大木を思わせる巨大な何かが現れた。赤紫色の皮膚はぶよぶよと気味の悪い触感を視覚から訴えてくる。寓話の中では蛇の姿で描かれていたので、リアルとのギャップに少々面食らってしまった。



 しかも違っていたのは質感ばかりではない。



 表面には細かな目が不規則に散らばっていた。一見すると模様のように見間違えてしまうほどに。



 それを見てオレはすぐに危機が終わっていない事を悟った。奴が船の位置を把握したのは音ではなく、その無数の目で見ていたからに他ならない。ともすれば、ルプギラを止めたことは無意味ばかりか、いたずらに速度を落としただけの結果しかもたらさなかったという事になる。



「…仕方がない。戦うか」



「え? は?」



 オレが呟く鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたジェルデが、その顔に違わぬ素っ頓狂な声を出した。屈強な男の間抜け面というのは、なぜこうも面白いのだろうか。



「あ、アレと戦うつもりか」



「ああ。逃げるには分が悪い。それに水中から顔を出してくれたのなら、手の出しようがある」



「本当に戦うつもりか…」



「とにかくそっちは船を動かして、奴から逃げろ。オレとルージュ、それと……アーコきてくれるか?」



「おう」



 一瞬、こっちの戦力用に置いていこうかとも迷ったが、逃亡だけならなんとかなるだろうと目算した。このパーティの中で唯一、自由飛行ができるアーコはやはりこちら側にいてほしかった。



「ラスキャブたちはジェルデの指示を受けて船の操作に協力してくれ。流石に湖面の上ではオレも満足にサポートできん」



 そういうと、三人は何かを言いたげな表情を必死にこらえて首を縦に振ってくれた。するとレイク・サーペントが沈黙を破り、不気味な咆哮を上げ、狙いをこの船に定めたのだった。
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