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Episode4
慕われる勇者
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「「ト、トスクル!?」」
突然、斜め上から現れたトスクルに敵も味方も度肝を抜かれた様な顔になった。
ラスキャブとピオンスコの二人は管制役がいないせいで連携が取れず、各々が戦う形になっていた。そのせいで気付かれぬうちに徐々に敵に囲まれつつあった。トスクルはまるでダンスを踊るかのように華麗なターンを決めながら四方八方へイナゴをばら撒いた。攻撃力は無いに等しいが、一時的な混乱なら引き起こせる。案の定、自分たちを囲っていた魔族は、何事かと思い攻撃の手を緩めた。
その隙にトスクルは二人の襟首を掴むと再び跳躍して敵の包囲網から抜けた。尤も次のジャンプは二人分も体重が増えていたせいで大した飛距離にはならなかった。
「あ、ありがとう。トスクル」
てっきり自分たちの危機を助けに現れたのだと思ったラスキャブは反射的にお礼を述べた。
しかしトスクルはそれを完全に無視して二人を叱責した。
「二人とも戦い方が全然ダメ」
「ふぇっ!?」
ラスキャブは驚き、ピオンスコは怒りをもってそれに応える。
「何をー!? ちゃんと戦ってたよ。何人もやっつけたし!」
「それで全部やっつけられたらいいけど、敵に囲まれてたでしょ」
「うー」
「できない事は出来ないって言って。助けてほしかったら助けてって言って。わかった?」
「「…はい」」
と、意気消沈して返事をした二人を見てトスクルは満足そうに微笑んだ。
「よし、じゃあ今から三人で戦おう。昔みたいに」
昔みたいに。
ラスキャブはこの言葉を聞いて一瞬悲しくなってしまった。けど目の前にいたピオンスコとトスクルの顔を見るとそれもすぐさま安心感にすり替わる。そんなことに気が付いていないトスクルは淡々と告げた。
「ピオンスコが無茶をして、私がそれをフォローして、そしてラスキャブはぴぃぴぃ言いながら私達の事を守って」
「ぴ、ぴぃぴぃは言ってないよぉ」
「記憶が戻ったの?」
「戻ってないけど…」
そういうとトスクルは鼻で笑って言い放つ。
「じゃあ私の記憶の方が正しいじゃない。とにかくあいつらを全員やっつけて、さっさとザートレさん…じゃなくてズィアルさんの所に戻ろう。ね?」
トスクルがそういうとピオンスコは力強く、ラスキャブは心細そうに頷いた。そしてピオンスコは戦いの最中だと言うのに無邪気に言う。
「みんなでズィアルさんに褒めてもらおうね」
「ズィアルさんなら頭くらい撫でてくれるかもね」
「なんだったら、キスでもお願いしてみたら?」
「ちょ、ちょ、ちょっとトスクル!? 何言い出すの?」
慌てふためくラスキャブを見て、トスクルはしてやったりという微笑みを見せた。
「だって、ラスキャブ。魔族の姿のあの人のこと、ちょっといいなって思ってるでしょ?」
「え、そうなの?」
「あ、あう、ああ」
「だって結構目で追ってるからすぐわかったよ」
ラスキャブは紅潮した顔で声にならない悲鳴を上げた。やがて鼻で思いきり肺に空気を入れると、怒りながら言った。もっとも怒り慣れていないせいでよく分からないテンションで絶叫してるだけになっているが。
「ほ、ほらぁ! 早く戦いに戻るよ!」
突然、斜め上から現れたトスクルに敵も味方も度肝を抜かれた様な顔になった。
ラスキャブとピオンスコの二人は管制役がいないせいで連携が取れず、各々が戦う形になっていた。そのせいで気付かれぬうちに徐々に敵に囲まれつつあった。トスクルはまるでダンスを踊るかのように華麗なターンを決めながら四方八方へイナゴをばら撒いた。攻撃力は無いに等しいが、一時的な混乱なら引き起こせる。案の定、自分たちを囲っていた魔族は、何事かと思い攻撃の手を緩めた。
その隙にトスクルは二人の襟首を掴むと再び跳躍して敵の包囲網から抜けた。尤も次のジャンプは二人分も体重が増えていたせいで大した飛距離にはならなかった。
「あ、ありがとう。トスクル」
てっきり自分たちの危機を助けに現れたのだと思ったラスキャブは反射的にお礼を述べた。
しかしトスクルはそれを完全に無視して二人を叱責した。
「二人とも戦い方が全然ダメ」
「ふぇっ!?」
ラスキャブは驚き、ピオンスコは怒りをもってそれに応える。
「何をー!? ちゃんと戦ってたよ。何人もやっつけたし!」
「それで全部やっつけられたらいいけど、敵に囲まれてたでしょ」
「うー」
「できない事は出来ないって言って。助けてほしかったら助けてって言って。わかった?」
「「…はい」」
と、意気消沈して返事をした二人を見てトスクルは満足そうに微笑んだ。
「よし、じゃあ今から三人で戦おう。昔みたいに」
昔みたいに。
ラスキャブはこの言葉を聞いて一瞬悲しくなってしまった。けど目の前にいたピオンスコとトスクルの顔を見るとそれもすぐさま安心感にすり替わる。そんなことに気が付いていないトスクルは淡々と告げた。
「ピオンスコが無茶をして、私がそれをフォローして、そしてラスキャブはぴぃぴぃ言いながら私達の事を守って」
「ぴ、ぴぃぴぃは言ってないよぉ」
「記憶が戻ったの?」
「戻ってないけど…」
そういうとトスクルは鼻で笑って言い放つ。
「じゃあ私の記憶の方が正しいじゃない。とにかくあいつらを全員やっつけて、さっさとザートレさん…じゃなくてズィアルさんの所に戻ろう。ね?」
トスクルがそういうとピオンスコは力強く、ラスキャブは心細そうに頷いた。そしてピオンスコは戦いの最中だと言うのに無邪気に言う。
「みんなでズィアルさんに褒めてもらおうね」
「ズィアルさんなら頭くらい撫でてくれるかもね」
「なんだったら、キスでもお願いしてみたら?」
「ちょ、ちょ、ちょっとトスクル!? 何言い出すの?」
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「だって、ラスキャブ。魔族の姿のあの人のこと、ちょっといいなって思ってるでしょ?」
「え、そうなの?」
「あ、あう、ああ」
「だって結構目で追ってるからすぐわかったよ」
ラスキャブは紅潮した顔で声にならない悲鳴を上げた。やがて鼻で思いきり肺に空気を入れると、怒りながら言った。もっとも怒り慣れていないせいでよく分からないテンションで絶叫してるだけになっているが。
「ほ、ほらぁ! 早く戦いに戻るよ!」
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