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Episode4

喜ぶ勇者

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 しかしその場合、懸念も生まれてしまう。



「ここから先は移動手段が同じなだけで目的は変わってくる。そちらの決定にとやかく言うつもりはないが…些か人数が少なくないか? 船仕事にオレ達を当てにされると困る。戦闘以外は門外漢なんだ」



「大丈夫だ。アンタたちにそんな負担は強いらないさ。こちらにも用意がある」



 ジェルデはそう言ってツカツカと船室の窓の方へ歩いていった。そして窓の外の景色を指さしながら言った。



「見えるか? あれをこの船に積み込む」



「アレは…?」



 オレ自身も初めて見る代物だった。



 遠目には一瞬馬車に見えた。中央の鉱石を大きな車輪で挟み込んでいるからだ。ただよく見るとそれは車輪ではなく、巨大な歯車だった。全てが金属製の謎の装置は見た目からして重量感があり、屈強な体つきの男たちが何人も集まって慎重に運んでいる。



「残っていてくれて助かりました」



 ジェルデの期待に満ち満ちた声を聴くに、アレが今回ジェルデ達が打ち立てた作戦の要になるものだという事は間違いない。しかしそれが何であるのか知れぬうちは、オレ達はその安心感を共有することができないでいた。



 だが、すぐにオテムメトが細くするように種明かしをしてきてくれたので助かった。



「あれはルプギラと呼ばれている装置です」



「ルプギラ?」



「はい。仕掛けはいたって簡単です。中央に固定している緑色の鉱石に魔力を注ぎ込むと、両脇にある歯車が回転します。あれを船尾に取り付けた上で使えば、凪いだ湖ででも大きな推進力が得られます」



 そんな説明を聞いている途中、アーコがぼそりと呟いた。



「にしても大げさな機械だな。運んでる連中を見てるとむさ苦しくていけねえや」



「何分、中央の緑色の鉱石が不可思議な品でして…水には浮かぶのに陸に上げるととてつもない重さになってしまうのです。元々備え付けてあった船に乗れれば都合が良かったのですが、そちらは戦火に巻き込まれて半壊してしまい、急ぎこの船につけ直しているので」



「まあいずれにせよ。確かに帆船が風の影響を無視できるというのは大きいな」



「うむ。幸いなことに儂にはトマスが付いてきてくれる。こやつに動力を任せ、儂は操舵を請け負う。『螺旋の大地』なら一日でつく計算だ。ズィアル殿たちにはなるたけ不便は掛けぬつもりだから安心してほしい」



 それはありがたい話だ。てっきり十数年前と同じく二、三日は船に揺られるのを覚悟していた。船上での生活は想像以上にストレスになるし、そうでなくとも時間はいくら短縮できたところで困らない。嬉しい誤算と言う奴だった。
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