上 下
214 / 347
Episode4

疑念抱く勇者

しおりを挟む
 オレの言葉に一同が驚きと安堵を合わせた様な滅多に見れない顔つきになった。何と言うべきか分からずにただ固まっている。その中でジェルデとトマスだけが、厳しい表情をオレに向ける。



 何かを言われる前に先手を取って明言する。



「ルーノズアの住民の解放は共通の目的だが、共に行動する必要はないだろう。むしろそっちは仲間の救出、オレ達はそれを妨害する輩の排除と役割を持った方がお互いに専念できるんじゃないか?」



「それはそうだが、しかし…」



 いまひとつ踏ん切りがつかないように皆が言葉を選んでいる。それほどの強敵という事か…それよりもオレの方が言葉を間違えてしまったと気が付かされた。裏をもって言葉を発するなんて中々ないモノだから仕方ない。



「それにな―――」



 オレは本心を思いきりぶつける。



「―――そんな強い相手なら戦ってみたい。だからオレに譲ってくれ」



 譲ってくれ、という文句にジェルデは眉間の皺を砕き、微かな笑いを返してくれた。



「わかった。言われる通り別々に動き、戦闘に関してはズィアル殿に任せよう。足を引っ張るくらいなら、ワシらは住民の解放に専念したほうが目的も達成できよう」



 さりげなく呟いた足を引っ張るくらいなら、と言う言葉をズィアルとトマスは聞き逃さなかった。ジェルデは湖港英傑と祀り上げられる程には戦いを熟知している歴戦の戦士。立ち振る舞いか声に乗った気概か何かは分からぬが、少なくとも共闘したのではズィアルの足を引っ張る形になると判断したのだろう。



 という事は、とトマスは思った。



(という事は、ジェルデと大きく差のある力を持っている訳じゃない私もきっとお荷物になるだろう)



 それを自覚した時、トマスは人知れず笑った。強い奴と戦ってみたいという感覚は彼女も理解の及ぶ感覚だ。遅れながらズィアルに共感したのだった。



 やがて作戦会議は一段落を見せ、各々が役回りを把握した。結局のところ、ジェルデとオレの組が二手に分かれて互いをサポートし合い、捕虜の救出の後、この地下からの脱出を目指す。



 ジェルデが最後の最後で確認で漏らした事項はないかどうか全員に尋ねた時、オレの後ろで沈黙を守っていたアーコが突如として前に躍り出てきた。



「なあ、一ついいか」



 事前の打ち合わせで、話し合いに参加するのは原則としてオレ一人と決めていた。あとは余程の事がない限りは黙って待機してもらう手筈になっている。それを敢えて乗り出してきたという事は…何か重大な見落としをしていたか?
しおりを挟む

処理中です...