魔王に捨てられた剣を振るのはパーティに捨てられた勇者 【Episode5連載中】

音喜多子平

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Episode4

再燃する勇者

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 この技を使った時に頭に過ぎったイメージは水面に石を投げ込んだ時にできる波紋だった。



 音を使った攻撃である特性上、味方を巻き込まないように気を配らなくてはならない。口から発した遠吠えは目にこそ見えないが、波紋のような広がりをもってオレから前の空間を瞬く間に包み込んでいく。



 魔王の生き人形に繰り出した攻撃が声の凝縮とするならば、こちらは声の拡散といったところだろうか。魔力を声に乗せて広範囲への攻撃として利用する。その分、威力が落ちるのがネックだったが…。



 ところがオレの予想とは裏腹に多くの魔族たちが激しい頭痛に襲われたような動きを見せ、バタバタと倒れていく。吠え終わる頃には、魔王の生き人形を除けば立っていられたのは、距離を保ち続けた人形使いとその僅かな取り巻きだけだった。喉から伝わってきた感覚を信じれば大した威力ではないはずなのに、一体何が起こったというのだろうか。



 その疑問の答えは、すぐにルージュが種明かししてくれた。



(ふむ。うまくいったようだな)



(ルージュ、お前が何かしかけたのか?)



(ああ。主の声に私の魔法も付与してみた。耳から入って脳に一時的な記憶障害を起こさせて混乱させてやった。魔法抵抗の少ない連中は歩き方や剣の持ち方を忘れたり、自分が誰なのか分からなくなったりしているはずだ。まあ私の精神感応魔法の応用だな)



 見れば確かに呂律が回らなくなったり、目が虚ろになっている魔族が見受けられた。水面下で中々にえげつないことをされていたようだ。



(重ねて言うがアレは一時的なもの。回復する前に方をつけるべきだ)



(ああ。そのくらいは分かっているさ)



 オレは四本足のそれぞれに力を込めた。足先の爪が弧状に伸びて石畳をガリッと削るような感覚が伝わってくると、こちらを不気味に見据えている魔王の生き人形に向かって全力で駆けだした。



 体中の血液が沸騰してしまったのかと思えるほど体が熱くなる。狼の姿では汗が出ないせいで体温の調節は専ら口呼吸で行うしかない。オレは次第に息が荒々しくなっていく。けれどもオレの頭の中は反比例するように冷たく、物静かな思考へとシフトしていった。



 抜け殻かもしくは糸の切れたマリオネットのようにだらしなくうな垂れる魔族の一団を大きく飛び越える。それを確認したせいか、はたまた間合いに入ったと認知したのか、魔王の生き人形はオレに向かって猛攻を仕掛けてきたのである。



 人形という事が分かったせいで平静を保てていたが、いざ戦闘態勢に入り、その上で最も忌むべき男と瓜二つの顔を持つアレを目にすると、途端に身震いするような怒りが込み上げてきたのだった。
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