上 下
218 / 347
Episode4

叫ぶ勇者

しおりを挟む
案の定、アーコとトスクルがタッグを組み、お互いの術を掛け合わせていた。



この作業場は横の辺にいくつも通路がある。本来、ここは緊急の避難所として使われていた事を鑑みれば、この大部屋は集会所、そこから避難民の仮初の住居スペースに続いているのだろうと推測する。



 もっともこの人数だ。『囲む大地の者』たちは狭い部屋に押し込められているには違いない。そもそもまともな寝床を使わせてもらっているのかすら怪しい。



 戦う事を放棄した魔族たちは次々にその横穴に逃げていく。当然、目敏いアーコとトスクルがそれを見逃しているはずがなかった。



 さっき見せたよりは小柄なイナゴを複数体生み出すと、次々に横穴へと押し込めていった。流石に『囲む大地の者』諸共攻撃することはないだろうが、少々不安になるほどの猛攻撃だ。



 この地下迷宮と言う怪物の臓物を食い荒らす寄生虫のようにも思えた。イナゴが入り込んだ先の部屋では阿鼻叫喚な地獄絵図が広がっていると、さっきとは比較にならない程の悲鳴が物語っていた。



 ひょっとしたらイナゴは敵に追い打ちをかけると言うよりも、援軍を防ぐために放ったものかもしれない。あの二人なら、そこまで計算高いことをしていたとしても納得できる。事実、イナゴが入って行った横穴からは『囲む大地の者』は出てきても、魔族は一向に現れなかった。



 全員の動きがうまくかみ合い、こちらは最大限のパフォーマンスを発揮し、敵は最低限の動きしかできないように制限を掛けられている。仮に戦闘の試験なんてものがあるとしたら、満点に近い程上々の出来栄えだった。



 オレとルージュも速度を上げ、進行し一番前を行くラスキャブとピオンスコのコンビを追いかける。見れば二人はトマスと共に最奥の扉を開けて地上への逃走経路を確保するところだった。



 最後の防衛線を張っていた魔族を瞬く間に排除すると、扉に手を掛けた。その瞬間に、オレは悪寒を感じた。それの正体が何なのかを確認する前にオレは叫んでいた。



「ラスキャブ、ピオンスコッ!! そこから離れろッ!!!」



 オレ達の役に立とうと躍起になっていたのであろうピオンスコは、突然の事にキョトンとした顔をこちらに向けるのが精一杯だった。



 木製の大きな扉は急に燃え上がり、爆発四散して吹き飛んだ。その衝撃や破片は近くにいた者たちに容赦なく突き刺さる。幸いだったのオレの声にラスキャブが咄嗟に反応してくれたことだった。ピオンスコを抱きかかえ、身を挺して守ってくれた。ラスキャブの見た目に反した防御力は折り紙付き。あのくらいなら大事には至らないだろう。



 むしろ被害が大きかったのは、ルーノズアの戦士たちや扉の周りにいた『囲む大地の者』と魔族たち。敵味方関係なく無作為に攻撃されたのは明白だった。
しおりを挟む

処理中です...