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Episode4

呟く勇者

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 直後、冷静に右側の足場に目をやれば瓦礫や家屋の木材が微妙なバランスで折り重なっていた場所であり、狼一匹とはいえ不用意に体重を任せていればたちまち崩壊しそうな場所になっている。



 今の回避行動は全部を理解した上でやったことじゃない。



 全て事後処理的に把握したことだ。



 これまでの流れで大まかな予想を立てるに、狼の姿を取っているときのオレは三つの姿の中で最も五感が研ぎ澄まされ、直観的な洞察力が増す。それがこの姿の特性なのだろう。言ってしまえばかなり野性的な能力が高まるという具合だろうか。



 とはいえ、ルージュたちの精神感応やトスクルのイナゴを媒介にした諜報能力に勝るとも劣らないレベルの察知能力ともいえる。むしろ全てを併用することでより強固で安全性の高い使い方が可能になると言ってもいい。



 落ち着いて考えたいのは山々だが、ここはあくまでも戦場。ゆっくり思考を巡らせることができる機会などは滅多に訪れない。オレは敵が狙いにくいように再び不規則に走り始めた。



 どのみち未だに好戦的な魔族の存在は厄介だから始末しておきたい。オレは狼の姿での戦闘に慣れるという意味でも露払いを買って出る。前の三人には情報収集と反乱軍の進軍の時間稼ぎのために無理に戦わず勝負を長引かせることを徹底させているので、動きに不安なところはない。



 とにかく撃破したいのはやはり飛び道具使いだ。近接戦闘を得意とする奴らは巻き添えを恐れて近づこうとすらしないが、飛び道具使いたちは今なお援護に余念がなかった。



 とは言え今現在、オレ達を狙撃できるのは三人しかいない。飛び道具使いは例にもれず目視して覚られるような場所にはいなかったが、狼の察知能力を持ってすれば耳と鼻とで位置は丸裸も同然だった。



 地形を見て敵までどうやって接近するかのプランを立てる。この時も自然と湧き出てくる直観力は大いに役に立った。崩落している建物の瓦礫や柱を使い、オレはいともたやすく商店の三階を牛耳っていた狙撃兵たちの部屋へと侵入することが叶った。



 二人の弓兵は室内戦で弓矢は不利と判断したのか、咄嗟に短剣に持ち替えて応戦し始める。だが体の切れが悪すぎてまるで相手にはならなかった。二、三度相手の振りかぶった攻撃をいなしてから、隙をついて体当たりを食らわしてやっただけで盛大に家具に激突してしまい、あっけなく気絶させることができた。



 しかし…。



「…この姿の利点は多いが攻撃力の低さは問題だな」



 オレは今の戦闘でマジマジと感じた感想をポロッと漏らしていた。
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